第19話「認知的不協和」
「ほら、ちゃんと押さえへんから」
「姉上が、雑に持つからではないか」
「あたしは、雑やないって。ほら、もう一回」
「やり直しか。そろそろ休息を取らねば、身体が持たないのだが?」
「あのさぁ。何で朱雀が押さえで、あたしが十字に縛るほうなのんよ。逆やと思わへん?」
「うさぎは、熊狩りには勝てないからな」
「誰が、マタギや。それに、うさぎっていうより、狐やないか」
「あの葡萄は、酸っぱいに違いない、とでも? フッ。熊を捕まえたことがあるくせに」
「あたしが捕まえたのんは、熊みたいに毛むくじゃらなスリや。熊を捕まえても、警察署で表彰されたりせぇへん」
「ほう。不合理を正当化するために、記憶が改竄されたようだな」
「改変されてるのんは、朱雀のほうやないの」
「ほんまに、朱雀には、男子としてのプライドがないんやから」
「傍で聞いてる分には、微笑ましい光景やけどなぁ」
「他人事やと思って。春樹のところは、どうしてるんよ?」
「どうって、何がや?」
「話の流れから、大体わかりそうなもんやん。新聞を出すときのこと」
「あぁ。大抵は、俺が一人で出してるんや。青衣に手伝わせると、二度手間になるからな」
「押さえて貰うといたら、ええようなもんやけど?」
「それがな。青衣は、自分で括りたがるんや。せやけど、青衣の力では、本人がどれだけ頑張っても、どっかしら緩くなってしまうから、任せられへんし」
「へぇ。傍で聞いてる分には、微笑ましい光景やね」
「まったくな」
「レポートは進んでるのん? たしか、社会心理学で課題が出たって」
「あぁ。どうやって、まとめたらええか、いろいろ悩んでたんやけど、今の南方と朱雀くんの話を使うたら、うまくいきそうや」
「名前は出さんとってよ」
「当たり前や。個人情報保護法に抵触する気は、少しもあらへんからな」




