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番外編) 食材の為なら……! ―きのこ狩り?― 前編

「ブランさんって、人型以外にはなれないのか?」

「? 竜になら」

「ユ、ユリカは?」

「? 花ウサギになら」


 だよなぁ……。


 久しぶりに部下も息子のリクも連れずここに来たのには訳がある。

 俺は東方所属の騎士ではあるが、当たり前だが国から指示があればどこへでも行く。

 で、今回困ったことに西方のちょっとした催しに駆り出される事になったんだが……。


「えーと、何かごめんねディルさん? その、話だけなら聞くよ?」


 申し訳なさそうな顔でコーヒーのお代わりを注いでくれるブランさん。

 俺もいきなり来て説明も無しに変な事聞いて、ついでに勝手にがっかりして失礼だったな。


「悪かったブランさん。実はな、今度西方でちょっとした自慢大会みたいなものがあってな、それに俺と一緒に出てくれるやつを探してたんだよ」


 で、さすが西方と言うか、その自慢大会みたいなものがまた少し厄介なんだよな。

 内容的には簡単だ。

 『誰が一番珍しくて強い魔物を連れて来るか』

 全く。力こそ全ての西方らしいだろ?


 で、何を思ったかうちの上司がそれに参加してこいとか言いやがった。

 友好関係やらのせいか、はたまた東方の力を見せたいのか。

 どっちにしろいきなり俺に言う話じゃ無い。


 経緯を説明し、コーヒーのお代わりを口に運ぶ。

 このコーヒーの苦さと店内のゆったりした雰囲気の中で、冷静に考えればどうにかなるかとも思ったが……打つ手無し。


「えー、何その自慢大会。誰が考えたの? 貴族? まさか皇帝!?」


 俺もそう思うよユリカ。


「珍しくて強い……。花ウサギはペットとして人気な位だし論外だよね。リヴァイアサン……水が無きゃダメだし、だったら人魚もダメ。僕はお店があるしあんまり乗り気じゃ……」


 事情を理解したブランさんが、指折り店の客から該当しそうな人を探してくれている様だ。


 俺も考えたんだよ、一応。


 リーゼ嬢ちゃんのグリフォンはまだ孵化したばかりと聞くし、レンフレット殿のサラマンダーも子供。

 後はバジリスクのクロウとミミックのノアだが、魔物的に見たら珍しいものでも無いんだよな。

 まぁ、この中で比較的珍しいのはグリフォン位なんだけどな。

 

 と言うか、この店の客になるともれなく魔物の相方が付いてくるってのはどうなんだよ。


「その辺で適当に捕まえて来て良いなら、大蜘蛛とか捕まえるけど……」

「ブランさん、それ俺が死ぬ」


 大蜘蛛ってあれだろ?

 前にリーゼ嬢ちゃんがげっそりした顔で話してくれたあれだろ? 無理だから。


 はぁ、ただ珍しく強いだけじゃダメってところが厄介だ。

 大前提に自分に従う魔物……魔物より自分が強くないと無理なんだよ。


「はぁ、副賞のマッシュラビットは好きにして良いって聞いたから引き受けたものの……」 


 優勝者はその強さを示す書状と金品、それと今年はマッシュラビットを貰えるらしい。

 マッシュラビットは西方に生息する魔物の一種で、ちょっとでかいウサギの背中にキノコが生えただけのやつだ。

 マッシュラビットは個体によって背中に生えるキノコの種類が違うらしく、値段も変わるらしい。


 温厚な性格で取り立てて強い訳では無いが、生息地が西方の混沌の森。


 エルフの森以上に攻略が困難な森の中に生息しているせいで、たまに森から出て来たやつ以外手に入らないと思った方が良い。

 それが生きたまま手に入るから今回承諾したんだよ……あいつの背中のキノコ美味いんだよな。


「マッシュラビット! 私マッシュラビットのキノコ好き! 何しても美味しい!」

「ユリカ、それほぼ共食いに……」

「えっ!? ユリカ、マッシュラビット好きだったの!? ディルさん、僕一緒に出場するからちょっと頂戴!」


 ここ最近で一番元気な声だったな今!?

 ブランさんなら普通にマッシュラビット位獲りに行けるんじゃないのか? それに……。


「いやっブランさん、それはありがたいんだが、流石に俺が成獣の竜を従えてるって設定に無理がある! 今後西方のやつに戦いを挑まれたら困る!」


 最初にブランさんに変な事聞いた理由がそれだよ!

 ブランさんが珍しい容姿の竜なのは知ってる。

 と言うか竜自体あまり個体数が多くないしな。

 そもそも成体の竜を一人で従えた日には歴史に名前が残るだろ!?


「成体じゃなきゃ良いんだよね? うん! その辺はどうにかするあてがあるから大丈夫かもっ!」


 ブランさんは『だから当日よろしくね』と言い、そのまま外に出たと思ったら、ふわっとどっかに飛んで行ってしまった。

 どうにかしに行ってくれたんだとは思うんだが……不安すぎてどうでも良くなってきた。

 取りあえずユリカにコーヒーのお代わりを貰い、当日まで待ってみようか。



 で、当日の早朝、ブランさんの店に来てみたんだが……。


「えっと、ブランさん……で合ってる、のか?」

「うん! おはよーでぃるさん!」


 目の前に居るのは、良く知るブランさんと同じ髪色をしているのに、少し垂れた大きな目が印象的な、ノアと同い年位の可愛い少年。

 その五、六歳位にしか見えない少年が、昔からの知り合いの様に朝の挨拶をして来た。


 ブランさんは元々中性的ではあったが、今はその垂れ目がちな大きな瞳と舌っ足らずで高い声が相まって、完璧に幼女にしか見えなくなっていた。

 ぎりぎり男物の服を着ているから少年と分かったが、女物など着せた日には……一人で街を歩かせたら、確実に攫われる程に天使な女の子。


 あー……確実に攫われる(二回目)。うん。しかも秒で、だ。うん。


 と言うか本当にブランさんなのか? 

