第2話「保護者席で」
「これは、これは。いつぞやは、どうも」
「あぁ。誰かと思えば、タクシーの」
「南方です。おたくも、お子さんが卒業で?」
「いや、卒業は来年なんだが、生徒会長として送辞を読むと聞いてな」
「そうですか。立派なお子さんをお持ちで。私のところは、上の娘が高校を、下の息子が中学を卒業するものでして。しかも、日取りが重なったものやから、私が娘の、家内が息子の式に出ることにしたんですわ」
「それは、ご苦労なことで」
「ここ、空いているかしら?」
「えぇ、どうぞ。あら、北条くんの」
「黒江でございます。そういうそちらさんは、東野さんですわね?」
「いつも息子が、ご厄介になって」
「いえいえ。あたしたちのほうこそ。冬彦、玄介ともども、ご迷惑を掛けて」
「とんでもない。それにしても、いつ見ても、お綺麗で」
「そんなこと、ございません。年相応ですよ。学生結婚だったものですから。お恥ずかしい限りで」
「こっちよ、郁子」
「お姉さん。そんな大きな声で呼はなくたって」
「方向音痴なのが、いけないのよ。しかも、娘にまで遺伝させて」
「好き好んで、そうなるもんですか」
「それより、どうなんよ、秋は? あんたや忍さんとは、うまくいってるのん?」
「たまに意見が分かれる時もあるけれど、何とかなってるわ」
「そう。それならええのんよ。今、何時?」
「九時四十分ちょっと過ぎ」
「あと、二十分近くあるんやね。もう一本あとのバスでも、間に合うてたかもしれへんね」




