第29話「市立図書館にて」
「まだ語彙が少ない子供に、細かなニュアンスを伝える時には、オノマトペが役に立つので、有効活用しよう、って北条先輩のメモがある」
「ただし、外国人のように文化圏が異なると、かえって分かりにくいと思われる、という東野先輩のメモが続いてるけど、どういう場面やったんやろう?」
「分からないっすねぇ。生徒会で、保育所の三歳児クラスの子に、読み聞かせに回るって言うてもなぁ」
「ピンと来ぇへんのか、会計くん?」
「とりあえず、絵本を探そうやないの」
「そうやな、書記さん。昨年は、桃太郎やったみたいやから、今年は外国の話がええと思うんやけど、どない?」
「それがええんと違うかな。礼多くんは、どない?」
「二人に賛成っす」
「ほんなら、絵本を借りに行こうか」
「ええっと。児童書の、絵本コーナーは」
「この辺っすね。結構、ぎょうさんあるんやなぁ」
「グリム童話なら、ブレーメンの音楽隊、蛙の王様、ラプンツェル、茨姫、赤頭巾ちゃん、ヘンゼルとグレーテル、青髭、杜松の木、狼と七匹の仔山羊、白雪姫、シンデレラあたりやな」
「アンデルセン童話やったら、人魚姫、醜い家鴨の子、赤い靴、親指姫、裸の王様、燐寸売りの少女、雪の女王あたりか」
「イソップ寓話で、アリとキリギリス、田舎の鼠と町の鼠、兎と亀、北風と太陽、狐と鶴のご馳走、金の斧と銀の斧、すっぱい葡萄、卑怯な蝙蝠あたりも、面白いけどなぁ」
「あとは、長靴を履いた猫とか、三匹の仔豚とか、幸せな王子とかやな」
「候補は、その辺にしておこうよ」
「際限ないもんなぁ。赤い靴って、曾爺さんに連れ去られる話っすか、会長?」
「それを言うなら、異人さんや。それに、童謡やない。童話のほうや」
「赤い靴を履き続けとったら、靴が独りでに踊りだしてしまう話や」
「あぁ。そんな話もあったっすね」
「まぁ、ハッピー・エンドの話がええやろうなぁ。そうなると、シンデレラあたりが無難か」
「ベタやなぁ、会長」
「ベタっすね、会長」
「ええやないか。文句があるなら、代案を出せぃ」
「別に、ベタなのがあかんとは言うてへんよ。あたしは、継母と姉妹と魔女の役をやるわ」
「それじゃあ、俺は、王子様とナレーションをやるっす」
「ほんならって、ちょっと待てぃ。あとは、シンデレラしか残ってへんやないか」
「シンデレラの声が男子っていうのは、斬新やね」
「会長が、既成概念を突き破るんっすね」
「二人で、話を進めるな」
「嫌やったら、あたしがシンデレラやるわ」
「いや、俺がやるっすよ、瑠璃さん」
「あたしが、シンデレラや」
「そこは、俺が」
「小鳥倶楽部か。わかった。この中之島正が、立派に務めてご覧に入れます」
「どうぞ」
「どうぞ」
「はぁ。何で、こうなるんやろうなぁ」




