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君色レッスンズ  作者: 柏原ゆら
-another story-
9/13

#02

「こんな時期に転校生なんて、ビックリしたね~」


 急に転校してきた水無飛鳥。彼女は、アメリカから来たと言っていた。ふと、数ヵ月前の塾での望月との会話を思い出す。当時の望月の好きな人は、アメリカへ行ってしまったと言っていた。これは、何かの偶然だろうか? ……きっと、そうだ。アメリカへ渡る人なんて、たくさんいるだろう。


「水無さん、スタイル良かったね~。あの脚の長さ、憧れちゃうなぁ」

「私はそうでもないけど」


 無表情でそう返す一華に、ゆうは「なによっ」と反論を始める。一華も飛鳥と同じくらいの脚の長さの持ち主であるから、きっとそう返したのだろう。

 そんな二人のやり取りを見ながら、授業の為に教室を出る。すると、目の前に現れた人物に足が止まった。


「望月君っ」


 無意識に声が出る。望月が反応したと同時に、隣にいたゆうと一華も反応した。

 望月は、莉乃に柔らかな微笑みで手を振る。莉乃からは、この上ない笑顔が溢れた。望月は、隣に立つ二人の友達とどこかへ移動する途中のようだった。


「あれが、望月英太?」

「そうだよ」

「望月君、やっぱり可愛い~」


 一華は首をかしげ、ゆうはニコニコ笑顔を見せる。莉乃も、なんだか心が温かくなった。


「……あっ、気づけば修馬(しゅうま)君もいるっ」


 突然のゆうの軽やかな言葉に、莉乃と一華は「誰?」と聞き返す。どうやら、先程会話が途中で切れてしまった、例のゆうの好きな人の速水(はやみ)修馬らしい。かっこいいでしょ、と言いながら、莉乃は望月の右隣に立つ長身の男子生徒を指で示した。


(へぇ、あれがゆうちゃんの……)


 ゆうの好きな人が、望月の友達。何という偶然だろう。嬉しそうに微笑むゆうを見て、莉乃と一華は微笑んだ。

 ――そんな時、思いもよらない声が降り注いだ。


「英太っ!?」


 突然の、大きな声。背後から聞こえたそれに、莉乃達三人は振り返った。――そこには、飛鳥の姿が。


(水無、さん……?)


 飛鳥は、何やら顔を輝かせた状態で立ち尽くしていた。それにしても、何故先程望月の名前を呼んだのだろうか……?

 その謎はすぐに解決された。望月の、「飛鳥……」という微かな声が耳に入る。それと同時に、飛鳥が望月めがけて走り出した。


「英太ーーーっ!」


 飛鳥は莉乃達を通りすぎ、望月の隣に立つ友達をも綺麗に避け、驚いた表情の望月に飛び付く。望月は、倒れそうになる勢いでよろけた。


「英太ぁ、久し振りっ。ずっと会いたかったよーっ」

「あぁ、うん。僕もだよ。いつアメリカから帰ってきたの?」

「昨日だよーっ」


 勝手に話を進めてしまう二人。何も言えずに二人を見ていた莉乃達三人と、望月の友達の二人は、何が起こったのかといった表情だった。特に莉乃は、いきなり望月に抱きつく飛鳥を、少々不快に思った。


「……あの~、二人はどういう関係?」


 そんな中、思いきって質問をしたのは、望月のもう一人の友達の彼。名前は蒼井力(あおいりき)というらしい。知り合いだというゆうが、こっそり耳打ちしてくれた。

 力の質問に、望月は「あぁ」と答えた。


「この水無飛鳥は、僕の小さい頃からの友達だよ。中学生になるとき、急にアメリカへ行っちゃったんだ。日高さんは知ってるよね」


 そう言われ、自分の予想が的中したと確認する。やはり、この帰国子女 水無飛鳥は望月の過去の想い人だったようだ。

 望月の言葉に、「あ、うん……」と曖昧な言葉を返す。が、そんな莉乃の声も、飛鳥によって消された。


「英太ぁ、何それ? すごく『私達はそんなに仲良くありませんでした』って聞こえるよ~」


 もう、と望月の頬を細長い人差し指でつつく飛鳥。だが、望月は嫌な顔ひとつしない。それもそうだろう。過去だとはいえ、一度でも好きになった相手なのだから。

 そうわかっているのに、腹が立つ。昔仲が良かったのはわかるが、それは過去の話であり、今は莉乃のカレシなのである。飛鳥はそれを知らないにしても、英太も何も言わないなんて。

 ――やきもちなことくらい、わかっているのだ。

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