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番外編) 世界樹散策(ピクニック)とお弁当

ご飯要素…無いかもです。

「ごめんねーブランさん、星の日なのに連れ出したりして」


 体調が回復してから初めての星の日。

 怪我のせいか最近寝てばかりだったから星の日なのに眠くなく、折角ならたまには人間の街に降りようかそれとも温泉でだらだら過ごそうか等考えていたら、ミリアさんとリーゼさんがクロウを引き連れ元気にやって来た。


「大丈夫だよ。それにしても良い天気だねー」


 まぁこの三人が来たって事はいつも通り世界樹散策に出かけるって事なんだけど、今日はミリアさんとリーゼさんの目的地が違うらしく、折角だからミリアさんはクロウと、リーゼさんは僕と一緒に行こうって事なり今に至るんだけど……。


「早くお弁当食べたーい」


 そう、動植物の調査のはずが、ピクニックにでも来たかのような軽装とそれと不釣り合いな程大きなお弁当持参。

 いくら最近はクロウと行動するようになったからって学者には見えない。

 と言いつつ僕もお弁当しか持ってないんだけどね。

 今回の調査は世界樹の上を目指すのではなく、店からかぐるりと世界樹を一周するようなイメージらしい。

 実際は歩いて一周なんかしたら何ヶ月……下手したら年をまたいでしまうかもしれないので行ける範囲で、と何とも緩い計画みたい。

 上るよりはいささか楽かも知れないけど、リーゼさんは少し目を離した隙にすぐ迷子になっちゃうから大変なんだよね。


「ねーブランさーん。あの動物なに?」


 幾重にも重なる蔦をほどき道を作っていると、少し後ろからリーゼさんの声がした。

 てっきり散策って僕が飛んで連れ回すのかと思ってたけど違うみたい。

 なぜか普段から二人はクロウに乗らないで、頑なに自分の足で散策するって聞かないらしい。

 まぁバジリスクの背中って乗りにくそうだしね。


「もう、リーゼさん危ないから一人でふらふらしないでよ。って動物? ……あー、あれはネズミだよ。世界樹特産のネズミ」

「ネズ……ミ?」


 蔦をかき分け向こう側を覗き込むように首を突っ込んいるリーゼさんを一度引き抜き、怪我が無い事を確認してから再度二人でこっそりと覗きこむ。

 そこは落とし穴の様にぽっかりと穴が開いていて、その遙か下の方で何かもぞもぞと動いていた。

 遠目で見るとただ小さな羽の生えた灰色のネズミに見えるけど、近くで見るとまぁ巨大なネズミ。

 だいたい全長は三メートル弱位で、人間くらいなら咥えて運ぶ事も可能な大きさな上に、普通のネズミが持つ四つ足の他に、獲物を持ち運ぶ用の手が一対ある。

 普通のネズミは何か持って歩けはしないだろうけど、このネズミは腕が多いおかげで物を持ったまま全力疾走出来る優れもの。

 全力で可愛くないけどね。

 リーゼさんがネズミと聞いて絶句したのはその可愛くない容姿のせいだろうね。


「……ん? なんか血の匂いがする」

「え? 怪我は無いはずだけど……何か近くに居るの?」


 えーと、匂いの方向は……ネズミの巣じゃなさそうだね。だいたいこっちだけど人型じゃあまりこう言うの良く分からないんだよねぇ。

 ひとまず匂い以外も情報が欲しいよね。耳だけ竜に戻して……んあっ?


「リ、リーゼさん? ちょっと……乗っかっても良いけど耳は引っ張らないで……?」

「あっごめん。なんかピコピコしてたからつい。えへへ」


 しゃがみ込んだまま方向を確認していると、なぜか僕を捕獲するように背中にのし掛かって来たリーゼさんは耳を鷲掴みにしたままブツブツと何か呟きだしていた。怖いんだけど。

 そう言えばリーゼさんに僕達が魔物って打ち明けた時は大変だったなぁ……ストーカーってあんな感じなんだろうな。

 次からは外見を竜に戻すんじゃなくて、容姿はそのままで一部機能だけ竜に戻そう。

 で、匂いがした方から物音がするけど、確かあっちには大蜘蛛の巣があったはず。

 勿論その大蜘蛛も世界樹特産の大蜘蛛。

 大きさはさっきのネズミの倍ほどで、糸が鋼より堅いとか蜘蛛なのに獲物の体液だけじゃ無く丸ごと捕食するとか、今の状況じゃ関わりたく無いのは目に見えてるんだけど、リーゼさんには一応聞いておくべきかな?


「ねぇリーゼさん。多分この先に大蜘蛛が居るんだけどどうする? 見に行く? たぶん今捕食中っぽいから襲われないとは思うけど……おすすめはしないかなぁ」

「うわっととと。って何で?」


 リーゼさんを背中に乗せたまま立ち上がると、なぜか降りずに上手いことしがみついたまま。


「容姿を簡単に説明すると元の姿のクロウの倍くらいで、足一本一本が人の手みたいな形してるやつ。顔とか詳しく説明しても良いけど、食欲減退効果凄いから省略」

「想像するんじゃなかっ……」


 突然言葉が切れたと思ったら、背中がふわりと軽くなった。

 気分悪くなっちゃったかな?

