第17話「前もって」
『芸術鑑賞ってことで、今日は、劇団のかたがたにお越しいただいていまして。ただいま、準備の真っ最中ということなんやそうです』
『そのあいだ、ちょっと、間を持たせといてくれってことで、こうしてマイクを持って、皆さんの前に立ってる訳なんっす』
『離任式と同じ日にやるから、こういうロスが発生するんや』
『まぁ、それは仕様がないっすよ。それで、まぁ、退屈やろうから、今から二人で漫才をするっすね』
『台本通りにやれよ、樟葉』
『それ、振りっすか、会長?』
『それは、このあと分かることや。ほんなら、始めるわな。どうも、中之島です』
『樟葉っす。よろしくお願いします』
『お願いします』
『あぁ、おおきに。皆さん、お待ちかね。いきりの生徒会長っす』
『誰が、いきりや』
『ブレザー、イン、カットソー。白と青の縞々ですね。絵本の中に居たら、見付けてあげて下さいね』
『囚人と違うわ』
『あっ、ホラー漫画家の。それとも、ピカソ?』
『どっちも違う』
『画力は、地獄絵図そのものやと思うけどなぁ。ゲルニカって感じ』
『阿呆なこと言うな。これはやな、マリンルックって言うて、神戸風のお洒落や』
『後ろに髑髏はないけどなぁ』
『海賊船と違うわ。話、聞いてたか、樟葉?』
『シャレコウベって』
『ちゃう。あのなぁ。これ、こう見えても、ブティック白蝶貝の服やねんで?』
『ということは、レディースか。ハッハーン。ユニムラのメンズサイズでは、サイズが大きいんや』
『誰が、キッズや』
『それにしても、何で急に、そないな妙ちくりんな格好を? 勉強しすぎて、頭、おかしなったんっすか?』
『ちゃう、ちゃう。耳、貸してみぃ。あんな。大きい声では言えへんけどな……』
『……えっ。女子にモテたい?』
『声が、でかい』
『まぁ、分からなくもないっすね。国立大付属は男子校で、学ランを着た、むっさい野郎ばっかり。中学、高校、そして大学を工学部で、そのまま博士まで進んだら勇者っすからね』
『そんな、アール・ピー・ジーみたいな設定は、どこにもあらへん』
『アダムだらけで、誰も肋骨を提供せず。出会いなし、トキメキなし、アバンチュールなし。誤解のないように言うときますけど、決してソドムではないっすからね。異性にモテたいっちゅう気持ちは、共学校生以上にあるんっす』
『そこへ来て、樟葉。お前には、彼女が居るわけやろう? 女子のハートを射止める秘訣を教えてくれ』
『アドバイスっすか。ええっすよ』
『ほんまやな?』
『ほんま、ほんま。まずは、背を伸ばすことっすね。片口鰯、縮緬雑魚、煮干しでカルシウムを摂ったらええっす』
『小魚ばっかりやな。そこは牛乳と違うんか?』
『牛乳だけでは、カルシウムは摂れないっすよ。思うんっすけど、給食には、緑茶か豆乳にすべきっす。鯖の味噌煮に牛乳は、ミスマッチっすからね。それから、折れたり抜けたりした歯は、牛乳に入れて、速やかに歯医者に行きましょう。プレゼント・バイ、樟葉デンタルクリニック』
『勝手にシー・エムするな。あと、給食の件を付け足すな』
『振りに答えたんっすけどねぇ。そうそう。クリニックで思いついたんっすけど、手っ取り早く、美容整形手術をしたらどうっすか?』
『イエス。あぁ、いや、ノーやわ。骨を折るのも、骨身を削るのも御免や。もっと、内面を磨く方向で頼むわ』
『そうっすねぇ。コミュニケーションは、大事っす。星の話とかどうっすか? 七夕なんかにピッタリっすけど』
『十六光年も離れとったら、到底、年に一回は逢えへんとか、恒星の寿命を、人間の寿命に換算して当てはめたら、二人はしょっちゅ逢うてることになるから、牽牛と織姫は、仕事をしていないこととか?』
『ファンタジー、メルヘン、ロマンを打ち砕いて、乙女心はズタズタっすよ』
『知識があるのは、ええことやないんか?』
『変に頭が回ると、他人より損するんっすね。知恵はやっぱり、禁断の実やわ』
『そう言うなや。あぁ、そろそろ時間やけど、この話の落ちは?』
『結論。阿呆な奴ほど、よくモテる』
『そんな、阿呆な。どうも、ありがとうございました』
『おおきに。それでは、プロの劇をお楽しみください』




