#03
今日は数学の授業だ。
教室に入った瞬間、莉乃は教室内を見回した。どうやら、今日は郁美はいないらしい。ホッと一息つく。そして、寝ている彼がいる隣の席へ向かった。
やはり、今日も寝ている。いや、『寝ているフリ』だろうか。
(マイペースだなぁ……)
ふと、先日の彼の言葉を思い出した。何故、彼はあんなにお見通しだったのだろうか。会って間もないはずなのに。それに、余計なアドバイスまでしてきて。余計な、は失礼だろうか。
そんな事を考えていると、数学担当の先生が教室に入ってきた。席を離れていた生徒達が、一斉に自分の席に戻る。
「今日、中学の内容で一番大切なところをやるぞー」
突然、先生はそう告げた。『一番大切なところ』と聞いて、生徒達は嫌そうな声をあげる。『大切なところ=重々しい内容』とでも思っているのだろうか。そんな中でも、彼は平然と寝ていた。
大切な内容の時くらい、起こしてやったほうがいいだろうか。でも、睡眠妨害をするのも心が痛む。いろいろ悩んだ末、結局起こす事にした。
「……も、望月君。起きてっ」
小さく体を揺すってみると、望月はゆっくりと体を起こした。寝ぼけ眼を擦って、莉乃を見る。どうやら、今日は本当に寝ていたようだ。
「大切な内容、やるみたいだから」
それを聞くと、望月は一瞬悩んで、再び机に突っ伏した。「ちょ、ちょっと!」と望月を再び起こす。折角起こしたのに、また寝てしまうのだろうか。莉乃の勇気は無駄になった。
「大切な内容らしいけど……」
「大丈夫。僕、天才だから」
は? と、耳を疑った。この人は何を言っているのだろうか。自分の事を『天才』と称するほど、頭が良いのだろうか。
そんな事を考えているうちに、望月はいつの間にか眠りについていた。少しこちらに顔を向けていて、寝顔が見える。フワフワした髪が、少し邪魔そうだった。
(……可愛い)
そう思い、クスッと笑った。