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病弱勇者  作者: ウケッキ
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第4話『勇者の旋律』

さて、そろそろ物語が動き出します。

城の中をベスティアと共に散策する鏡也は何を見つけるのでしょうか。

 アルデバラン王国、首都アルデミラ。

 そこは人間と亜人の共存を掲げた両種族にとっての安住の地。

 それぞれの得意分野を生かし、多種多様な文化の混ざり合うアルデミラは商業都市とも言える場所である。

 町中の道中には所狭しと大小様々な露店や店が立ち並び、客引きの声は競い合う様に尽きる事が無いようであった。

 その道を浅黒いローブを着た人物が歩いている。


「おう、兄ちゃん! 見た所旅人だろう? うちの商品を見ていかねえか! 長持ちするもんばっかり……っておい、無視すんなって! …………ったく、無愛想な旅人だな」


 ローブの男に声を掛けた旅の用品を扱っている露店の店主は溜め息交じりに悪態をつく。

 だが彼は幸運だったかもしれない。

 なぜなら、そのローブの下に隠された寒気がする程の視線を見ずに済んだのだから。


(はっ……くだらねぇ、なんだこの町は? どこを見ても人、人、人。張り付いたような笑顔が癇に障る。儲けたいという魂胆が見え見えなんだよ……任務さえなければ、こんな所――)


 苦々しい顔をしながらローブの男は丘の上に位置している王城を仰ぎ見た。

 太陽の光に彼は少しだけ目を細める。


「勇者……一体、どんな奴なんだろうなぁ。ちったぁ、楽しませてくれるのかねェ……」


 そう呟いて、彼は町の喧騒の中に姿を消していった。





 天井の高い王城の廊下を鏡也とベスティアが歩いている。

 まだ昼ごろではあったが石造りの王城の廊下は鏡也に寒気を与えるには十分な温度であった。 

 ぶるっと身震いする様に身体を震わせた鏡也の肩にベスティアの手が触れる。


「少し寒いですかね? もし寒いなら――」

「大丈夫だよ、ちょっとぶるって来ただけだから」

「そんなはずありません、だって寒そうですもの! それならこうです、えいっ!」


 鏡也の後ろに回ったベスティアは彼に覆い被さる様にひっしと抱き着いた。

 決して大きいといえない控えめな胸が普段自己主張しない分、その柔らかさでここぞとばかりに存在感をアピールしてきている。


「べ、ベスティア! 一体、な、何を!?」

「何って……当ててるんですよ?」

「当てて、って……ッ!?」


 そういうベスティアは柔らかな感触を背中に伝え続けるばかりか、ゆっくり身体を上下させている。

 羞恥心というのが薄いのか、元々の性格か不明だがベスティアは好意を隠そうとしない。

 どこであろうと構わずに自身の想いを鏡也へぶつけてきている。

 鏡也の方はというと耐性がないというのもあるが、自身が勇者という自覚がまだないのもあり彼女の『勇者に尽くす』という想いに真面目に向き合えないのであった。


「いつからこの城は娼館となったのかね?」

「わかりませんが、娼婦というのはどこにでもいるものですからな」

「……メルフォニウム卿」


 そう呟いたベスティアは自身の身体を鏡也から離すと守る様に彼の前に立つ。

 そんなベスティアを一瞥し、メルフォニウム・バッテンフォルトはふんっと鼻を鳴らすと背中を向けた。


「プライベートな内情まで言及するつもりはないが、廊下ではよしてもらおう。皆の品位が疑われるからな」

「…………」


 嫌味を込めた一言を廊下に残し、メルフォニウムはその場を後にした。

 その背中が完全に消えるのを待ってベスティアは嫌そうに口を開く。


「品位が疑われるのは嫌味たっぷりな事しか毎度毎度言えない貴方の方でしょうに」

「べ、ベスティア? 今のは……?」


 鏡也の問いに気づき、先程とは打って変わって笑顔になった彼女は歩きながらメルフォニウムについて説明する。

 その足取りはまだ本調子ではなく、壁伝いにゆっくりとしか歩けない鏡也を気づかったゆっくりとしたものだった。


「あの方はメルフォニウム・バッテンフォルト卿です。貴族であり、この国の守護を任されている家系の現当主ですね。物事に対する能力は優秀で問題はないのですけれど……さっきの通り、嫌味を含んだ物言いしかできない残念な方です」

