ホムンクルス マリンさん
名城大学学園祭 個人誌 掲載作品
「マリンさん。どうしてメイドになろうって思ったの?」
「メイドになるべくして生まれたからよ」
「家事とか完璧だもんね」
マリンさんは誇らしげです。
「マリンさんの名前って、海とかのマリンから来てるの?」
「いいえ、ホルマリンのマリンからよ」
「意外」
少年はネーミングセンスの最底辺を実感しました。
「ねぇ、マリンさん。赤ちゃんはどうやって生まれてくるの?」
「培養液と素材さえあれば生まれるわ」
「それはきっとマリンさんだけ」
結局生命の神秘は隠されたままになりました。
「マリンさん。お父さんが帰ってくるよ」
「えぇ、では一緒に待ちましょう」
「なんで水鉄砲を用意してるの?」
少年は訊ねてはいますが、一片たりともおかしいとは思ってません。
「ただいま、みんな!」
「お帰りください、ご主人様」
「すごい辛辣な挨拶だね。それで何で水鉄砲を持ってるんだい?」
ちなみに少年の父親は常識人の皮を被った変態です。
「ご主人様。お風呂にしますか? 食事にしますか? それとも」
「では食事をいただこうか」
「わぁ、マリンさんがいらついてる」
マリンさんは渾身のギャグを中断されて内心マジギレです。
「無表情で顔に水掛けられ……ん? マリンさん、なに掛けたの?」
「純正のホルマリンです」
「お風呂をいただこうか」
マリンさんの誘導はいつも力づくです。
「お風呂ありがとう」
「湯加減はいかがでしたか?」
「灼熱とはああいうものを指すんだね」
マリンさんは執念深い性格です。
「お父さんから爽やかなにおいがする」
「あぁ。それはね、今日もお風呂がマリンの香りだからだよ」
「マリンさんは徹底してるね」
マリンさんはキャラ作りに手を抜きません。
「お父さん、そう言えば話があるって言ってたよね?」
「ん? あぁ。マリンはお前の姉だ」
「そうなんだ」
少年はもう並大抵のことでは動揺しません。
「マリンさんはお姉ちゃんなの?」
「えぇそうよ。それよりももう一回お姉ちゃんと言って貰えないかしら」
「一回呼吸を整えて」
現在マリンさんの目は血走っています。
「なんでメイドしてるの?」
「だって姉でメイドでホムンクルスよ? 萌え要素の塊じゃない」
「いろいろ言いたいけど、僕我慢するよ」
少年は大人に近づきました。