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栗ご飯

 ようやくブランを休ませる事が出来たと思ったら、半日もしないうちに戻って来ちゃった。

 しかも知らない女性を連れて(と言うか持って)

 別に怒ってないよ? ……なんか前にもこんな事言ってた気がするけど本当だよ?

 あっ! でも戻って来て早々当たり前のように仕事に戻ってる事は怒ってるかもしれない。


「……で、何で女性が一人で世界樹なんかに?」


 お店に来てからずっとテーブル席に座り、よく分からない植物をブツブツと独り言を言いながら観察してるその女性は、私の問いかけにも答える素振りも無く、ただひたすら視線はメモと植物を行ったり来たりしていた。

 何これどういう事?

 ブランも何故か竜の姿で彼女を連れて来たのに、わざわざ離れたところで人型に戻ってからお店に帰って来るし……。

 本当に人間よね?


「この子達街に持って帰れないかしら……んーでも生態系が変わっちゃうか。でもでもサンプルが欲しいっ! ってここどこ!?」

「えっ!?」


 お店に来てる事も気付いてなかったの!?

 まださっきまで観察していた植物を握り締めたままだけど、周りをきょろきょろと確認してようやく私達の事に気付いてくれたらしく、バタバタとカウンターまで駆け寄って来た。

 で、そのまま質問攻めにされるのかと思いきや、ベタベタと私の髪やら腕やらを観察するように触り出す。


「あっ……あの」

「ちょっと動かないでっ! これ本物の髪? 染めてるの? んー……でも不思議な毛質な気がするわね……」


 ほっ本物です染めてません! 髪が淡いピンク色なのは私が花ウサギって言う魔物なだけで普通ですからっ! 毛質は……え? 変なの?

 私の動揺をよそに気にせず髪をベタベタ触り、今度は頬をつねったりさすったり……痛たたた。


「ねぇ、そろそろユリカが泣き出しちゃいそうだからさ、解放してあげて?」

「あっ! もうちょっとー!」


 まだ物足りなさそうにする彼女を軽くスルーし、私を軽く持ち上げたブランはそのままカウンターの奥に隠すように私を降ろす。

 興味の対象が手の届かない位置に行ってしまった為、渋々カウンター席に座った彼女だったけど、今度はブランの髪をイジイジといじりだした。


「これも本物の髪よね? へーなんかここ不思議な人が多いのね。と言うかここどこ?」


 キョロキョロ確認つつも、しっかりと手はブランの髪を触ったままだし……。 


「えっとー。ここはまだ世界樹の上で、第四の遺跡の中だよ。僕達はここでお店をしててー……」


 事の次第を丁寧に説明していくブランだけど、ちゃんと聞いてるのかしら?

 話半分にブランの髪や頬や目を観察しているようにも見えるけど……と言うか、ちょっと近付き過ぎじゃないの? ブランの何いつまでも黙って触らせてるのよっ!


「へーこんなところでお店! 良いなー! 私って一回集中しちゃうと周りが見えなくなっちゃうんだよね。さっきも折角竜神様に会えたのにこの植物に夢中になって、ちゃんと観察も出来なかったし……」


 竜神様? ってブランの事?

 あーだからブランわざわざお店から離れた所で人型になって来たのね。あの感じで問い詰められたら面倒だものね。


「って、ねぇお兄さん達竜神様みな……」


 ばたーーん


「たっだいまーブランさん! 世界樹楽しー! って、新規のお客さん? 最近多いねー」


 彼女が立ち上がった瞬間勢いよく扉を開け元気よく入って来たのはミリアさん。

 若干ね、若干だよ? 何かミリアさんとこの女性って性格が似てるような気がするって言うか、二人揃ったら賑やかになるような……。

 って案の定、お互いに興味深々じゃんっ!


「えーと……考古学者仲間、じゃ無さそうだけど何か近いものを感じる……。あっ! 自己紹介もしないでごめんなさいっ! 私ミリアって言います。一応考古学者をやっててここには良く来てます!」


 おっ?

 何か不思議な自己紹介のスタートの仕方したけど、まだ自己紹介を思い出しただけミリアさんの方がまだ話を聞く気があるって感じだね。


「あっ! 私の方こそごめんなさいっ! 私、リーゼです! 動植物の学者って言うのかな……とにかく珍しい生物の研究をしてます!」


 何話し方そっくりなんだけど。凄い。

 って、やっぱりミリアさんみたいに世界樹散策に来てたんだ。一人で。

 動植物の研究かぁ、だからそこの植物とかブランとかに興味深々だったんだ……なーんだ。

 何か納得したらどうでも良くなって来ちゃったな。

 このままミリアさんにお任せっと。


「リーゼさん、ね。一人で世界樹登るなんて危ないよ? 今度からは誘ってよっ! 一緒に散策行こう!」


 え?

 ミリアさんあなたもよく一人で登ってクロウに怒られてる……よね?

