第7話「対人ロボット」
「ラジオ体操、第一も第二も完璧にできる?」
「南方。俺の親が、何の仕事をしてるか知ってて聞いてるのんか?」
「郵便局員やんね、たしか。それが、どないしたんよ?」
「簡保のサイトを開いてみぃ。ちゃんと、図解付きで載っとるわ」
「鳳さん、こんにちは。ご契約内容の確認に伺いました」
「簡保の東野さんやね。相変わらず、汚いところですが、どうぞ、どうぞ」
「お邪魔します」
「どっちも、十三の動きで成り立ってるんやね」
「知名度が高い割には、全部、正しい動きでできる人は、ほんの一部やな」
「特に、第二は、間違えて覚えてる人が多いと思うわ」
「ヒロシさんに、もしものことがあったとしましても、華梨那さんは、十七歳の満期に学資保険を受け取れますし、もし、入院して働けなくなった場合にも、こちらの入院保険をお受け取りいただける訳です」
「もし、満期前に死んだ場合は、どうなるんでしたっけ?」
「仮に、ご契約者さまが亡くなられた場合は、以後の保険料はいただきません。その上、保証内容は、変わりありません」
「なるほど。そういえば、東野さんところの上の息子さんは、大学生になったそうやね。法学部に進んだとか、芙美子が言うておったが。あれかね。弁護士か、検察官か、裁判官でも目指してるのかね?」
「どうでしょう? この頃は、顔を合わせても、会話らしい会話をしてないもので。話を戻しますが……」
「法学部って、六法全書を全部覚えてるものなん?」
「それは、誤解や。もちろん、大事な部分は一々調べなくても、そらで言えるくらいになっとかなあかんけど、どっちかと言うたら、過去の判例や、教授の法解釈を聞いて、自分はどう考えるかってことを、筋道立てて、説得力ある文章として説明できるかってことに、重点が置かれとる」
「暗記だけでは、あかんのやね?」
「ただ、何も考えずにインプットして、それを、そのまんまアウトプットするだけやったら、人間やなくて、機械でもできるからな」
「ご説明は、以上です。今日は、どうもありがとうございました」
「ご苦労さん。簡保の仕事は、忙しいのかね?」
「おかげさまで」
「それは、結構やけどね。少しは、文字を追わずに話す時間を取るべきやと思うよ。まぁ、こういうことを、偉そうに言えた口ではないけどね」
「以後、気をつけます。それでは、失礼します」




