皇帝陛下と墓職人
大昔、アジパタという大きな帝国があった。
若きセラムスは皇帝の座に即位すると、臣下に最初に命じたのは墓作りだった。これは歴代の皇帝も行ってきたので、珍しい事ではない。
「しかし、私の墓は誰のモノよりも大きく、かつ立派でなければならぬ。どれだけ金と奴隷を使っても構わん。よいモノを作れ」
玉座でこういうと、国の蔵を司る臣下が進言する。
「陛下、お言葉ですが……」
「何だ」
「金の方はともかく、人手が足りません。三代前のストメット陛下の墓ですら、まだ未完成なのです。如何いたしましょうか」
「ふむ、それは問題だな」
臣下の言う通り、アジパタの各地で先祖の墓が建造中だ。とはいえ、それをセラムス自身の墓のために、中止する訳にはいかなかった。
「先祖をないがしろには出来ぬからな。だが、私の墓は作らねばならぬ。誰か、よい案はないか」
すると、今度は建設を司る臣下が進み出た。
「陛下、私に妙案があります」
「申してみよ」
「ちょうど先ほど、優れた墓を作る職人が城まで売り込みに参りました。彼に頼んでみては如何でしょうか」
セラムスは銀の杯に入ったワインを傾けながら、眉をしかめた。
中の赤い液体を、臣下にぶちまける。
「ふざけた事を申すな。平民の墓ならともかく、皇の墓だぞ。職人一人雇ったところで、どうにかなるモノか」
臣下は絹の布で顔のワインを拭きながら、セラムスの問いに答えた。
「それが、そのたった一人の職人ですが、これまであちこちの国で幾つもの大きな墓を作って来たとの事です。東のアッシルペの王の墓をご存じでしょうか」
「ふむ、噂は聞いている。どのような盗掘家も寄せ付けぬ、難攻不落の墓だな。星の形をしている、面白い墓だと聞く。……待て。あの墓を、お前が言う職人が作ったのか」
「そう、聞いております」
セラムスは、唇を笑いの形に歪めた。
「よかろう。その職人を雇い呼べ。金はいくら掛けても構わん。どのような妖術で墓を作っているのか興味がある。ただし、もしも嘘ならば首を刎ねよう」
「かしこまりました」
謁見の間に現れたのは、簡素な服に身を包んだ小柄な少年だった。いや、あるいは少女なのかもしれないが、顔立ちからはよく分からない。
「シェセプと申します」
愛想がいいのか悪いのかもよく分からない、不思議な雰囲気の人物だった。
「思った以上に若いな」
「それはボクも同じ思いですよ、陛下」
ふん、とセラムスは鼻で笑った。
確かにセラムスは皇帝としては若い。生まれた日から数えると、まだ九千日を超えた程度だ。
もっともそれを言うなら、シェセプは六千日に満ちているかどうかも、怪しい顔立ちではあるが。あるいは恐ろしく若作りなのかもしれない。
「貴様が話に聞く墓職人か」
「はい、シェセプと申します」
「ふん、報酬なら弾もう。人手は何人いる」
シェセプは首を振った。
「必要ありません。ボク一人で充分です」
その言葉に、周囲の臣下達がざわめいた。
セラムスが玉座の肘掛けを叩くと、部屋がしんと静まりかえった。
「ふざけた事を申すな。たった一人で私の墓が造れるはずがないだろう」
墓として用意された土地は、町一つをまるまる飲み込むほどの大きさだ。そして高さは山ほどになる予定でもある。
「それが出来るんですよ。設計の方はありますか」
「今、建設に携わる職人達が、線を引いている」
「出来れば、それもボクがしたいのですが」
「構わんが、私が死ぬまでには完成するのだろうな」
「そうですね。……太陽が百回昇るまでには何とか、でしょうか」
指折り数え、シェセプが言う。
再び、臣下達がざわめいた。馬鹿な。大言壮語もいい加減にするべきだ。出来るはずがない。
主君であるセラムスは、鋭い視線でシェセプを射貫いた。
