第21話「お静かに」
「バーコードという文明の利器を、まったく無視した高校だな、冴絵殿」
「小学校、中学校とバーコードやったから、ちょっと驚きやわ、朱雀くん」
「本のうしろにある貸し出しカードに、いちいち名前を記入しなくてはいけないのでは、手間に思って借りない人がいるのではないか?」
「そうかもしれへんね。それにしても、返す人も、借りる人も居らへんね」
「いまのうちに、イノシシの復習プリントをやっておこう」
「あぁ、国語のやね」
「受験は終わったというのに、何が悲しくて、中学の復習をせねばならないのだ」
「まぁ、そう言わんと、ちゃっちゃと済ませたらええやん」
「フム。三大和歌集か。我輩は中学時代、二組の三大馬鹿衆の一人と言われたものだ」
「面白いことを言うんやね」
「まったく、失礼な話だ。最初の空欄は、万葉、奈良、山上憶良だな」
「次は、古今和歌、平安、醍醐、紀貫之やね」
「そうなると最後は、新古今和歌、鎌倉、後鳥羽、藤原定家だな」
「続いて、六歌仙か。在原業平、小野小町、文屋康秀、喜撰法師、僧正遍照、大伴黒主。これで漢字は合っているのか?」
「合うてるんと違うかなぁ」
「いかん、いかん。じっと見つめて過ぎると、ゲシュタルト崩壊してしまう」
「同じ字を書き取ってたら、合うてるか不安になるっていう、アレやね?」
「たしか、大伴黒主だけ、小倉百人一首に選ばれていないんだったな」
「はみごにされたんや。入れてあげたらええのに」
「今度は、近代文学か。漱石の代表作だな。前期は、『三四郎』、『それから』、『門』。後期は、『行人』、『こころ』、『彼岸過迄』だな」
「代助が出てくるのんって、それからやったっけ?」
「その通りだ。それにしても代助とは、ひどい名前だな。ま、三郎よりは、良いかもしれないが」
「誠は天の道なり、っていう言葉に、自分だけ該当せぇへんのやもんね」
「『中庸』の一説だな。四書の一つだ」
「二宮金次郎の銅像が読んでる『大学』も、その一つやんね?」
「そうだ。あとは、『論語』と『孟子』だな」
「何でも、よぅ知ってるんやね、朱雀くん」
「隊長殿に鍛えられたからな。三大、四大、五大は、クイズの定番でな」
「他には?」
「五経が、易経、書経、詩経、礼記、春秋。四大奇書が、三国志演義、水滸伝、西遊記、金瓶梅。モーセ五書が、創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記。福音書が、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ。五大湖が、スペリオル湖、ミシガン湖、ヒューロン湖、エリー湖、オンタリオ湖といったところか」
「すごいやん」
「お二人さん。誰もいないからといっても、声が大きいわよ?」
「これは、失礼致した」
「すみません、岡本先生」




