第100話「流れる時の中で」
『あ、あ。スタンドマイクのテスト中。天気晴朗なれど、波高し。聞こえてるか? ……聞こえてそうやな。あぁ、盛り上がってきたところに、水を差すようで申し訳ないのんやけど、ここで、生徒会執行部役員の引継ぎに移るわな。引継ぎ、なんて、ご大層なことを言うても、バッジを付け替えるだけやないかって声が、聞こえて来そうやから、手短に済ますわな』
『それでは、第三十五代生徒会執行部役員の三人、ステージに上がってください』
『ほら、そこで三人して、え、誰のこと? みたいな顔せんと、早う上がっておいで』
『よし。そしたら、俺から引き継ごうか?』
『会長は、最後にしようよ。ここは、僕から。良いよね、西園寺さん?』
『ええよ。ほんなら、樟葉くん。北条くんの隣へ立って』
『それでは、現会計は、新会計に引継ぎを行ってください』
『今から言うのは、決まり文句だから、覚えて、同じように繰り返してね、樟葉くん。あぁ、第三十四代会計、北条冬彦。次代に会計徽章を引き継ぐ。はい。先代の僕に言ってごらん』
『第三十五代会計、樟葉礼多。先代より会計徽章を引き継ぐ。これで、ええっすか?』
『完璧やん、樟葉くん。今度は、うちの番やね。第三十四代書記、西園寺秋。次代に書記徽章を引き継ぐ。はい。千林さん、どうぞ』
『第三十五代書記、千林瑠璃。先代より書記徽章を引き継ぐ。書記徽章って、言いにくいわ』
『たしかに、そうやな。いよいよ、トリの俺の番やな。第三十四代会長、東野春樹。次代に会長徽章を引き継ぐ。中之島。大トリやからって、ボケるなや。これは、振りと違うからな』
『ここへきて、ボケませんって。第三十五代会長、中之島正。先代より会長徽章を引き継ぐ。何や、急にラペルが重うなったように感じるわ』
『こっちは、身軽になった気ぃするわ。えぇ、先生のほうから、何か連絡は? ……ありませんか。ほんなら、これで、楠山祭を終了します。解散』
「お疲れさん、春樹」
「やっと、ひと仕事終わったわ。あとは、卒業式の答辞だけや」
「お疲れさまです、冬彦さん」
「ありがとう、華梨那さん。肩の荷が下りた気分だよ」
「フラワーホールに何もないってことは、任期が終わったんやね、秋」
「そうなんよ、彪子伯母さん。二年間、付けたままにしとったから、ここだけ、緑色が深いままやわ」
『一号線に、電車が参ります』
「いよいよ、東京へ行くんやな、西園寺。達者でな」
「遠くに行っても、元気でね、秋お姉ちゃん」
「落ち着いたら、連絡ちょうだいね、秋ちゃん」
「世間は狭いものだ。いずれどこかで、会いまみえることであろうぞ」
『危険ですので、白線の内側に下がってお待ちください』
「卒業式で、また会おうね、西園寺さん」
「不肖、中之島正も、再会をお待ち申し上げまする」
「小母さんのことなら、鳳家にお任せくださいな、秋さん」
「短い付き合いっすけど、色々お世話になったっす」
『ただいま到着の電車は、大阪方面……』
「西園寺さんに出会わへんかったら、浴衣を着る機会はあらへんかったかも」
「みんな、ほんまに、おおきに」
「秋。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
『まもなく、扉が閉まります。ご注意ください』