 確認しようと振り向くと、なぜか僕の視線の高さにはリーゼさんの足。

 そのまま視線を上に上にと向けると、なぜか世界樹の小枝に鷲掴みにされ、情けない顔でぷらりと宙に浮かぶリーゼさんが。

 そのまま小枝は勢いをつけるように何度か上下した後、ぐーっと目一杯リーゼさんを摑んだまま地面まで伸びる。


「ま、さかね……。これってまさかだよねブランさぁぁぁぁぁぁ!?」

「うわぁぁぁリーゼさーん!!」


 そのまさか。

 世界樹の小枝は勢い良くリーゼさんを高い高いするように上に投げ飛ばすと、そのままバケツリレーの要領で次々と枝で摑んでは上に投げ飛ばした。

 ちょっと世界樹さんなにしてるのさっ!

 徐々に遠くなる悲鳴を翼を出し全力で追いかける。

 散策の為人が通る様な世界樹の外側じゃなく、壁のように折り重なる蔦を分け入って作業していたせいか、翼がいろんな所にぶつかって上手く飛べないっ!

 ってすっごい羽根が抜け落ちてる! あっ、今なんか動物踏んだかも? 急いでるから色々確認できないけどごめんねー!

 バキバキと蔦や枝、動物にぶつかりつつ悲鳴を追いかけていると、ようやく開けた世界樹の外側まで抜けた。

 けど、なぜか抜けた瞬間一際高くリーゼさんを放り投げた世界樹は、そのままリーゼさんを受け止めるのを止めた。

 真っ青な空に打ち上げられたリーゼさんの悲鳴は一瞬止んだものの、落下し始めた瞬間さっきよりもけたたましい悲鳴を上げ世界樹の外に向かって落ちていく。


「リーゼさっ……っぶ!」

「痛っ……! ちょっ!? ちょっちょちょちょブランさぁぁぁぁぁぁんちょー! 落ちるー! 落ちる? 何でよー!?」


 何でもなにも……。

 間一髪放り出されたリーゼさんを上手くキャッチした瞬間、勢い余ったリーゼさんに思い切り頭突きをされ二人まとめて落下。

 リーゼさん超絶石頭……! 頭ぶつけた時に星が見えるとかよく聞くけど今ちょっと体験したかも。

 まだ頭がくらくらするせいで上手く飛べない。

 ひとまずリーゼさんを片手で抱え直し手の届く範囲に来た枝を摑んでどうにか止まることは出来た。

 しばしの硬直の後、ぷらーんと世界樹の枝にぶら下がったまま状況を確認。

 とりあえずリーゼさんは目まぐるしく変わる状況について来れてないからフリーズ中で大人しいからよしとして、怪我も……擦り傷以外無さそうだね。

 ひとまずはそれでよし……じゃないよね。


「……世界樹さん? この状況を改善してくれるか説明してくれるかしないと僕怒るよ?」


 枝から手を離しリーゼさんを膝に乗せるような体勢でその場で飛んでいると、見るからに慌てた世界樹の枝が寄り集まり、僕たちを乗せゆーっくりと上まで運び出す。

 そのままさっきの開けたところまで来ると丁寧に僕たちを下ろし、そのまま数本の枝先で何とも申し訳なさそうにリーゼさんに怪我が無いか確かめているっぽい。

 ついでにぶつけた僕の頭も摩ってくれてるけど、新芽でやって欲しかったな。絶妙にカサカサして痛いよ。


「え? ここにリーゼさんを連れて来たかったの? 何で?」


 目の前にぶら下がる小枝を目で追っていると、その奥の壁、もぞもぞと絡まった蔦がほどくけていき、ぽっかりと道が開けた。

 世界樹は事情を説明すること無く、ぽっかりとあいた道の方にリーゼさんの背を優しく押し進んでくれと促してるみたい。

 恐る恐る進むリーゼさんについて進んで行くと、一際広い空間の一歩手前でリーゼさんが立ち止まった。

 何かと思いリーゼさんの頭の上を飛び越し先に視線を向けると、興奮気味のリーゼさんがバシバシと僕の足を叩き声を上げた。


「ねぇっ! あれ何あれ何!? すっごい綺麗な……卵? 何の卵?」

「ちょっ、痛い痛い落ちるっ」


 興奮したリーゼさんが駆け寄った先にあったのは大きな卵。

 大きさ的にはリーゼさんが両手でどうにか抱えれるかどうかって位かな?

 それが世界樹の蔦にがっちりと掴まれ、外敵を寄せ付けに様に保護されているように見える。


「これは……グリフォンの卵、かな?」


 何でこんなところに?

 リーゼさんを連れて来たって事はここは安全なんだろうけど、親は?