「そ、そうなんだ」


 笑顔ではあるものの、ベスティアの言葉の最後を締めくくった言い方に鏡也はそれ以上突っ込んだことを聞いてはいけないような気がした為、話をそれとなくそらす。


「あ、あのさ。あそこの石碑は一体なんなんだ? 何かの記念碑とか?」

「え……どれの事ですか?」

「あれだよ、あの中庭の真ん中に立っている青く光ってるやつ」


 鏡也の指さす方には暖かな自然に包まれる中庭の雰囲気とはそぐわない冷たい石造りの武骨な石碑が鎮座している。その石碑は淡く青色に発光しており、嫌でも目に付く様な物だった。

 だがベスティアは辺りをきょろきょろと見回しており鏡也の指さす石碑は一切、目に留まらない様だった。


「ごめんなさい。鏡也さんが言っている石碑ってどれの事なんですか? あ、もしかしてこの世界の石碑という言う意味ではない異界の言葉ですかっ!?」


 知らない知識が出たとばかりに嬉々として迫るベスティアを手で制し、鏡也は彼女の手を握るとその場所までゆっくりと歩いていく。

 中庭の石碑までは常人であれば数歩の距離であったが、半病人である鏡也には少し遠い。

 思ったよりも時間をかけて石碑に辿り着いた鏡也はベスティアの目の前でその石碑に触れてみる。

 その瞬間、青白い激しい閃光が辺りを照らした。


「うわぁぁっ!?」

「きゃぁ!? この光は!?」


 数秒して光が収まるとそこには光を失った石碑が先程と変わらない姿で鎮座している。

 驚いたな表情のベスティアが鏡也よりも先に口を開いた。


「な、何もない所から急に石碑が!」

「俺が触れるまで見えなかったってこ――っ! 頭が痛い……何か、聞こえ……る」


 痛みを訴える彼の頭に直接鳴り響くがごとく、誰かの声が聞こえてきた。


『僕は、この世界を守りたいッ! もう、泣いている人達を……見たくないんだッッ!』 

『させないッ! 僕がいる限り……お前らの好きにさせてたまるかぁぁぁぁーーッ!』 

『僕はこの場所が好きなんだ。だって、優しい気持ちになれるから……』


 よろめいた鏡也をベスティアはしっかりと抱き留める。

 鏡也はベスティアに抱き留められながら目を閉じ、うわ言の様に呟いた。

 その手は空を彷徨い、何かを求めているかのようであった。


「音が……旋律が……聞こえる……どこ、から……」

「旋律? 音、ですか? そんなものは何も……」


 心配そうにベスティアが鏡也を見つめ数分が経った頃、ようやく鏡也は意識を取り戻した。


「ごめん、心配かけて。石碑に触れてから、どのくらい経ってた……?」

「大丈夫です。そうですね、数分といった所でしょうか。それで旋律というのはなんだったんです?」

「旋…律……? そんなこと言ってたの俺?」


 石碑に触れてからの事をまったく覚えていないようだった鏡也にベスティアは先程までの出来事を説明した。

 それを聞いて鏡也はうーんとばかりに首を傾げた。


「音が聞こえる……か。確かに声と一緒に何か聞こえた気はするんだけど、ぼんやりしてるな」

「声、ですか? どんな声だったんです?」

「ああ、えっと少年みたいな声でこの世界を守りたいとか。僕がいる限り好きにはさせないとか言ってたよ」


 少しだけ考え込んでベスティアはある可能性がある事を鏡也に伝えた。

 それはあの石碑が古の勇者にまつわる何かだったのではないかと。

 石碑は勇者である鏡也にしか見えず、鏡也が触れた後にベスティアにも見える様になった事と鏡也にしか聞こえない声と音。それを総合して考えた末の可能性であった。

 だが、それを聞いても鏡也はなんともしっくりこない顔をしている。


