表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第2部
118/164

第18話「十字」

「席、どうぞ」

「あぁ、おおきに」


「立つと、やっぱりデカイな。ジャイアント瑠璃」

「何よ。みーちゃんのくせに」

「よせよ。俺は、京橋美己っていう、どっかナルシストっぽくて、女々しい名前が嫌いなんや。委員長と呼べ」

「はい、はい。玉造と桃谷は?」

「先に帰ったんと違うかなぁ」

「何や、楠浜トリオは解散したのん?」

「解散するとかせんとかではないやろう。別に俺かって、いつも初や隆と居る訳やないんやで?」

「みーちゃん、小太りはっつぁん、ひくしの三人でワンセットと違うんや」

「あだ名はやめい。他に同い年で楠浜中学出身の人間が居らへんから、一緒に居るだけや」

「他の三校とは、距離感があるもんね。地理上、海の上に埋立地としてできたってだけやなくてやで?」

「わかっとる。学校や医療機関が整備された、閑静で健全な住環境を、新交通システムで結んだ、近未来型住宅都市」

「バブル期に作られた、何の面白味もない、書き割りのような街やね。墓石みたいな煤けたマンションが群生する、灰色の街」

「小市民の墓場やな。初乗りが高いから、あんまり外に遊びに行かれへんし、中学の制服は、男女とも溝鼠色のブレザーやし」

「震災では、液状化するしね。小学校の体操服も、変な服やったよね?」

「袖と裾の長さが、ファスナーで半分にしたり、長くしたりできるっていう代物やったな。省エネルックやったっけ?」

「たしか、そないな風に言うとったわ」

「やっぱり、どこか遊べる場所がないと、街としては不完全や。人体で言うたら、脳と心臓だけを培養液に浸けてるみたいなもんや」

「五臓六腑揃ってはじめて、五体満足やって訳やね?」

「そういうこっちゃ。去勢した家畜や、腎虚の老人とは違うんやからな」

「うぅん。もうちょっと、ええ例えかたできへん?」

「言葉面を変えても、指すところは変わらへんのやから、ええやないか。都市開発は、昔っから問題になっとるんやって、古狸が言うとった」

「あぁ、杭瀬先生の世界史やね。仮にも自分の担任やねんから、そのあだ名は、どうなんやろう?」

「担任やからこそ、ええんやないか。放射状にしたり、格子状にしたり、時の権力者は、都市を自分の意のままにしようとしてきたそうや」

「パンケーキか、お好み焼きの切り方みたいな話やね」

「俺は格子切り派や」

「あたしも。監視社会化が進んでるって話も、あったんと違う?」

「あぁ、あった、あった。そのうち、ベンサムのパノプティコンみたいな都市も、出来るかもしれへんな」

「縁起でもない。そないな刑務所みたいな街、よう住まれへんわ」

「楠浜かって、他所からみたら、そないに思われてるかもしれへんで?」

「まぁ、そうかもしれへんなぁ」

「ところで、さっきは何で席を譲ったんや?」

「ハンドバッグに、赤に白十字のタグを付けてはったから。ていうか、見てたんやったら、譲ったげたらええやん」

「前に、爺さんに席を譲ろうとしたら、そんな歳やないって怒鳴られたことがあってな」

「それとこれとは、違うことない? いい訳やわ」

「まぁ、それでもええわ。もうすぐ終点やな」

「高校前発、営業所前行き。降車ボタンを押さへんまま、卒業することになりそうやね」

「そうやな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