 

「ブランさんブランさんっ! 何か動いてるよ!? 孵化するんじゃない!?」


 卵にしがみ付くように抱きかかえていたリーゼさんが突然声を上げたので、反射的に卵に視線を移すと、確かにあちらこちらにヒビが入りすぐにでも生まれて来そうな状況。

 『どうしようどうしよう』と焦るリーゼさんをよそに、パキパキと軽い音を立てて殻が剥がれ落ちた。


「ピ……チチ……ピー!」

「本当に孵化しちゃった……」


 剥がれた殻の間から元気よく飛び出したグリフォンの子供は、リーゼさんの膝の上で一頻り辺りを確認した後、満足したかの様にそのままお座りしてしまった。

 大人しく自身の膝の上に座る幻獣の存在に少し固まっていたリーゼさんだったけど、元々好奇心旺盛って言うか、動植物の学者だけあって恐る恐る頭をなでたり後ろ足をふにふに握ったりと観察しているみたい。

 徐々ににやけていく所を見ると飛びあがりたい気持ちを必死で抑えてるんだなーって事がよく分かるよ。

 しばし大人しくリーゼさんに撫でられていたグリフォンだったけど、何故か急に周囲を確認したと思ったら、リーゼさんが肩から下げている鞄が気になるようで、必死に隙間に首を突っ込もうとし始めた。


「……ねぇリーゼさん。もしかしてその子……お弁当狙ってない?」

「はっ! そっか! お腹がすい……って、グリフォンの赤ちゃんっていきなり固形物食べるの?」

「グリフォンどころか……多分竜もバジリスクもいきなり固形物食べると思う」


 グリフォンの世話をしたい気持ちと学者の探究心が入り混じり、一部言動がおかしなことになっているけど大丈夫?

 そうこうしているうちに、羽をバサバサさせお弁当を催促するグリフォンに押され、リーゼさんは自分の分のお弁当を取り出した。


「そう言えばブランさん、今日のお弁当な……って、ちょっと待ちなさいっ! 順番にあげるから大人しくお座りっ!」


 生まれたばかりとは思えない程元気に鳴き、走り飛び回るグリフォンに押され気味のリーゼさん。

 とりあえず前足の鉤爪でひっかかれたら大変なので捕獲―。


「ピッ? ピギッ!? ピエー!」

「ブ、ブランさん? すっごい怯えてるけどちゃんと優しく掴んでる?」

「えっ? 元の姿のユリカを持ち上げる時位に優しく持ってるつもりだけど……人見知り?」


 生まれたばかりだからそれもしょうがないか。

 バタバタ暴れるグリフォンをどうにか大人しくさせている間に、お弁当を開けたリーゼさんは適当なおかずを一品掴み、グリフォンに見せてみる。

 確かに固形物は食べるって言ったけど、まさか最初にあげる物が唐揚げってどうなんだろう?

 鶏肉は大丈夫だと思うけど、油使ってるしにんにくだって……ってあ、食べちゃった。


「うえーん、唐揚げぇ……」

「後で僕のあげるから……」


 食べたかったのにあげちゃったの?

 今日のお弁当はこだわりがあるわけでもなく至って普通のお弁当。

 内容的にはリーゼさんが好きな唐揚げと野菜の肉巻きと鮭のおにぎり、それとミリアさんの好きな出汁巻き卵に野菜の和え物(残り物の野菜だけどね)とたらこのおにぎり。それとおやつにクロウの好きな大量のナッツの詰め合わせと、僕のおやつのその辺で採った世界樹の実。お弁当の大半はクロウのナッツが占めているって言う謎仕様。

 相当お腹が空いていたのか、リーゼさんの制しを無視しそのお弁当箱に顔を突っ込み一気に食べ進めて行くグリフォン。

 これは僕のお弁当を丸ごとリーゼさんにあげないと愚図られる。間違い無く愚図る。

 現に今もしょりしょりと美味しそうに世界樹の実を食べているグリフォンの横顔を妬ましそうに見てるし……可愛いけどね。

 

「えっとね、世界樹がこの子の親になってあげてだって。親って言っても世界樹の実を食べてるから成長は恐ろしく早いからやる事は無いだろうけどね」


 申し訳なさそうに枝先を揺らす世界樹を横目にそう代弁すると、お互い相当嬉しいのか、同じ表情をしたかと思うとお互いを思い切り抱き締めた。

 

「ほんとに!? 本当に良いの!? お前私と一緒に来る? えーどうしようブランさんっ! うれしー!! ご飯作って!」

「喜びついでにご飯の催促!? グリフォンならその辺の実とかでも十分……」

「手料理を食べさせてあげたいのっ!」


 じゃあ自分で作ろうよー。

 グリフォンって普通なら気性が荒く人の前なんかに姿を現さない幻獣だけど、一度心を許すと人懐っこい性格なんだよね。

 多分すぐに大きくなってリーゼさんを乗せて飛ぶようになるだろうね。

 そうしたらようやくクロウはミリアさんの世話だけで良くなる……と。

 よく考えたらグリフォンに乗った動植物学者と、バジリスクを従えた考古学者って凄い事だよね。

 何年かしたら二人とも歴史に名前が残るかもね。


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