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豚汁vsけんちん汁 後編

「……なるほど。だからお二人揃って鍋を持って来て下さったと言うわけか」


 結局闘争心に火がついてしまったリラ殿とクロウ殿は、お互いアレンジを加えながら尚も料理作りをはじめたので、半分逃げ出すようにブラン殿と二人、鍋を抱えお裾分け(強制配給)の為北方のノルベルト殿の屋敷に来ていた。

 北方じゃまず見かけることが無い南方の紋を持つ魔術師と、所属こそは謎だが外套にすっぽりと身を包んだ魔術師風の男がいきなり訪ねてくれば、それは使用人達も動揺するはずだよな。

 使用人達に取り次いでもらうと、何事かと血相をかいたノルベルト殿が奥から走ってくる様は少し面白かったがな。

 しかも玄関に居たのはまず普段訪ねてくる事の無い俺達だ。余計何事かと不思議に思って話を聞けば、内容は『作りすぎたから貰って』と来たもんだ。

 そりゃ膝から崩れたくもなるよ。


「いきなりお邪魔しちゃってごめんなさいノルベルトさん。どうにも量が多くて」

「いやいや、お二人ならいつ来て貰っても構わない。それにしてもまぁ……ははは、大荷物ですな」


 多分ブラン殿の店の常連のノルベルト殿だからこそ、今の俺達を見て笑えるんだろうな。

 それを証拠に、ノルベルト殿のすぐ後ろに控えている使用人達はそれぞれかなり作法を心得てるはずなのに、口を開けたまま突然の客人に釘付けになっている。

 あまりにも熱く持ちきれない鍋の量だったので、ブラン殿と二人、それぞれ魔力と魔術で自分の周囲にふわふわと鍋を浮かせた状態で訪問した。

 しかも無駄になついてしまったサラマンダーも連れて、だ。

 

「うちは見ての通り使用人も多く居ますからな、鍋ごと頂けるのはありがたい。遠慮無く頂きましょう。鍋は後日お返しに行きますな」


 汁物ばかりで本当に申し訳ない。

 しかも豚汁とけんちん汁の寸胴をそれぞれ二つずつ引き取ってくれた。

 もう北方の魔術師協会に異動してノルベルト殿付きの魔術師にでもなろうかとさえ思うよ。

 で、さすがに汁物だけを大量に、と言うのはブラン殿的にも心苦しかったのか、店から持って来ていた作り置きのクッキーをいくつか使用人と娘さん用に渡していた。


 一気に貰ってくれて助かったが、まだ鍋は今渡した量の三倍はある。

 このまま常連達をハシゴするしかなさそうだ。

 

 次は東方の騎士団の詰め所に行くらしい。

 ブラン殿はそう簡単に言って簡単に飛び始めたが、魔術師って言っても俺は人間だぞ? 複数の鍋を浮かせてるだけでもそれなりに頑張ってのに、その上東方まで飛べだと? 無理言ってくれるなよ……。

 で、そんな長距離飛べないから飛竜で移動してるって言う事を懇々と説明し、どうにか理解して貰ったわけだが……。


「ブラン殿、もう少しまともな持ち方は無かったのか……?」

「えっ? 痛い?」


 今はブラン殿に掴まれ移動中。

 最初は翼だけ出したブラン殿が両手で俺をつり下げる様な形で運んでいたが、どうやら人型の時は人と同じ位の体の強度らしく、堅い魔術師ローブのせいで両手が痛く嫌だったらしい。

 で、結局何故か手では無く足先だけ竜化させ、がっつりと俺の肩を両足で鷲掴みにして飛んでいる。

 姿を変えなくとも人型のまま硬化出来るらしいのだが、こうやって運んだ方が楽と言われたら運んで貰ってる身としては何とも言えないな……。


 そのままあり得ない早さで東方のに到着し、予定通り騎士団の詰め所まで行く。

 だが残念な事に目的の人物が不在だった為門前払いをされてしまった。


「うーん。騎士団だったらまとめて全部貰ってくれるかと思ったのに」


 確かに。

 豚汁とけんちん汁あわせて寸胴十個分。

 全くおかしな量だって作ってる本人達が気付かないのが残念だ。

 騎士団なら人数も多いし訓練で腹もすかせているだろうから、寸胴十個分位消費してくれるかと思ったんだがな。

 こうなりゃ最後の手段だ。


「ブラン殿、あまり気が進まないが南方の魔術師協会の食堂に引き取って貰うのはどうだ? 魔術師もなんだかんだ訓練で力を使うから食うと思うけど……」

「あっ良いかも知れないね! って気が進まないの?」


 そりゃ魔術師協会なんて所にあんた(竜)を連れて行くなんて気が進まないだろ。

 まぁ、少し立ち寄って鍋を渡したらすぐに店に戻れば大丈夫か。



 って甘い考えだったさっきまでの俺に呪いをかけてやりたい。

 

「おーい! 同じ物をもう一杯頼む!」

「こちらには二杯だ!」

「はーい! ちょっと待ってねー!」


 魔術師協会に隣接する食堂の主人に事情を説明し、無事全て引き取ってくれたのは良かったんだが交換条件が一つ。


「おいレンフレット、どっからこんな美味いもん持ってきたんだ? しかもお前と一緒に来たあの兄さん、見かけによらず良く働くこって」


 最初こそその見た目のせいで『腐ってる』や『泥水だ』何て言われたが、一度温め直したらその何とも鼻孔を刺激する香りにたまらず注文が殺到。

 食堂の主人は何となくそれを見越してたのか、食堂で全て引き取る代わりに俺等二人に全部無くなるまで給仕として働けとか言いやがった。

 俺は俺で魔術師協会の奴らに『転職か?』とか笑われるし、ブラン殿は何故か厳ついおっさん共に人気で何度も呼び出されてる。

 まぁブラン殿は中性的って言うか、ローブ何か着てたらまんま女にしか見えないからな……。


「おいレンフレット、このケンチンジルに入ってる芋は何てやつだ? 普段食ってるやつよりねっとりしてて美味いな! あとこのぶるぶるしてる黒いやつは?」


 あー……里芋とこんにゃくの事か?

 分かるけど説明は出来ないぞ? 


「お前またケンチンジル食ってんのか? 俺は断然トンジルだな! この癖の無い極上のスープに、香りの付いた油がほんのり混ざってていくらでも食えるってもんだ!」

「はっ! お前にはケンチンジルの味の深みが分かんねぇのかよ?」


 うわ、ここでもけんちん汁派と豚汁派で揉めんのかよ。

 気付けば食堂のあちらこちらで各々けんちん汁と豚汁について熱く語りはじめ、ついには決着は魔術で勝負なんて言い出す輩もいたもんだ。

 あぁもう、揉めるな喧嘩するな。食堂の主人はあぁ見えて魔術の達人何だから怒らせたら大変なんだぞ?

 程よく鍋が空になってきた辺りでお暇す……。


「うぇーんレンフレットさーん。二つとも足りなそうだから追加を作ってだってー。あと何故かあそこの人達が今日仕事終わったら魔術教えてあげるから魔術師協会に来てってしつこいー」


 あそこの人達って……おい、あれ南方の魔術師協会の元老院共じゃねぇかよ。

 そう言う趣味なのかジジイ、どう言う趣味だジジイこら。

 色んな意味で危ないから、きっと未だに店で対決してる二人に追加を頼んで、ブラン殿だけでもこの場から逃がそう。

 じゃなきゃここのお偉いさん方を見る目が変わっちまいそうだ。 

書き溜め分は以上ですので、また元通りの投稿ペース、週1か隔週になると思います。

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