第4話「前線、北上中」
「春樹」
「うよぅ、南方」
「マスクしてるけど、また風邪を引いたのん?」
「ちゃうちゃう。んあぁ、花粉症や」
「ティッシュは、どないしたんよ? そんな、鼻をズビズビいわせて。――ズズビ、ズビズビ、ズビズバー」
「とっくに、ストックが切れとる。――どこの青江さんや」
「ほら、ティッシュ。さっき東和三友銀行に行ったから、そこのやけど。――徳永さんやなくて?」
「どっちでもええけど。そう言えば、中之島と神奈川に行ったときに、地下鉄で通ったな。グズッ。あかん。鼻が阿呆になってしもうてる」
「あの、ロボットみたいな電車やね」
「そのたとえ。分かるような、分からんような。目ぇも、痒うなってきた」
「目ん玉刳り出して、洗ったげようか?」
「ホラー映画の観すぎや。俺は、ゾンビと違う。目薬を買うて帰るか」
「この辺で、ドラッグストアっていうたら、どこが近いのんやろう?」
「マツキダ薬局やな。善國屋書堂とか、洋服のユニムラとか、ジョージマ電機とかが入ってるモールの二階に、たしかあったと思うんや」
「一階に、白民伝とか、松野屋とか、餃子の大将とかがあるところやね?」
「食べるところばっかりやな」
「そりゃあ、三階や四階に上がれば、ボーダーコム通信のショップとか、カラオケのジャンジャン広場とかがあるのんは知ってるんよ。でも」
「別に、それが悪いとは言うてへんやないか」
「それやったら、まぁ、ええのんやけど。あっ、春樹。そこは、邪魔になるで?」
「んんっ。何でや?」
「ほら、あの子。この白いブロックを跳んで、こっちに向こうてきてるやん」
「あぁ、ほんまやな。よぅ、気ぃついたな」
「あたしもそうやけど、朱雀も同じようなことやっとったから」
「俺も、十年ぐらい前やったら、同じことをしとったんやけどなぁ。すっかり目線が変わってしもうたから、道のブロックの色なんか、気にもせんようになっとったわ」
「青衣ちゃんは、こういうことせぇへんかったのん?」
「してたんかもしれへんけど、一緒に登下校することがあらへんかったからなぁ」
「あぁ、そうか。六歳離れてると、小学校も一緒にならへんのか」
「思い返してみれば、白線や、縁石の上を歩きたがったことは、あったな」
「小さい時は、目線が低いから、地面に目が行き易いんよねぇ」
「ロー・アングルには、ハイ・アングルとは違うた世界が見えてるんやろうな」
「言うてる間に、薬局についたけど、どの目薬にするのん?」
「そうやなぁ。それにしても、目に優しいパッケージや、読みやすいポップにして欲しいものやな」
「せめて、目薬のコーナーだけでも、そうして欲しいところやね」
「顧客の目線で、店内を見て欲しいな」
「マーケティング戦略や、損得勘定を抜きにしてやね?」
「そういうことや。とりあえず、この青いのにするか」




