#07
その日は、少し早めに来てしまった。
いつもより早いせいか、望月はまだ来ていなかった。また、心臓がドキドキし始めた。望月の事を考えるとこうなのだ。
すると、望月が教室に入ってきた。
「あれ、日高さん、今日は早いね」
「あっ、うん。まあね」
あはは、と苦笑いをする。望月は、今日はそのまま鞄を横に掛けて突っ伏した。今日は授業に出てくれないみたいだ。二日連続はつらいのだろう。
莉乃には、この沈黙がつらかった。それに、何か望月と話したい。そう思った時には、既に声をかけていた。
「あのさ、望月君……」
望月は、ん? とこちらに顔を向ける。胸が高鳴る音を聞きながら、問いかけた。
「望月君って、好きな人いるの……?」
自分で訊いて、驚いた。何故そんな質問をするのか、わからなかった。取り消そうか。そこまで思った。
だけど、なんだか気になる。言ってしまったからには答えを聞きたい。すると、望月は何の躊躇いも無く答えた。
「……いた、かな」
望月は、そう言って遠くを見つめた。
過去形の意味は何なのだろうか。付き合っていて、別れてしまったという事だろうか。それとも、相手にカレシができてしまったという事だろうか。
不思議にえ思っているのを読み取ったのか、望月は口を開いた。
「実はその子、つい最近アメリカに行っちゃってさ。すごく仲が良くて、たぶん両想いだったかもしれない。だけど、伝えられずに彼女が行っちゃってね」
(……そういう事だったんだ)
今は日本にいない。だから、過去形なんだ。
「なんかごめん……」
「べつに大丈夫だよ。彼女だって向こうでカレシができているだろうし、もう僕の気持ちも晴れたしね」
気持ちが晴れた、と聞いて、ホッとしてしまった自分がいた。わかっている。もう、誤魔化さない。これは――
(――好きっていう事なんだ)
はっきり理解した。莉乃は、望月が好き。アメリカにいる彼女に負けないくらい、望月が好きなんだ。
長かった授業が終わり、望月は相変わらず早々と教室を出ていった。その後を、莉乃は追いかける。何故追いかけているのかはわからない。でも、少しでも望月に近づきたくて。手を伸ばしたくて。気づいたら、声をかけていた。
「望月君っ!」
望月は、ゆっくりと振り向いた。目を丸くして莉乃を見る。周りに人はいない。
「どうしたの?」
優しい声に、再び胸が高鳴る。心臓の音が邪魔をして、上手く言葉を発する事ができない。それでも、望月は何も言わずに待ってくれた。
「……好きです」
ようやく振り絞った言葉は、これだった。望月は、更に目を丸くする。
「私、望月君が好きです。誰よりも、好きですっ」
恥ずかしくて倒れてしまいそうだ。でも、踏ん張って、望月の言葉を待った。
「……それで?」
待ちに待った末、望月の口から出た言葉はそれだった。『それで?』とは、どういう事だろうか。他に言う事でもあるのだろうか。
不意に、ある言葉が頭に浮かんだ。ハッとなり、その言葉を口にする。
「私と、付き合ってくださいっ」
すると、望月はいつものように微笑んだ。
「よろこんで」
私の日常は、君の色で染められていく。
これにて完結となります。読了ありがとうございました!
なんだかこれで終わる気がしない……そんな気がしませんか?(笑)
そうなんです。これで終わらせません。
今後のお話を、いつか書きたいと思っております。でも、今はもうひとつのほうを優先したいので、おそらく投稿は暇ができる三月頃かなぁと。この後に続けて書くかたちにします。一応、完結設定にします。
改めまして、読了ありがとうございました。感想、評価等よろしくお願い致します!