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おにぎり

段々食べ物要素が薄くなってきたような・・・。あと短編詰め合わせ感が。

 ――痛いよ――


 ――何でみんな僕を見ると苛めるんだろう――


 ――痛いよ――


「あら? ねぇあなたどうしたの怪我してるわよ? ほらちょっと見せてごらん?」


 ――そう言って僕を苛めるんでしょ? 分かってるもん――


「? 何言ってるの? いいから怪我見せなさい。治してる間これでも食べてなさい」


 ――……良いの? ほんとに良いの?――


「勿論良いわよ、あなたにあげたんだもん。……ねぇ、そんなにここに居るのが怖いなら一緒に来る?」


                     ・

                     ・

                     ・


 今日は朝からポツポツと人が良く来るのでおちおち外出も出来ないな……。

 ユリカにお店を任せて不足分の野菜とか肉とか採って来たいのになぁ、さすがに養殖とは言えユリカにミノタウロス狩って来てなんて言える訳も無いし。


 カウンターに座り珍しくうな垂れつつそんな事を考えて居ると、腰に手を当て呆れたような顔でユリカが僕のことを見つめていた。


「もう! どうしたのブラン? お店開いてるんだからダラダラしないの!」

「うーん……そうなんだけどさ、そろそろ食材が切れそうでさ」


 前もって準備しておいた分はあったけど、朝から今日は休みらしいディルさんが部下の人を何人も連れてきて片っ端から飲み食いされたら、在庫も無くなっちゃうよね……。


「なぁブランさん。俺が採ってきてやろうか?」

「いやいや俺が行ってくるってブランさん!」

「俺俺!俺行きたい!」


 常連のみんなはこうやって言ってくれてるけど……


「んー? 大丈夫って言うかそんな事させられないよ。危ないしね」


 上手く狩らないと旨みも落ちるし……と言うのもあるけど、実際危ないしね。あんまりよく分からないけどミノタウロスって多分それなりに強いもんね。


「大丈夫だって! 俺らだってそれなりに腕に覚えのある冒険者なんだぜ!?」

「うーーん……じゃあ牧場からミノタウロスを二頭と」

「ブラーーン!! この子に何か食べさせてあげて!」


 常連に達に少し無理なお願いをしようとした丁度その時、扉を蹴破ったんじゃないかと言うような勢いで入って来たのはリラ。

いや……良いよ? 僕としては怪我が無ければ良いんだけど、常連のみんなが引きつった顔してるからさ、リラ。


「やぁ、一晩振りだねリラ。みんなが怖がってるからもっとお淑やかに来店して欲しかったな……って、その子が……お土産?」

「ねぇブラン? それ本気で言ってる? あとみんなが引いてるのはあなたが変なお願いするからでしょ?」


 振り向いて確認するとみんな一斉に首を縦に振り出した……やっぱり調達は自分で行かないといけないそうです。長く生きてても分からない事は多いね。うん。


「ねぇ、簡単な物で良いから作ってよ」


 その声でふとリラが抱えている子に視線を落とすと、ボロボロの布切れ一枚で身を包んだ金色の髪の幼い少年が、怯えながらその金色の瞳で僕を見つめている。

 リラが誰かを連れてくるのは珍しい……と言うかこれは……えーとえーと、あれあれそうあれ。


「……ミミック?」


 金髪の少年に顔を近づけてまじまじと観察した結果、多分そうだと思う。うん。


「ちょっと! 怖がらせないでよ!」

「いたっ!」


 ちょっと見てただけじゃないか……おもいっきり頭叩かなくてもいいのに……。ほら見てよ、みんな真っ白な顔で驚いてるじゃん。


「すげぇ……ブランさんに一発入れたよ……」


 訂正、何か違ったみたい。


「この子さっき世界樹の下層で見つけたのよ。もう箱として機能しない位壊されてたから急いで私の魔力で人型にしたんだけど……」


 ミミックは元々宝箱に擬態して冒険者を襲うんだっけ? 返り討ちにあったかミミックの財宝に目が眩んだ冒険者が襲ったか……ん? 冒険者?

 ふと思い出して常連の方を向くと、青白い顔のそれと目が合った瞬間みんな気まずそうに視線を反らす。


「ねぇ……いっぱい思いついちゃった事があるんだけど発表して良い? 今度にしておく?」

「今度で」


 ですよね、うん。でもリラは気付いてるっぽいし、肝心のミミック少年が露骨に怯えてるしね。お店の中でのいざこざは嫌だな。


「まぁ……しょうがないよね、みんな生きて行く為には……ね。ねぇ、えーとミミック君? 何が食べたい?」


 怖がらせないようにあまり近付かずに聞いたつもりだったけど、完全に怖がっちゃってるね。うーん、僕が何か分かるのかな? リラの事は怖がって無いようだからそう言う事じゃないのかな?


