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病弱勇者  作者: ウケッキ
2/5

第2話 『召喚、病弱男』

(誰だ……この人、役者か何かなのか? いかにもファンタジーですって感じの服装だしな)


 彼――御中 鏡也が自らの前にいる人物を見ての感想はまずそれが最初であった。

 目の前の人物は白い髭がサンタよろしく顎まで伸び、身に付けている衣服はいかにも高そうな装飾が散りばめられていて豪華と言うよりも豪奢である。

 そして一番目を目を引いたのは爺様の頭であった。禿げているというわけではない。

 その頭にはふさふさとした茶色の犬耳があったからである。


(コスプレの上に犬耳……まさか、生えてるなんてことはないよな?)


 その爺様の座る一段下には銀色に輝く西洋風の鎧で身を固めた兵士の様な男がそれぞれ左右に二人ずつ直立で立ったまま待機していた。完全に頭を隠すタイプの兜を付けている為、彼らの目線等わかるはずがないのだが……どうも見られている様な気がしてならない。

 豊かな髭を触りながら爺様は一言言う。


「ふむ、本当にこんな貧相な青年が勇者だというのか、ベスティア・メーディウムよ」

「はい。間違いありません。召喚の術式は勇者のみにしか反応しないのですから」


 爺様の視線を追って右を向いてみると、そこには美少女がいた。

 腰まで伸びた長い黒髪に、白い肌。そして身に付けている巫女風の服装はどことなく日本の古き良き和を感じさせる。とはいっても、動きやすさを重視しているのか露出度はかなり高い方ではあるが。

 彼女を見ていると鏡也は胸が苦しくなるような感覚に陥った。


(胸が苦しい……これはまさか、恋――――)


 締め付けられるような苦しさは全身に広がり、次第に彼から呼吸という概念を奪っていく。

 ああ、これが引き付けられるという事なのか、そう彼が思い始めた頃……彼の身体は限界を迎えた。


(――じゃないッ! 息が、で、できな……い……っ!)


 彼は口に触れてみると、そこには長年装着されていた呼吸器の存在はなかった。

 それどころか、点滴も無ければ身体に接続されていたあらゆる生命を維持する為の機器が消失している。

 彼は苦しさに耐えられず、その場に倒れ込んだ。

 

(く、そっ……こ、呼吸ってどうやる……ん、だっけ)


 微かな昔の記憶を頼りに呼吸してみようとするが、急に動かした肺が真面に酸素を取り込んでくれるはずもなく、口をパクパクさせ空気の漏れ出る音を鳴らすだけにとどまった。


「おい、どうした! 何が起きている!? まさか、魔王の呪いだとでもいうのか!」

「わかりませんが、呪いではありません。魔法の発動による魔力の波長を感じ取れませんから」


 ベスティアは苦しそうに呻く鏡也をみてある予測に辿り着いた。


(まさか、息ができないの? 水にも入っていないのにそんなことって……)


 人間は地上でならば通常、呼吸によって生命活動を維持する。

 水中では酸素をうまく取り込めない為、息ができなくなるという知識があったベスティアはその際の対処法を思いだしていた――――が、それをここで行うにはかなりの勇気を必要とするのもわかっていた。


(あれしか方法はないけれど、例え勇者様とはいえ会ったばかりでそんな事……!)


 悩むベスティアの隣で鏡也の症状は更に深刻化し、苦しそうに地面をがりがりと引っ掻いている。

 もう一刻の猶予はない。

 意を決したようにベスティアは鏡也の方を向くと、その唇に自分の唇を重ねた。

 吸い込んだ息を丁寧に吹き込んでいく。

 周りに者達が固唾を飲んで見守る中、ベスティアによる人工呼吸は数分間続いた。

 呼吸という行為に慣れたのか、鏡也の息づかいが安定し落ち着きを取り戻すと爺様――王は話を続けようと口を開く。


「一時はどうなるかと思ったが、お主のおかげで助かったぞベスティアよ」

「いえ、私は自分の出来る事をしたまでですから。勇者様をここで死なせるわけにはいきません。それならば、あの様な事も必要な事です」

「そうか。流石、巫女の家系であるメーディウム家。その勇者に尽くす気概、しかと見届けたぞ。して、続けて頼みがある、よいか?」


 王の問いにベスティアは跪いて頭を下げる。


「はい、なんなりと」

「うむ。本来は勇者に一人で旅立ってもらう所だったのだが……見ての通り、一人で旅に出すにはかなり心もとない。して、お主に同行者として勇者と共に旅立ってもらいたいのだ。家の方はわしが話しを付けておく」

「わかりました。このベスティア・メーディウム。この命に代えましても、勇者様をお守りし必ずや王の命を全うさせていただきます」

「よし、いい返事だ。勇者の体調がある程度回復するまでは王城にて部屋を用意させよう。二人で自由に使うがよい」

「はい。御心遣い、ありがたい次第に存じます」

「うむ。下がってよい」


 王に一礼するとベスティアは鏡也を担ぎ上げ、謁見の間を後にする。


「う、ん……もっと寝かせて、く……れ……」


 まだこの時、彼女の背中で眠りこけている鏡也は自分に課せられた使命もこの世界の事も、そして本当の自分自身の事も、何一つ知る由もないのであった。

お初の人もそうでない人もこんにちわ、ウケッキです。

勇者のお約束イベント、王との謁見にてまさかの呼吸困難に陥る鏡也。

こんな最低の始まりをしたのはうちの勇者だけじゃなかろうか……。

そんな最弱勇者でもきっと後々強くなってくれる、はず……たぶん……きっと……うん。

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