#03
「莉乃……大丈夫?」
突然降りかかってきた一華の言葉に、ビクリと肩が震える。ボーッとしていた莉乃を心配に思い、声をかけてくれたらしい。
「……あぁ、うん。大丈夫だよ」
「それにしても、水無さんって空気読めないっていうか、莉乃と望月君のことを知らなかっただけなんだろうけど……」
なんかねぇ、とゆうは顔を歪ませる。そんなゆうを見ながら、莉乃は先程の場面を思い出した。
『二人ともベッタリくっついちゃってるけど、そういう関係なの~?』
ベタベタな望月と飛鳥の間に一言入れたのは、またもや力だった。力の顔は悪戯をするような、冷やかしそのものだった。力のその言葉に、莉乃はビクリと反応する。が、望月はいたって冷静に答えた。
『いいや、そんなんじゃないよ。現に、僕にはカノジョがいるし』
ね、と望月は微笑みかけてくる。その笑顔に、カアアと顔が熱くなった。一方で、飛鳥が声をあげた。
『えぇっ!! 英太、カノジョできちゃったのー!?』
飛鳥だけでなく、修馬や力も望月に詰め寄る。望月は、あっさり莉乃がカノジョだということを明かした。飛鳥達は、一斉に莉乃を見て、この子が……と各々感想を語っていた。
とその時、授業開始五分前を告げる予鈴が鳴った。
またね、と望月に手を振り、莉乃達は移動先へ向かったのだった。
「――にしても、望月君って結構素直な子なんだねぇ。それに、めっちゃ莉乃に笑いかけてたし」
「相当莉乃のことが好きなんだろうね」
「へっ!?」
驚く莉乃をよそに、ゆうは一華の言葉に頷く。二人は楽しそうに語り合うが、莉乃の心は霧がかかったようにモヤモヤしていた。
飛鳥は、以前望月が想いを寄せていた人。望月曰く、飛鳥も望月が好きだった。そんな人が突然目の前に現れるなんて、嬉しいに決まっている。気持ちは晴れたと言っていたが、飛鳥はまだ好きなようだし、気持ちがぶり返してもおかしくはない。
自分は邪魔なのではないだろうか。そんな不安がよぎった。
「ねぇねぇっ」
突然、何者かに肩を叩かれる。ハッとなり、振り返ると飛鳥がいた。どうやら、莉乃達三人に話しかけたらしい。
「教室ってどこだっけ? 帰り方忘れちゃって」
あはは、と苦笑しながら問われた。教えるのも癪なので、ついてくるよう飛鳥に言った。
そんな時、飛鳥が莉乃に話しかけた。
「日高さんが、英太のカノジョなんだよね?」
「う、うん」
「そっか。英太をよろしくね!」
え……と、莉乃は固まる。何か、悪いことでも言われるのかと思った。なのに、なんなのだろう、この笑顔は。飛鳥が全く理解できなかった。