第28話「朝令暮改」
「どうしたのん、お兄ちゃん。英語の教科書を、そないにしげしげと見て」
「アニメ風のイラストやなぁと思うてな。時代が変わったもんや」
「一つのストーリーになってて、面白いのんよ」
「親しみやすく、物語性があったほうが、単なる機械暗記で、全然印象に残らへんより、ずっとええわな。それで、何の勉強をしてるんや?」
「音楽。今度、小テストがあるのんよ」
「問題を出したるわ。音楽の三要素は?」
「三要素?」
「音楽で、大事なことは何かってことや」
「テンポと、ノリと、勢い」
「ちゃう。旋律と和音と拍子や。英語なら、メロディー、ハーモニー、リズムやな」
「そんなん、人それぞれやん」
「それを言うたら、教科としての音楽が成り立たへん。ほんなら、ピアノ三重奏曲に使うのは、何の楽器や?」
「リコーダーと、オカリナと、鍵盤ハーモニカ」
「ピアノは?」
「あぁ、そうやね。ピアノと、それから?」
「ヴァイオリンとチェロや。そんなんで、大丈夫なんか?」
「そういう小テストと違うもん。これが、テスト範囲」
「さっきから何を見てるのんかと思うたら、楽譜やないか」
「歌詞を覚えてきなさいって」
「虫食いにでもなってるのんか?」
「違う、違う。ワン・フレーズずつ抜き出したカードがあって、そのカードに書かれてある楽譜を見て、その部分を歌うのんよ」
「それ、難易度が高いことないか?」
「そう? 結構、みんな正解してるのんよ」
「俺には、ついて行かれへんわ」
「へぇ、そうなんや」
「いまどきの中学生は、俺らが中学生の頃とは、えらい違うてるもんやなぁって」
「遠い目をしてるけど、あたしらが中学生の時かって、ジェー・ポップを教科書に載せるのはいかがなものかって言われとったやん」
「あぁ、そういえば、そんなこともあったな。童謡かって、明治時代には最新のヒット曲やったんやろうに」
「唱歌かって、文部省やもんね」
「教育方針がコロコロ変わるけど、振り回される俺らの身にもなってほしいものやな」
「歳が違うと、教え合いが出来へんようになってしもうてるもんね」
「セコハンで教科書が使えへんしな。困ったもんや」
「一人っ子が多いのんが、兄弟姉妹が居る家庭への配慮を、蔑ろにしてしもうてるのんやろうか?」
「ひょっとしたら、そうかもしれへんな」




