第26話「人参、芋、玉葱、肉」
「始めチョロチョロ、中パッパ」
「赤子泣いても、蓋取るな」
「ええ具合に、炊けたな。冷ましているあいだに、カレー作りをしようか」
「カレールウは、二種類か。スパイシーなインドネシア風と、林檎と蜂蜜のアメリカ北東部風だな。漬け物は、らっきょうと福神漬けか。あとは、マヨネーズは姉上のだとして、コーヒー・フレッシュは?」
「青衣のや。中辛やから、そのままではあかんやろうなぁと思うてな。マヨネーズは、南方のやったんか」
「調味料は香辛料を阻害するゆえに、邪道だと言っているのだがな」
「むしろ、引き立て役になるって言うてるやん、朱雀」
「おっ、何かトラブルか?」
「ちゃうねん。テント張れたから、様子を見に来たのんよ。あと、これ」
「四葉のクローバーやな」
「ええことがあるかもしれへんなって。ねっ、青衣ちゃん」
「ねっ、夏海お姉ちゃん」
「迷信だな。物好きなことだ」
「信じる、信じへんは、個人の自由や。終わってるんやったら、かまどに火をくべてくれるか? こっちで材料を用意するから」
「ラジャー。ほな、準備しようか、青衣ちゃん」
「行こう、行こう」
「今やカレーは、ラーメンと並ぶ、日本人の国民食やな」
「インド料理のはずだが、イギリス経由で日本に普及したのが、そもそもの始まりだそうだ」
「寿司や天麩羅だって、舶来食やないか。和食の定番みたいに言われとるけど」
「アレンジ料理に、事欠かないな。カレーパン、カレー豚饅、カレーコロッケ、カレースパゲッティ、カレーお好み焼き」
「カレーラーメン、カレー饂飩、カレー蕎麦、カレー焼きそば、カツカレー、カレー味スナック。ロングセラーで、カレー味になったことのない食料品のほうが、マイナーなんと違うか?」
「そうかもしれないな。スパイスに、後を引く秘訣が隠されているのだろう。唐辛子、コリアンダー、クミン、シナモン、カルダモン、クローブ、ベイリーフ、ポピー、ナツメグ、ターメリック」
「コリアンダーは、香菜やパクチーとも言うな。シナモンは、肉桂。ケーキやクッキー、紅茶にも使われとるな。クローブは、丁字。ポピーは、罌粟のことやな。あんパンの上に乗ってる粒や。ターメリックは、鬱金のことで、黄色の素やとして。ベイリーフって何や?」
「ベイリーフは、月桂樹の葉だ。ギリシャ神話で、アポロンが頭にかぶってる」
「あぁ、あれか。月桂冠やな」
「ほれ、見てみぃ。せやから、事前に確認したんやで? いつもより多いけど、食べきれるのんかって言うたやないか」
「せやけど」
「まぁ、まぁ。こんなところまで来て、説教することないやないの、春樹」
「フレッシュ入れたあとになってからは、俺は食べられへんからな」
「それでは、我輩が半分、食べようではないか。それで、どうだろう?」
「それやったら、何とか。おおきに」
「普段、小食やのに。入るのんか?」
「心配、ご無用」
「すまんな。ほんなら、朱雀くんに任すわ」




