第11話「インスタントエリート」
「だから、さっき言うたやん」
「ちゃうねん、ちゃうねん。あれ、あの車、どないしたんやろう?」
「さっきの雨でできた泥濘にタイヤが嵌ってもうたんやな。それにしても、煎餅みたいに薄い車やな」
「高級外車ちゃう? 成金趣味っぽいわぁ」
「せやなぁ。それにしても、えらい難儀しとる」
「押してあげへん?」
「そうしよか。いっせいのーせぃ」
「よいしょ、うわぁ」
「おっと。大丈夫か、南方」
「平気や。朱雀と違うて、頑丈に出来てる」
『やっぱりお礼を言うべきよ』
『俺は押してくれなんて頼んでない。あいつらが勝手に焼いた親切だ。言いたきゃ、お前が言え』
「なんや、車内が騒がしいようやけど?」
「あ、女の人が降りてきはったで」
「これ、宅の連絡先ですの。クリーニング代はこちらにお願いしますわ。それじゃ」
「これは、おおきに」
「二人で乗ってたんや。それにしても、ケバケバしい女やったな」
「一緒に押せとまでは言わんけど、せめて降りるべきやったんと違う?」
「怒りたくなる気持ちはよぅ分かるけど、相手にするだけ無駄や。わざわざ一段下の土俵まで降りることはない。ちょっと、それ見せてみ?」
「好きにしてええよ。あたしは要らんから」
「ほんなら、預かるで。あれ? あの車、中之島の家の駐車場に入っていったな」
「そうやね。すると、さっきの二人はひょっとして」
「中之島の両親やろうな。細かい字でごちゃごちゃ書いてあるアルファベットをよぅ読んだら、苗字は中之島ってあるわ。シンガポールとかロンドンとかに支社があるし、エグゼクティブ何ちゃらって書いてあるから、どっかの外資系企業の偉いさんやろうな」
「偉いさんか何か知らんけど、育ちは良くなさそうやわ」
「中之島も、えらく高慢な両親の下に生まれたもんやな」
「もしも内田さんが居らんかったらって考えると、そら恐ろしいわ」
「ほんまやな」
「さっき、何の話してたんやっけ?」
「あれはもう、お前の言うた通りでええわ。あの高慢ちきを見たら、言った言わないで揉めるのも阿呆らしい」