「よかろう。もしも出来なかった場合、そのよく動く舌をちょん切ってやる。しっかりと務めを果たせ」
皇帝の視線にもまったく怯む様子なく、シェセプは頷いた。
「はい。では、報酬の方、よろしくお願いしますね」
シェセプが去った後、セラムスは臣下の一人に視線をやった。
「おい」
「は」
屈強な肉体を持つ将軍が、跪いた。
「奴の仕事ぶりを見張り、私に報告するようにしろ」
「かしこまりました」
それから十数日後。
「どうだ」
セラムスの前に、将軍が跪いた。
「すごい速度で図面を引いています」
「墓を作るのだから、当然だな。それ以外は」
「特に何もございません。朝と夜の二食、食後の散歩以外は工房にこもっております。いつ眠っているのかも分からないほど、夜も灯りがともりっぱなしです。あとは、石切場を頻繁に訪れるぐらいでしょうか」
「そうか。図面はどれぐらいで出来そうだ」
「おそらく、数日中には」
「よかろう」
更に日が過ぎ、再びシェセプは謁見の間に現れた。
「図面が出来ましたよ、陛下」
セラムスは頷き、草を編んだ紙に描かれた墓を見た。
たてがみも立派な、二つの首を持つ猛獣を象った立派な墓だ。
「……大したモノだ。しかしこの規模の墓を作るには、一万の奴隷が三代続いて働いても時間が足りぬのではないか? それぐらい、私にも分かるぞ」
「しかし、陛下の希望はこのような墓なのでしょう?」
「む……その通りだ。このような墓が出来るならば、言う事はない」
セラムスは図面を丸め、シェセプに放り投げた。
それを受け取ると、シェセプはその図面を懐に収めた。
「では、これより墓の建造に取りかかります」
「太陽の残りは六十回だぞ」
「充分です」
そしてシェセプは部屋を出て行った。
「しかし、たった一人でどうするつもりだ……?」
引き続き将軍に監視を命じているが、やはりシェセプの事が気になった。
執務室での仕事にも、身が入りにくい。
このままではいかん。一度、仕事ぶりを見に行くか、などと思っていると……。
「へ、へ、陛下!」
屈強な将軍が、部屋に飛び込んできた。
「何だ騒々しい。首を刎ねるぞ」
「た、たた、大変です。石が、石が……」
慌てふためき、将軍はセラムスと出口を交互に見る。
「何だ、石が喋りでもしたのか」
「い、いえ、そうではなく……石が、勝手に動いて……墓を作っています」
「何だと……?」
セラムスは席を立った。
セラムスが馬車から降りると、そこは墓の建設予定地だった。
青空には高く、太陽が昇っている。
その真下には、胴体まで出来たセラムスの墓があった。その墓を、岩を固めた巨大な人形が何体もよじ登っていく。
岩人形の一体が頂上まで登ると、その場に崩れ落ちた。
崩れた岩を、他の岩人形が組み立て、まだ出来ていない墓の部分を造っていく。
墓の麓に、帽子をかぶり図面を広げたシェセプがいた。
「おや、陛下。これはようこそ」
「これは一体何だ……」
自分たちの目の前を、おそらく石切場から来たのだろう、新たな岩人形が重い足音を立てながら横切っていった。
「魔術の類です、陛下。別にこの国では禁じてはいませんよね」
「あ、ああ、うむ……まあな。この国の呪術には、このような術はないので、少々驚いた」
アジパタの呪術は、主に人間に作用するモノだ。肉体を活性化させたり、逆に呪殺に掛けたりする。
土塊を操る術などは、ないのだ。
こんな大がかりな術は、セラムスも初めて見た。
「安心しました。故郷では、ヲロク……魔導師しか使ってはならないモノで」
そこで、セラムスはピンと来た。
「……貴様、もしや八大国の生まれか」
「はい」
八大国とは、このアジパタから遠く東にある、厳格な身分制度で知られる国家群だ。その中でも王族を越えて頂点に立つ特権階級がヲロクと呼ばれている。
