第25話「目的地に到着」
「保養所に着いたで。降りや」
「運転、お疲れさん。あぁ。やっぱり、山の中は空気が澄んでるわ」
「さすがは、圏外まで来ただけのことはあるな」
「ほんまや。アンテナが立ってへん」
「端末は禁止やぞ、青衣。ほんなら、今からやることを説明しておくわな。一つは、テントの設営。もう一つは、カレー作りと飯盒炊爨や。二手に分かれるんやけど、どないして決めようか?」
「それやったら、あたしと春樹、朱雀と青衣ちゃんでグストンパして分かれたらええんと違う?」
「そうだな。異存ないか、妹君?」
「異議なーし」
「青衣ちゃんと、テント設営か」
「頑張ろうね、夏海お姉ちゃん」
「春樹のメモがあるから、見ていこうか。テントは、水はけのええ、木陰に建てること」
「川の近くなど、水辺は避けること」
「グランドシートは、テントより小さめに敷くこと。グランドシートって、どれやっけ?」
「この、テントの下に敷くシートと違う? あとは、テントの入り口から風が吹き込む方向には、テントを張らないこと」
「ペグは、ロープに対して垂直に、しっかりと地面に打ち込むこと、か」
「注意が多いんやね」
「寝てるあいだに、水浸しになったら嫌やし、気をつけへんとね」
「そうやね」
「姉上が、こちらでなくて良かった。危うく、炭を食わされるところであった」
「炊きすぎ、煮込みすぎには、注意せなあかんな。はい、飯盒」
「うぅむ。改めて見ると、飯盒は変な形だな」
「軍人が腰に下げて持ち運びやすいように、そういう形になったそうや」
「米は、どれだけ入れればよいのだ?」
「内側の、下の線まで。それで四合や」
「ほう。何合炊くのだ?」
「二つで八合。余ったら、お握りにしておいたらええ。ラップも、アルミホイルもある」
「底がデコボコしているな」
「炊いた後、開ける前にひっくり返す時に、ぶつけてしもうたんや」
「そうか。炊けたら天地を返すのだったな。これくらいで、研げたかだろうか?」
「もう、そんなもんでええやろう。浸けてるあいだに、火を熾そうか」
「太古より、人間は火を操り、万物の長として君臨してきた。今こそ、その伎倆を発揮すべき時が来た」
「大層なこと言うて盛り上がってるところ、水を差すようやけど、口より手を動かしてな」




