第5話「一人暮らし」
「持っていく物は、これだけか、冬彦?」
「そうだよ、東野くん」
「冬彦くん、ちょっと来て」
「今、行くよ、南方さん」
「引越しを手伝うてほしいって言うもんやから、荷物が多いのかと思うたら、そうでもないんやなぁ」
「冬彦、これを、……あれ?」
「冬彦なら、一階です。南方に呼ばれて」
「そうか。荷造りは済んだか?」
「箱詰めのほうは、終わりました。あとは、この鞄を持って行けばええだけです」
「何や、ダンボールは、あれだけか。ほんなら、鞄に入れるしかないな」
「何ですか、その包みは?」
「写真立て。初めて会うた時に三人で撮った写真を、プリントアウトして入れてあるんや」
「黒江さん、ちょっと飛ばし過ぎと違います?」
「高速道路なのよ? これくらいは、問題ないわ。それに、下手に制限速度を守ってたら、トラックの運転手に、怒鳴り散らされるわよ?」
「……冬彦くんが言うてたのんは、このことか。これなら、春樹たちと、電車で行くんやったわ」
「工学部は、滋賀にキャンパスがあるのんか」
「もし、東野くんが同じ大学に進んでいたとしても、法学部なら、キャンパスが違うよ」
「そうなるな。今は、どこの大学も、新しいキャンパスを売りにしたいんやろうな」
「少子化してるのにね」
「生涯学習と銘打って、社会人や退職した高齢者にも、門戸を広げてるみたいやけどな」
「あと、国際化として、海外からの留学生も受け入れてるよね」
「内訳は、アジア人が、ほとんどやな」
「まぁ、わざわざ欧米から、日本の大学を受験しようっていう動きは少ないね」
「着いたわよ。あら、具合が悪いの?」
「い、いえ。大丈夫です」
「待ってたよ」
「先に着いてたんやね」
「三十分ほど前に、着いたところや」
「これでも、飛ばしてきたのよ。途中までは空いてたんだけど、渋滞に引っ掛かってね。それじゃあ、荷物を降ろしましょうか」
「それじゃあ、冬彦くん、さいなら」
「また今度な、冬彦」
「近いうちに、遊びにおいでよ。じゃあね、南方さん、東野くん」
「お店の支度があるから、戻らないといけないんだけど」
「安心してよ、母さん」
「何かあったら、すぐに連絡しなさいよ、冬彦」
「心配ないって。父さんにも、そう言っておいて」
「さぁて。鞄の中身を空けようっと。あれ? こんな物、入れてたかな……」