 普段のブランさんとの共通点なんか、髪の色と店で会ったと言う事だけ。

 いっつも目を細めてニコニコしてるから、瞳の色なんて……って。


「ブランさんってそんな目の色だったのか……」

「そうだよー。あいいろっていうの? こいあおー」


 無邪気に見上げる顔なんかまんま幼女……!


「むかしねー、せいほうにあそびにいったときに、まものよけのけっかいのじっけんにつきあったことがあるんだけど、そのときにちゅうとはんぱにじゅつがきいて、ようたいかしたんだー。」


 ん?

 ちょっと待て。耳から入ってくる言葉が全部幼児の言葉過ぎて理解が追いつかん。

 えーと脳内変換『昔西方で魔物除けの実験に付き合った時、中途半端に術がかかって幼体化した』……? 何やってんだよ。


 聞けばそれを思い出してバレット殿とレンフレット殿に再現して貰って、わざと中途半端に術にかかった、と。 

 そこまでしてユリカにあげたいのか……マッシュラビット。

 自分で獲りに行けよ。


 で、幼体化したから力はかなり落ちた状態だけど、元々規格外な竜種だからその辺の魔物よりは魔力はあるそうだ。

 で、有り余る程に長い寿命のせいで竜は繁殖能力が低い。だから幼体は成体よりもかなり珍しいからその辺は文句なし。


「そっか……。なんか悪かったなブランさん。わざわざ術にまでかかってもらっちゃって。もしかしたら戦闘があるかも知れないが、その時は何となくで良いからよろしくな」


 元気に返事をするブランさんの頭をつい撫でてしまい、ついでについつい肩車をしてしまい、そのまま西方の会場に向かった。



 会場は西方の王都の外れ、わざわざ今日の為に広い土地に綺麗に石を敷き詰め、幾重にも結界を施した特別製のリング。

 その周りには階段状に客席が設けられ、更にその周りには出場者の控え室や出店等がひしめき合い、変な熱気に包まれていた。


 今回出場者の控え室は、自分の出番の直前に入る形式な為、それ以外は出店で飯を食うなり、大会を見守るなりして自由に過ごすらしい。

 ただし、自分の連れて来た魔物はリングに上がってから召還する。

 まぁ、当たり前だよな。

 使役されてるとは言え、会場の外にも中にも魔物が溢れてたら大会どころじゃないからな。

 それに、何の魔物を連れて来たかはリングに上がってからのお楽しみって事らしい。

 全然楽しみじゃ無いけどな!


 まぁ、ブランさんは今は人型だから、帽子でもかぶせておけば目立たないから楽で良い。

 ……で、適当に売ってたニット帽をかぶせたんだが、ただ天使っぷりに拍車がかかっただけだった。


「ねーでぃるさん、なんてなまえでとうろくしたの?」


 トーナメント方式の大会は、登録された名前をランダムに貼り付け試合の順番が決まる。

 魔術で会場の上空に映し出されているトーナメント表を見上げながら、ブランさんが自分の名前はどれか聞いてきた。


「『ディルさんちの子』って登録しといた。えーと……第三試合だな」


 流石に『竜』って登録出来ないし、『ブラン』もまずい気がしたから適当につけておいた。

 って二十四組もエントリーしてるのかよ。一回戦だけでも十二試合か……長い一日になりそうだ。


 なにやら周りの(ブランさんに集まる)視線も気になるし、適当に屋台で 飲み物と飯でも買って観戦しに行くか。


 移動し、客席でちょっと楽しそうに足をぷらぷらさせ座っているブランさんを微笑ましく思いつつ、リングに視線を向ける。

 すると丁度第一試合が始まるのか、向かい合うようにリングに人が立っていた。

 進行役の合図で試合が始まり、両者同時に召還するらしいが、歓声が邪魔で全く聞こえない。

 進行役が何か言って……と、思っていたら大きな鐘の音が一度響き、試合が始まったようだ。


 同時に召還された魔物は……何だ?


「なぁブランさん、あの魔物は?」


 リングが微妙に遠くて見えない。

 ふと隣で大きなカップを抱えるようにし、飲み物を飲んでいたブランさんに訪ねてみる。


「ん? んー……すとーんごーれむとすれいぷにるかな?」


 ストーンゴーレムとスレイプニル(多足馬)?

 んー、そこまで珍しく無いじゃないか……やっべぇ、竜連れて来ちまったよ……。


 その二体の魔物の相性はどうなのかと思った矢先、スレイプニルがその俊足を生かし、ストーンゴーレムを翻弄し、自分の足に躓いたストーンゴーレムが仰向けに倒れ、そのまま起き上がれず試合終了。


 マジか。

 ずっとこんなんか。


 拍子抜けしつつも、第二試合が始まる前に控え室に移動する。


 仮設の控え室だけあって、中は椅子と机位しか無かったが、先程よりも近くで観戦出来る。

 相変わらずブランさんは子供っぽくあちらこちら見て回っている。

 ……目を離したら居なくなりそうだ。


 第二試合はまさかのサラマンダー対サラマンダーの試合だった。

 互いに魔力をぶつけ合うがなかなか勝敗が決まらず、結構時間がかかったと思う。

 よく見てなかったが……。

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