「……なんだか納得していないような顔ですね。情報が限られた中でのなかなかの名推理だったはずなんですけど」

「ごめん、ごめん。いや、まだ自分が勇者って事に実感がないんだ。どうも自分の事じゃないような気がして」


 少しむくれた様に見せるベスティアをなだめる様にそういった直後、風切音と共に何者かが中庭に着地した。

 得体の知れない誰かの着地と同時に地面が破砕され、細かな礫片が周囲に撒き散らされる。

 土埃に隠れたその人物はずばやい身のこなしで鏡也へと迫ると腰に装備された短刀を抜き放ち、彼の喉元へと滑らせた。

 しかし、白刃が鏡也に届く前にベスティアの背中から伸びた鋭い蜘蛛の前足が交差してその白刃を受け止めている。


「ずいぶん物騒なお客様ですね」

「おお、蜘蛛の亜人かよぉ! まったく怖いねェ……勇者さんよ、付き合う相手はちゃんと考えた方がいいぜぇ?」


 ローブで身体の大部分を隠した男はにやりと妖しい笑みを浮かべ、鏡也をじろりと見る。

 その視線は常人のモノではなく、どこか常識のタガが外れた人物特有のものであった。


「え、あ……う……」


 突然の急襲に腰を抜かしてしまった鏡也は動くこともできず、ただ口をぱくぱくとさせている。

 それもそのはずであった。

 戦いとは無縁の生活を送って、身の危険なども身近に迫る事はなかった彼にとって初めての命の危機。恐怖で身が強張り、何もできなくなるのは少し前まで病人ではあるがただの一般人の一人だった者として実に当たり前の事だった。

 その様子を見たローブの男は楽しそうに笑い始める。


「あっはっはっはっはっはぁぁーーッ! こいつが今回の勇者かよォ! ただの一般人と何も変わらねえじゃねえか。大変だな、蜘蛛亜人……お前もよぉ?」

「鏡也さんを、鏡也さんを……侮辱するなぁぁぁーーーッ!」


 ベスティアは交差している蜘蛛脚で弾く様に白刃を打ち上げるとがら空きになったローブの男の腹部目掛けて真っ直ぐに拳を放った。

 放たれた拳を男は身体を屈ませながら片手で受け止めると、右の膝蹴りでベスティアの顎を狙う。

 即座に地面を蹴って跳躍したベスティアは掴まれている腕を軸にしてローブの男の頭上を飛び越え背後へとまわった。

 同時にローブの男の身体は宙を舞う。


「なにっ!? おおっ……ッ!?」

「せやぁぁぁぁーーーーーっ!」


 力任せに片腕だけでローブの男は地面へと叩きつけられた。

 ずしんという重低音が振動と共に床を伝っていく。

 止めとばかりにベスティアは背中の蜘蛛脚を振り上げると眼下の男へと振り下ろした。

 その剣と同等とも言える鋭い蜘蛛脚を懐から抜いた短刀で受け止めるとローブの男はベスティアの腹部を強く蹴り、吹き飛ばす。

 くるくると空中で回転したベスティアは手足から糸を放出し、あっという間に姿勢を立て直した。


「あー、やっぱ立て直すか。これだから蜘蛛の相手は嫌なんだよ」

「……次は仕留めます」

「おーコワ。でもさぁ、相手を仕留める事にこだわってると……こういうミスをしちまうぜぇぇーッ!」

「――しまったッ!?」


 不意を突く様にローブの男から放たれた短刀は真っ直ぐに飛んでベスティアの横を素通りし、背後にいた鏡也を狙った。

 その一撃は狙いすましたモノであり、ベスティアと鏡也が一直線に並ぶのを待って放たれた計算されたものであった。

 ローブの男の撃退を第一に考えていたベスティアは自身の位置取りと鏡也の位置の計算を頭に入れていなかったのである。

 ローブの男にとってベスティアに投げられたことすら計算の内であったのだ。

 これはベスティアとローブの男の実戦経験の差が原因であった。


(ダメだ、さ、避けられない! 足が、動かない……ッ!)


