鍛治場
古より伝わる秘術を持って、今、一振りの刀を鍛えている。
トンテンカン、トンテンカンと相槌の音が、静かな鍛冶場の中で響いている。
一方で、火の勢いはいまだ衰えず、俺たちに向かってその牙をむいている。
今は手野公園の中にあるが、昔は何もない山奥だった。
昔に閉山となった手野鉱山から採れた石炭を使い、刀を作るようになったのは、江戸時代後期のころと伝わっている。
そのころから、今に至るまで、この鍛冶場では、刀をはじめとする刃物を打ち続けている。
秘術は、初代がその師匠筋から教わったこととして伝わっているが、真偽のほどはわからない。
刀を油にさし入れ、さらに鍛え続ける。
何度も何度も、手作業での出来事だ。
「ふぅ、」
思わず息も漏れる。
ようやっと、刀が一振りできたのだ。
この秘術を使うことができるのは、年に2回。
それも、どこかの神社などに納めるときに限っている。
今回は、手野八幡神社において使う神事用の刀ということで発注を受けたわけだ。
何に使うかということも聞いて、さらにその刀の形状、重さ、寸法その他いろいろなことをまとめて聞く。
それによって、刀は美術品から実用品へとなるのだ。
これから幾多の工程を経て、刀が仕上がっていくことになるのだが、俺ができるのはここまでだ。
あとはそれぞれの専門家の手にゆだねられることとなる。
その前に、神棚へとお供えし、刀の無事と、鍛造が無事に終わったことをお伝えする。
「今回も、無事に終わりました。誠に、ありがとうございます」
これで俺の番は終わりだ。
その場にいる別の専門家に刀を預けた。
「よろしく頼みます」
「はい、受け取りました」
一種の儀式だ。
それが終わって初めて、次の刀の鍛造へと取り掛かることができた。