 ってそう言えばクロウは……っていつの間にかカウンターに突っ伏してるし!


「ねー。分かってたんだけど行きたいって思ったら居ても立っても居られなくてー。少し登ったら戻ろうって思ってたんだけど、気付いたらかなり……ね。って同行していいの!? やったー!!」


 あぁっ……ミリアさんが二人になった……って、あれ?


「ブラン、何してるの?」


 ミリアさんとリーゼさんが怪しく目を光らせ、お互いの持っている世界樹の情報交換を始めた時、ふとブランを見ると楽しそうにその様子を眺めつつボウルに手を突っ込み何か作業をしていた。


「ん? これ? また二人が世界樹散策に行っちゃいそうだから、お弁当作ろうかと思ってね。ねぇユリカちょっと手伝ってもらってもいい? うまく皮が剥けないんだ……」


 ブランの手元を覗き込むと、手のひらにすっぽりと収まるくらいのころんと可愛らしい茶色い木の実が大量にボウルの中に転がっていた。

 『うまく剥けないんだ』と言って残念そうに頬杖をつくブランの手の甲は赤く腫れたまま治る様子をみせていない。

 確かに見るからに堅そうな木の実だけど、皮を剥く事も出来ないなんて……やっぱりミリアさん達が出発したら休ませよう。うん。


「もう……手伝うけど、ブラン私の言いたい事分かるよね?」

「はーい、ちゃんとお休みしまーす。クロウも手伝ってー」


 木の実にナイフで少し切れ目を入れ、固い皮を少しずつ丁寧に剥がしていく。

 作業をしている三人が魔物にもかかわらず、すんなりとは剥く事が出来ず大苦戦。これ人間だったら固すぎて無理なんじゃないかな?

 しかもどうにか表面の固い皮を剥き終わったと思っても、次は薄い皮が待ち受けているし。

 この薄い皮は見た目通り柔らかいんだけど、ぴったりと中の実の部分に貼り付いていてすっごい剥きにくい!

 もう根菜のようにナイフで剥きたいところだけど、ブランがニコニコしたまま気にせず剥いてるし言い出すにもなぁ……。


「ふぅ……二人ともありがとー! 後は灰汁抜きしてごはんと炊くだけだから大丈夫だよ」


 結構な時間を要して剥き終わった木の実が大きなボウルの中でぷかぷかと浮かんでいた。

 クロウも私も返事も出来ないほど疲労し腕がパンパンだと言うのに、怪我人のブランは何事もないかのように次の作業を進めていた。

 休んで欲しいのに全然休んでくれないんだから……。ううん、私がやれば良いんだ!


「ブラン! やるやる私やるー! 何すればいい!?」

「えぇっ!? どうしたのユリカ? ミリアさんみたいな話し方になってるよ?」


 自分でもわかってますよ!

 ブランの手からさっき剥いた木の実を奪いとり小さく胸を張る。

 すると言い出したら聞かない私に慣れているブランは、困ったように小首を傾げた後、また困ったような笑みで口を開く。


「じゃあ……洗って吸水させてあるお米があるからそれと一緒にしてくれる?」


 うふふふ。なんか勝った気がする。

 言われた通りお米の上にポンポンと灰汁抜きした木の実を敷き詰めてっと……後は……水?


「乗せ終わったらお酒とお塩を少し入れてーっと……。ここで炊き込みご飯みたいに出汁とかお醤油とか入れても良いんだけど、僕は入れない方が好きー」


 お酒とお塩を入れてから水……っと。そしてブランはお出汁を入れない方が好きっと……うんうん、それで次は?


「後は炊き上がるまで待つだけー」

「えっ!? それだけ!? 簡単……」


 振り向けばブランはかまどの火を調節し釜をポンポンとひと撫で。本当にこれだけのよう。

 鼻歌交じりにカウンターの後片付けをはじめるブランに、ようやく声を出す気力が沸いたクロウが声をかける。


「早く食いてぇな、栗ご飯。釜炊きだとあと一時間位か? それまでにあいつらが出発しないと良いんだがな」

「そんなにかからないよ。五分位かな。釜は昔ドワーフに作って貰った魔力たっぷり特注品で、かまどの火は僕の魔力で起こしたもの、水と栗とお米に至っては世界樹で採れた物だしね。ふふふ、信じられない速さで出来上がるよ」


 それが早いのか遅いのか私には分からないけど、クロウが口を開けたまま動かなくなった所を見るとすっごい早いんだね。うん。

 私としてはコトコト柔らかい音を立て、ほんのり甘い匂いを漂わせるクリゴハンが気になるけど、これが出来たらクロウはまた世界樹散策に駆り出されるんだよね。

 そんな事など気にも留めないように、勢いよくカウンターに突っ伏したまま動かなくなったクロウの上を、ブランが連れて来た植物たちがよじ登り大行進を始めた。

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