 投げる動作が見えていた鏡也であったが、恐怖に支配された身体は鉄の塊の如く微動だにしない。

 もうだめだと思ったその時、彼の目の前に本の様な白と青で彩られた四角い物体が顕現する。

 それは迫る白刃を弾くと、すぅっと鏡也の中へと吸い込まれる様に消えていった。


「なんだとっ! 絶対に殺ったっておもったのによぉッ! ちっくしょぉぉッ! くそ、まだその命、取らないでやるよ、じゃあなっ!」

「待ちなさいッ! 逃がすとでも――」

「これでも喰らって、大人しくしとけよ蜘蛛亜人!」


 そういうとピンク色のガスが詰まった小瓶を床に投げつけ、その煙に紛れてローブの男は姿を消した。


「ベスティアッ! だ、大丈夫か!?」


 ガスが次第に消えていくとその場にベスティアが倒れ込んでいる。息はしているようだが、動こうとしない。

 よろよろしながら彼女の元に近づいた鏡也は心配そうに話し掛ける。

 ベスティアは弱々しい笑顔を見せた。


「だ、だいじょ、うぶ……んっ、くぁ! 命に、別状はぁ……はぁはぁ、ない、んんぅっ! ですから」

「でもすごく辛そうだ。何か俺にできる事ってないのかよっ」

「じゃ、じゃあ……あ、んっ! お、お願いしても、いいですか……? この札を四方に貼って下さい」


 鏡也はベスティアの指示通り、渡された札をベスティアを囲う様に四方の床へと貼った。


「あ、ありがと、うぐっ……ござい、ます……これで、外から、あうぅ、何をしてるか、みえません……」

「ああ、うん……そ、それで後はどうしたら……」


 小さな透明のドームが二人を包んだ時から鏡也の鼻に甘い香りが届いていた。しかもそれはベスティアから放たれている様であった。

 いけない妄想が膨らみそうになるのを抑え、鏡也は次の指示を待つがそれはとても驚愕する事だった。


「え、と……はぁはぁ、よゆーが、ない、んんっ……ので、ストレートに言います。私を、鎮めてくださいぃぃ……もう、げ、げんか……い、なんで、す…………ぐっ」

「な、そんな、鎮めるって! でもそれは、その……ああいうこと、で……でも一体何で!?」

「さっきの、はぁ……亜人にしか効かないぃ、その、本能を解放、す、るような……薬なんで、す。このままじゃ、本能のままに……誰彼かまわず、襲ってしまいます……そんなのは、いや、で、す……」


 戸惑う鏡也であったがさっきよりもベスティアは辛そうで、時折身体をびくびくと痙攣させなにかの衝動に必死に耐えている様であった。

 時間はそう多くは残されていない様だ。

 決断を迫られた鏡也は決心し、ベスティアの身体を抱き起こす。


「本当に、俺で……いいの?」

「はい、んん……っ! 鏡也さんがい、いんで、す……っ」

「わかった……! ま、まずどうしたらいい……?」


 緊張からか震える鏡也の手を優しく握るとベスティアはゆっくりと誘導する。


「ま、うぐぁっ……はぁはぁ、まずはここに――――」





 数時間後、床に座り通路の壁にもたれかかる様にして休む二人の姿があった。

 鏡也は穏やかな寝息を立てており、その頭を愛おしそうに優しくベスティアが撫でる。


「ありがとうございます……鏡也さん。相手が貴方で本当によかった。おかげで大事なく、回復しましたよ」

「……ん、うう……すー、すー」

「ふふっ……ゆっくりお休みください、私の……私だけの――――勇者様」


 ベスティアは鏡也を優しく抱きしめる。

 懐から再び人払いの札を取り出すとそれを投げて床に張り付けた。


「これで人目を気にせずに休めますね。本当はベッドに移動させた方が良いのでしょうけれど、まだ私も真面に動けませんからね……痛みもまだ少しありますし。ここでゆっくりと休んでから移動することにしましょう」


 天井を仰ぎ見る様に恍惚とした表情を浮かべ、彼女は呟いた。


「それにしても、あんな大きさのものが私に――――とても神秘です、驚愕です。なんだか癖になっちゃいそうですね……」


 そんな呟きなどいざ知らず、鏡也は静かにベスティアの肩に頭を乗せ穏やかに眠っている。

 そして二人は身体を休める為、ゆっくりと眠りにつくのであった。

よんでくださりありがとうございます!

勇者の物と思われる碑石の登場。謎の敵の襲撃。そしてベスティアさんにナニカした鏡也。

色々と濃い話になってしまった気がします。

では、また次のお話でお会いしましょう。

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