第16話「段階を踏む」
「そこは、グルコサミン・パラシュート・チョコレートで、どうや」
「チョコレートは、そのままなんっすね」
「何の話をしてるんよ?」
「階段で、ジャンケンして上って行く遊びがあるやん?」
「あれ、グーだけ不利と違うかって話になって」
「生徒会でやる寸劇の話が、どういう連想で、そういう話になったんよ?」
「バナナと言うたら、食物繊維。あぁ、そうやった。あれ、どないしよう?」
「昨年は、東野先輩と北条先輩の漫才やったんっすよねぇ」
「その前は、コントやったのんよ、礼多くん。東野先輩が私服警官、北条先輩が私立探偵っていう設定でね」
「ほんで、西園寺先輩が殺害された現場の検証で、意見を出し合うんやけど、お互いがお互いを犯人やと決め付けてしまうんや」
「面白そうっすね。台本は残ってないんっすか?」
「たぶん、ファイルの中にあるのんと違うかな。知らんけど」
「探すのが、ものごっつい手間やな。そうや、ちょっと耳を貸してみ?」
「何っすか?」
「何よ、会長。そんな小声で言うことないやない」
「壁に盗聴器、障子に盗撮カメラや。ええから、ええから」
「ほんで、俺に台本を書けって言うんやな?」
「頼みますよ、東野先輩。この通り」
「手土産持参で来た時点で、嫌ぁな予感はしてたんや」
「そこを一つ、お願いします」
「民法のレポートが、残ってるんやけどなぁ」
「そちらは、不肖、中之島正が代筆しますから」
「書いていらんわ。レポート書く気力があるなら、台本を書かんかい」
「それが書けないから、こうしてお願いに上がったわけですよ。頼れるのは、東野先輩だけなんです。どうか、見捨てないでください」
「だっ。腰にしがみつくなや、中之島。服が伸びるやないか」
「首を縦に振るまでは、離さない覚悟ですよ、東野先輩」
「あぁ、前にも、こういう光景があったな。えぇい。引き受けたるから、離れろ」
「ほんまですね? 武士に二言は無いですね?」
「あぁ。ほんまに、ほんまや」
「よっしゃあ。契約成立やで、二人とも」
「やっぱり、会長は凄いっすね」
「あたしらには、真似できへんわ」
「樟葉くんに、千林。二人とも、いつの間に忍び込んだんや?」
「手土産は、一つだけやないんですよ、東野先輩」
「青衣も、グルか」
「将を射んと欲すれば」
「まず馬を射よ」
「敵将、討ち取ったりぃ」
「……卒業したら、こういうことは無いと思うてたんやけどなぁ」