彼らは不思議な術を使うという話を、セラムスも聞いた事があった。
「別に処刑はせぬ。詳しく話せ」
「大した話ではありませんよ。故郷である八大国には、このような――」
ズシンズシン、と次の岩人形が地響きを立て、墓へと向かっていく。
それをシェセプは指さした。
「――魔術がれっきとして存在します。ただし、扱っていいのは第一位の魔導師階級だけで、それ以外の身分の者が身につけると死罪とされます」
「なるほど。他の身分の者が使えるのでは、魔導師という階級そのものが瓦解してしまうのだな」
「お察しの通りです。ボクの身分は家や墓といった建築を扱う第三位階級のメストラ、いわゆる職人階級だったのですが、当時のボクには不満がありました。ボクは設計が好きなのです。しかし理想の建物を造るのに、どうしても人手と時間が掛かりすぎます。頭の中には、造りたいモノは山のようにあるのに。そこで、こっそり森に住む妖精からこの術を学びました。最初は魔導師の屋敷から巻物を盗もうかと思ったんですけどね」
「他の術は使えないのか」
シェセプは首を振り、苦笑した。
「必要がありませんから。この術を使う事により、石材の運搬の手間を省き、かつ建造も容易となりました。まあ、それと引き替えに故郷を追われる事となりましたが」
「これが、お前一人で墓を建てられている秘密という訳か」
「秘密という訳ではありませんけどね」
確かに、これだけ大がかりな術、秘密にしようとしても出来ないだろう。
だが、実際に見でもしない限り、にわかに信じがたい。シェセプの名が知られていないのは、この術の事を周囲の人間が話しても誰も信じないからではなかろうか。
「シェセプ、この術を私に売るつもりはないか。金なら払うぞ」
「残念ですけど、精霊の力を借りるこの術を覚えるには森の奥深くにある妖精郷に赴く以外、手段はありません。人間が教えられるモノではないらしいのですよ」
「そうか、それは残念だ……しかしなるほど。これならば、期限までに墓は出来るだろう」
セラムスの見たところ、彼の墓はもう半分以上出来つつあるようだった。
「ええ、大丈夫ですよ」
「ならば、励め」
「はい。それでは作業に戻ります」
セラムスは頷き、馬車に戻ろうとした。
そこに、再び将軍が焦った様子で駆け寄ってきた。
「陛下、少しお話がございます」
「何だ。急ぎの用か」
「南の隣国シャベロニアが攻め込んで参りました。おそらく陛下が先代から皇位が継承され、国が完全に安定しきる前を狙った侵攻でしょう」
セラムスは表情を引き締めた。
「何だと……舐めた事をしてくれる。急ぎ兵を出せ。迎撃し、完膚無きまでに叩き潰せ。私自身も出る」
「は……」
「よかろう。この国の力を思い知らせてくれる。十倍返しだ」
不敵に笑っていると、不意に後ろから視線を感じた。
振り返ると、シェセプが将軍とのやりとりを見ていたようだった。
「お前は自分の務めを果たせ。さらばだ」
「はい」
そして戦争が始まった。
不意を突かれたアジパタ国だったが、皇帝であるセラムス自身が軍を進め、次第にシャベロニアを押し返していった。
そしてそのままアジパタ軍は、逆にシャベロニア国内へと侵攻を進めていった。
しかし、すべてが順調という訳にはいかなかった。
「戦況はどうだ」
天幕の中での軍会議。
セラムスの問いに、将軍の一人が汗を掻いた。
「我が軍が不利です。さすがに地の利は向こうにあるようです。中でも王都を攻めるには、間にあるオドスルという大きな山が邪魔になっております。あの山さえなければ……」
机の上に広げられた地図では、アジパタ軍とシャベロニア王都の間に、巨大な山がそびえ立っていた。
ふん、とセラムスは水を飲みつつ、つまらなさそうにその山を指さした。
「ならば、この山を退けよ」
