第6話「霙まじり」
「ホワイトデーのほうが、バレンタインより十度近くも暑いとか、どないなってるんや?」
「本当っすね、会長」
「地球上で、人知れず進行する異常気象。人類は、最早なすすべなしか」
「暖冬と、寒の戻りが重なっただけやと思うで、副長」
「お返しのチョコレートが、融けずに済みそうっすけど」
「ホワイトデーに、一月前の三倍返しとは。高利貸しも真っ青な利率、かつ、男女平等に反するではないか」
「意外と律儀やな、樟葉」
「これを怠って、付き合いを解消されたら困るっすから」
「浜町の国道沿いに店を構える、巷間で噂のフランス菓子店か」
「カタカナ四文字の洋菓子店と並ぶ、有名店やな。ええなぁ、彼女が居るって」
「会長って、慕われてる割には、モテないっすよね」
「親しみやすさは、モテる要素ではないのか」
「いつも、中之島くんには、他にええ人が居るって言われてしまうんや」
「不合格通知みたいっすね」
「貴殿が、より相応しい学校に進まれることを、お祈りいたしますってな。ふざけたものだ」
「バレンタインに告白かぁ。ロマンチックなんやね、瑠璃ちゃん」
「王道すぎて、恥ずかしいわぁ、華梨那」
「何を、恥ずかしがることがあるのんよ。いつもの瑠璃ちゃんらしく、堂々としてたら、ええやない」
「そうやろうか?」
「そういうもんよ」
「ほんなら、それで、ええとするわ。それより、華梨那のほうは、どうなんよ?」
「どうって?」
「北条先輩とのことに、決まってるやない。それやのに、白を切るなんて」
「堪忍したって。冬彦さんは滋賀に引越してしもうたけど、連絡は、毎日取り合うてるんよ。でも、あんまり頻繁に連絡すると、勉強は進んでるのんって言われてしまうんよ」
「華梨那が志望校に合格したら、滋賀に会いに行ってもええんやっけ?」
「そうそう。だから、それまでは勉強に集中せな」
「いよいよ受験生やもんね、あたしたち」
「何で、国立大の法学部にしたんっすか、会長?」
「弁護士になれたらと思うてな」
「そして、法曹界を牛耳る訳か。悪くないな。少し、席を外させてもらう。雉を撃たねば」
「行ってらっしゃい。何で、弁護士になろうと思うたんっすか?」
「社会の正義を守るため」
「セイさん。本当の理由は、何なんっすか?」
「誰にも言うなや。……六法全書を見とったら、身に覚えのある文言が羅列されてたんや」
「それ、民法っすか、刑法っすか?」
「黙秘させてもらうわ」