「ねぇ、遠慮しないで言って良いのよ? このおじさんはちょっとボケてるけど怖くないわよ」


 ねぇリラ? 僕もそれなりに傷つくって言うかそんな風に思ってたの? そしてユリカ? 顔隠してるけど笑ってるの知ってるよ? 肩震えてるよ? え? みんなそう思ってたんだふーん。お店閉めて引き篭もっちゃうぞ?


「……さっき……の」


 ちょっと拗ねていると、ミミック少年がポツリと遠慮気味にリラに呟いたのが聞こえた。けど……。


「えっ!? あれで良いの? 本当に?」

「ねぇリラ。何の事?」


 リラは知ってるのか驚いてるけど、僕をはじめ他のみんなはさっぱり分からないんだけど。


「えっと……昨日ブランがくれたおにぎり……」


 おにぎり? 確かに昨日リラにお土産として渡したけど……リラが驚いたのも分かる気がする。もっと我が儘言えば良いのに。


「おに……ぎりが良い……です」

「ふふふっ。分かったおにぎりね。ちょっと多めに作って持ち帰れるようにしとこうか、リラ?」


 ミミック少年の柔らかい髪をぽんぽんと撫でつつリラにそう確かめると、さっきまで眉の間に深いシワが出来る程緊張していたのがふっと消え、いつも通りのふんわりした笑顔で『お土産貰えるって』ってミミック少年に話しかけ始めた。


 ふふっ。


 きっとミミック少年をボロボロにしたのはそこの常連達だろうし、支払いはそこで良いよね。


「じゃあちょっと待ってて。すぐ出来るから」


 さっそく厨房に戻り、おひつから取り出したご飯でリラの分も含めおにぎりを握っていく。具は何が良いんだろう? リラに渡したのは塩むすびとおかか、あと焼きたらこだったっけ? うーんどれが気に入ったんだろう……。

 ふとカウンターの向こう側に視線を送ると、常連のみんながミミック少年に一生懸命謝り倒してる……人と魔物なんだから何があってもしょうがないのにね、ただミミック少年を後ろから抱えて座るリラが怖いのか、人型になったミミック少年があまりにもボロボロだった罪悪感からか。


 そんな事を考えているうちに昨日リラに渡した内容と同じ物が出来上がり、ユリカがサービスでお味噌汁とお漬物を添えて持ってってくれた。

 んー、ちょっと質素すぎたかな? 卵でも焼けばよかったかな……。


 自分の前に置かれたほかほかご飯に、常連とリラとユリカと僕の顔を見渡して困り果てるミミック少年。ふふっそんなにみんなに見られたら食べづらいよね。


「暖かいうちに食べましょ? 私も頂くわ」


 困り果てたミミック少年にそう言い、リラが先に自分の分のおにぎりを一口含む『美味しいわよ』と笑顔で付け足すのも忘れずに。

 するとミミック少年はゆっくりゆっくりと目の前のおにぎりを一つ掴み、少し躊躇いつつも口に運ぶ。


「おいし……!あったかい……」


 大きな金色の目をいっそうキラキラと輝かせ嬉しそうに頬張るその光景に、なぜかリラよりも早く泣き出したのは常連達。


「そうかっ……そうか、うまいか……うまいかうおぉぉぉぉぉぉぉん!」


 どうしよう、ちょっとうざい。


「どうしよう、ちょっとうざいし暑苦しい」


 もうユリカのそう言う所好きだよ。少しでも『お客さんにこんな事思った僕って駄目なのかな?』って考えた時間が馬鹿みたいだったよ。でもすっきり。


「ほらっミソシルも旨いぞ? 暖かいぞ?」

「いや、コメにはツケモノだろうが?」


 基本的には涙もろくて世話焼きなんだよね、この常連達って。ミミック少年ももう心を許したのか遠慮しつつも楽しそうに食べてくれてるし、もしかしたらリラの方が先に常連達に怒るんじゃないかな? うわー……それはやめてね、掃除が大変だから。


 こんなに美味しそうに食べてくれるなら、お味噌汁もお土産で渡そうかな。ふふふ。

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