「へ、陛下、さすがにそれは……」
「冗談だ。ならば、この山を逆に利用するまで。山の頂上に城砦を築くのだ。そこを拠点に一気に王都を攻める」
おお、と将軍達の間から、ざわめきが漏れた。
だが、問題がない訳でもなかった。
「お言葉ですが、敵もそれは想定の内に入っているでしょう。妨害される可能性が高いのですが……如何いたしましょう」
将軍の一人の問いに、セラムスは頷いた。
「当然だ。築城は迅速に行わなければならぬ。そこで……」
「ボクの出番、という訳ですか」
数日後、わざわざシャベロニアまで呼び出されたシェセプは、天幕の中でセラムスから話を聞き、目を瞬かせた。
「出来るか」
セラムスの策とは、シェセプの岩人形を用いて山の上に城砦を建造するというモノだった。
「もちろん可能ですけど、墓の完成が遅れますよ」
「構わん。こちらを優先させろ。どれぐらいで出来る」
「砦というのは初めてですからね。設計が四、造るのに一……太陽が五回昇るぐらいで如何でしょう」
指折り数え、シェセプは答えた。
奴隷を用いた築城よりも圧倒的に早いのは、この場にいる誰もが分かっていた。
「ふっ……それぐらいなら、充分待てる。よかろう。励め」
「はい」
……シェセプが造ったオドスル城砦を拠点に、アジパタ軍がシャベロニアを制圧したのはそれからすぐ後の事だった。
皇都に戻ったセラムスは、臣下達を前にこう宣言した。
「このような事が二度とあってはならぬ。よって、各地の拠点を強化、国の四方に新たな難攻不落の城砦を築く事にする。そしてこの皇都には呪力を集めるための、巨大な塔を建造する。設計はシェセプ、お前に一任しよう」
その言葉に、シェセプは小さく首を傾げた。
「また、墓の建造が遅れますけど、いいんでしょうか」
「私が許す。そちらは国が安定してから築け」
「はい。数が多いので、こちらも墓造りと同じぐらいの日が掛かると思いますけど、よろしいですか」
「いいだろう。それから三代前から滞っている、先代の墓の建造も任せよう。その代わりと言っては何だが、お前に新たな報酬をやろうと思う」
「何でしょう」
「この宮殿もそれなりの歴史があるが、いささか疲労が目立ちつつある。造り直す事は可能か」
「宮殿ですか……」
興味が沸いたらしく、シェセプは微笑んだ。
「ボクに設計を一任してもらえるのなら」
「無論だ。好きにするがよい」
シェセプが去って後、臣下の一人が不安そうな表情で進み出た。
「陛下、よろしいでしょうか」
「何だ」
「シェセプの腕が確かな事は分かります。しかし、流れの平民にここまで国策に携わらせるのは、如何なものかと」
「ふん、何だそんな事を心配しているのか。問題はない」
「と、申されますと……?」
セラムスはそれには答えず、軽く手を振って彼を退けた。
シェセプはよく働いた。
セラムスの命令通り、国の各地の砦を整え、四方に立派な城砦を築城した。
呪力塔に加え、宮殿も造り直された。
そして、ついにセラムスの巨大な墓も完成した。
晴天の下、凛々しい双頭獣の像がそびえ立っていた。
「おお」
セラムス以下、アジパタの臣下団も思わず声を漏らしていた。
「如何でしょう」
「素晴らしい墓だ。よくやってくれた」
セラムスは力強い笑みを浮かべると、シェセプの手を握った。
「ありがとうございます」
「では、最後の一働きをしてもらおうか」
セラムスは手を離すと、指を鳴らした。
二人の間を、兵が割って入る。
そして、シェセプは槍を構えた兵達に取り囲まれた。
「これは、どういう事でしょう?」
慌てるでもなく、シェセプはセラムスに尋ねた。
「お前はよくやってくれた。しかし、国の機密は守らねばならぬ。お前の口から情報が漏れ、私の死後、墓が荒らされては困る」
「そんな事、しませんよ」
