第9話「お見通し」
「さぁ、新学期や。しっかり勉強して、好スタートを決めるで」
「数学の、海図式良問集に、英語の、試験出まくり英単語」
「鞄の中は、参考書だらけ」
「教科書がありながら、副教材として買わされる書籍類の、何と多いことよ」
「副長も、樟葉も、口やなくて、手を動かしや」
「紅蓮の炎を発生させる金属だと?」
「ん? 何や、炎色反応か。紅色って何っすか、会長?」
「ストロンチウム。二年やったら、覚えとけよ」
「ス、ト、ロ、ン、チ、ウ、ム」
「平均点が取れれば、それでええっすよ。頭が賢うてもモテへんのは、誰かさんが証明してはるし」
「モテへん、モテへん言うなや。どないせいっちゅうねん」
「のぼり、たすき、ポスターなどで、宣伝して歩いてはどうだろうか?」
「あるいは、プラカードや横断幕で、行進するとか」
「恵まれない中之島に、愛の手を。そんな阿呆らしいこと、出来へん」
「外は春の陽気だというのに、なぜ、室内で苦行に勤しまねばならぬのだ」
「ほんまに、ええ天気や」
「えいっ」
「ぐはっ」
「だっ。何するんっすか、会長」
「旋毛にある、やる気ボタンを押したったんや」
「頭蓋骨が陥没してないか、会計殿?」
「大丈夫や、副長。それにしても、背が縮むかと思うたわ。会長より低うなったら、敵わんっすよ」
「背が低うて、悪かったな」
「しかし会計殿も、書記殿より低いことには、変わりあるまい?」
「瑠璃さんは、百七十センチ以上あるっすからね。会長は、百六十もないっすけど」
「百六十センチ以上や」
「目測、百五十八センチ」
「正解」
「ええから、問題を解かんかい」
「低身長を所与条件として、数式を解けばよかろう」
「条件は、遺伝要素やね。証明終了。コギト・エルゴ・スム」
「クオド・エラト・デモンストランダムや。ほんまに陥没させたろうか」
「何を賑やかにやってるのんよ、正くん?」
「内田殿」
「お邪魔してるっす」
「あんまり後輩を虐めるもんやないよ、正くん。はい、クリームあんみつ」
「これは、かたじけない」
「いただきます」
「お勉強、頑張りや。それから、正くん?」
「分かってますよ、内田さん」
「また、器を下げがてら、様子を見るわね」
「……はぁ。内田さんには、敵わへんわ。急に眉根を寄せて、どないしたんや、副長?」
「気にするな。何でもない」
「よぅ、冷えとるから、キーンときたんやろう?」
「何や、そういうことか」
「それじゃあ、また明日な」
「また、学び舎で再会しようぞ」
「さいなら、会長。……なぁ、副長」
「何かね、会計殿?」
「アイス食べたとき、頭と違うて、顎に来たんやろ?」
「そんなことは、ない」
「ほんなら、俺の家に来て確かめようや。診察は、八時までやってるんやで?」
「……参りました」
「近いうちに治療せなあかんで」




