第30話「まわりまわって」
「梅雨入りか。毎日、雨ばっかりで、洗濯物が乾かへんなぁ」
「ほんま、憂鬱やわぁ。傘、持ってきておいて正解やったわ」
「折り畳みは、必須やな。雨の日でも元気なのんは、小学生ぐらいまでやな。雨合羽を着て、長靴を履いて」
「あんな感じで、水溜りにジャンプするわけやね。あら?」
「あっ、この前に公園に居った、お二人様や」
「俺らは、ファミレスの客やないぞ、昇くん」
「今日は一人なんやね、昇くん」
「自転車を買って貰うたから、ドライブしてるねん。ええやろう?」
「自転車は、サイクリング。ドライブは、自動車や。路上駐輪して、ほったらかしにしとったら、派手な色のベストを着たおっちゃんに、持って行かれるで?」
「この辺は、駐輪禁止やもんね。ふぅん。まだ、コマ付きなんや」
「コマツキ?」
「うしろの車輪の横にある、補助輪のことや。ほら。向こうの自転車置き場にある大人用には、そんな車輪は付いてへんやろう?」
「コマでは、わからへんか」
「ほんまや。大人やなぁ」
「意味、分かってるんかいな」
「何となくは、わかってるのんと違う?」
「今日は、何を持ってるのん?」
「これか? 回転焼きや」
「一つ、あげようか?」
「買い食いしたら、ご飯が食べられへんようになるし、余所の人に貰い物したら、連れて行かれるかもしれへんよ、って言われてるからなぁ」
「こんな見通しのええところで、誘拐も出来へんやろうに」
「それに、これぐらい食べても、大丈夫やって。内緒にしてたら、ええんよ。粒あんと白あんのどっちが良い?」
「クリームとか、抹茶とか、チョコレートとかは?」
「鯛焼きと勘違いしてへんか?」
「回転焼きって、これのことやで、昇くん?」
「太鼓饅頭や」
「これも、呼びかたが違うたんやなぁ」
「大判焼きとか、今川焼きとか、御座候とか、色々あるもんねぇ」