「許せ。皇として万が一もあってはならぬ。案ずるな。貴様にも私ほどとは言わぬが、平民として最高の墓を用意してやろう」
「後悔しますよ」
シェセプの言葉を、セラムスは鼻で笑った。
「それは、お前が悩む問題ではないな。――やれ」
シェセプは無数の槍に全身を貫かれ、その場に倒れた。
部下達にシェセプの死体の処理を任せ、セラムスは馬車に乗り込んだ。
皇都に向かい揺れ動く馬車の中で、一人呟く。
「さて、これで国は盤石。墓作りに費やしていた奴隷達の労働力も確保出来た事だし、これからは内政に力を注ぐ事にするぞ」
馬の駆ける音が外から響き、セラムスは窓を開いた。
騎馬で馬車に併走しているのは、将軍の一人だった。確か辺境を警備している軍の指揮官のはずだ。
「へ、陛下!」
「何だ、騒々しい。また、どこかの国が攻めてきたか」
「そ、それが……か、各地の城砦が……」
「何……!?」
嫌な予感にセラムスは、馬車から身を乗り出した。
「逃げろ! みんな逃げるんだ!」
石壁が崩れていく。
兵達が駆け抜ける石の廊下も、もうグラグラと不安定だ。
その廊下のあちこちが、下へと抜け落ちていく。
そうなると、崩壊はあっという間だ。
アジパタの兵達もろとも、砦は瓦礫へと変わり果てていく。
それは一つだけではない。
もしも天からアジパタの国を見られる者がいるなら、国のあちこちで膨大な土埃が発生しているのが見て取れただろう。
その中でも特に目立つ土埃は、四方にあるシャセプが一から造った大城砦だ。
やがて崩壊が一段落すると、瓦礫は自動的に蠢き始めた。岩が徐々に積み重なり、それは見上げるほど大きな人の形を取った。
各地で新たに生まれた元城砦の巨大岩人形は、アジパタの国内の蹂躙を開始した。
ガン、とセラムスは馬車の窓枠を拳で叩いた。
「……おのれシェセプ、やってくれたな。これが、奴の言っていた、後悔か」
そこで、ふとセラムスは気がついた。
「……待て。という事はもしや」
彼が造ったのは、城砦だけではない。
「陛下、前方をご覧下さい! 城が! 巨大な岩人形に!」
セラムスは、馬車から大きく身を乗り出した。
馬車の進行方向、皇都では、既に白亜の巨大岩人形が発生し、塔を槍のように振り回して都市の破壊を始めていた。
「シェセプ……!!」
セラムスは、ギリ……と歯を食いしばった。
だが、このまま白亜の岩人形が暴れる皇都に向かう訳にもいかない。
セラムスを護衛していた将軍の一人が、いち早く御者に向かって叫んだ。
「引き返せ! 陛下を安全な場所に逃がすのだ!」
その言葉に、馬車は即座に反転した。
そして、セラムスは見た。
遠くで、四肢を踏みしめ双頭の獣が起き上がっていた。四つの鋭い瞳と、セラムスの目があった。
「はっ……」
引きつった笑いが自然に浮かぶ。
双頭の獣は跳躍すると、大きな影が地面に生じた。
セラムスが最後に見たのは、太陽を背に自分に飛びかかる獣の前足の裏だった。
悲鳴を上げる暇もなく、セラムスは臣下もろとも自分の墓に押しつぶされた。
地面から、手が突き出る。
やがて、土まみれになったシェセプは地面から出ると、自分の身体の汚れを叩いた。血が一滴も出ていない穴だらけになった身体を、幾つもの石が埋めていく。
シェセプはセラムスの墓の跡地を眺め、それから皇都の方角で大暴れしている白亜の岩人形を見た。
日が暮れ、もう一度日が昇る頃には、アジパタという国は滅んでいるだろう。
シェセプは、頭の中にアジパタの地図を思い浮かべて微笑んだ。
「さて、国一つ造り直す仕事か。腕が鳴るなぁ」
古い作品の再掲載をーみたいな話が活動報告で出ましたので、別サイトに掲載していたモノを、ちょっと出してみました。……六年以上前だと……!?
か、感想お待ちしております……来るといいなあ。