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プロローグ 茶寮

ゆっくりゆっくり更新していきます。

 やあ、いらっしゃい『竜の巣』へ。


 ん? わあっ待って待って逃げないで! 別にとって食べたりしないよ。

 むしろ食べて行ってよ。


 ……なんだいその顔は? さては何か勘違いしているようだね。

 はぁ……。やっぱり場所が悪いのかな? 引っ越そうかな。


 ……あぁ、ごめんごめん。

 つい考え事をしちゃってたよ。

 まぁ立ち話もなんだし、適当に座ってよ。大丈夫、何もしないってば。

 人間の意見も聞きたいんだ。どうかな?


 僕はね、食堂のようなものをやっていきたいんだ。



 長く生きてるとね、色んなヒトに会うんだ。


 みんな竜の僕から見れば小さくて儚い命なんだけど、それはもう楽しそうなんだよ。

 楽しそうに小さな命を輝かせて、そしてあっと言う間に居なくなっちゃうんだ。


 僕はね、緩慢な自分の生が退屈でね。楽しそうな小さな友人達の話を聞く事位しか楽しみが無かったんだ。


 本当に色んな話を聞いたんだ。

 僕を倒しに来た人間からは、人間の国の事や、僕を倒さないと国に帰れない事とかね。

 勿論いくら退屈でも倒されるのは嫌だったから、鱗をあげて帰ってもらったんだけどね。

 噂だとその功績で、国を築いたとか何とかだったかな?


 ドワーフからは、あまり仲の良くない種族のエルフを好きになったとかで、よく相談されたっけ。

 毎日来ては、どんな贈り物しようかとか、見た目は変じゃないかとか。

 意を決してそのエルフに聞いてみたらしいんだ、どんな男が好きかって。

 そしたら『竜よりも強くて逞しいヒト』って言われたらしくてね、もう諦めるなんて言って泣き出しちゃったんだ。

 ふふふっ。そんなの簡単なのにね。

 ここでも僕の鱗が活躍したんだ。

 いくらでも生えてくるんだから、好きなだけ持って行けば良いのにね。

 その鱗を持ってプロポーズしたんだよ。

 勿論成功して、種族同士も多少仲良くなったらしいよ。


 あぁそうそう。

 一番面白いのはね。たまに生まれてくる『転生者』ってヒト達の話かなっ。

 本人達曰く、前世の記憶を持って生まれたヒト達らしいね。


 凄いよね? 面白いよね? 生まれながらに経験値二倍だよ? あっこれも転生者の友人が言ってた言葉なんだけどね。

 みんな知識が豊富で楽しかったなぁ。


 一応ね、僕はほとんど誰にも会わないような生活をしているけど、色々物事は知ってるんだよ?

 その僕が毎日新鮮な話を聞けたんだ。

 政治とかカガクとか色々聞いたけど、みんなが目を輝かせて話すのは決まって『食事』の事なんだ。

 みんな本当に幸せそうに、顔を蕩けさせながら話すんだよ?

 それがどんな物か知らない僕でも、その顔を見ているだけで一緒に幸せになれたんだ。


 でもね、みんなその直後には悲しそうな顔をするんだよ。

 そうだよね。

 だってそれはどんなに望んでも、決して手が届かない物なんだよ。

 

 いや、根気よく探せばこの世界のどこかに似たような食材が眠っているかも知れない。

 でも……小さな友人達にはそんな時間は無い。

 瞬く間に消えてしまう彼らの生の間にそれらを探し出すのは難しいし、たとえエルフのように多少長寿でも、世界を回るには陸上しか移動出来ない彼らには途方も無い事だ。



 じゃあ僕はどうなんだい?

 寿命なんてものは無いし知識もある、体も丈夫だし大きな翼まで持っている。

 世界中を好きに散策する生物としては、最高に良い条件が揃ってると思わないかい?


 小さな友人達の生の内には難しいかもしれない。

 でも、彼らが生まれ変わって、また会いに来てくれる頃には出来るかもしれない。


 それにこんな僕の途方も無い提案を、その本人達がそれはもう本当に嬉しそうに聞いてくれたんだ。


 もうやるしかないね。


 ずっと真っ暗で退屈だった僕の生が、初めて眩しく楽しいものに変わったような気がするよ。


 うん。引き篭もってるのは勿体無いね。

 ちょっと探してくるよ。

 絶対見つけてくるから待っててね。


                        ・

                        ・

                        ・

                        ・


 「……ラン? ……ブラン? ブラーン!?」


 自分を呼ぶ声で目を覚ますと、目に入ってきたのはよく磨き上げられ鏡の様な光沢のある木製のテーブルと、同じく木製のカトラリー。

 ぼぅっとしたまま上体を起こし視線を動かすと、周りには静かに時を刻む壁掛け時計と綺麗に棚に並べられた食器達。


 あぁ……懐かしい夢を見たなぁ。

 猫のようにゆっくりと伸びをしていると、僕を起こした小さなサクラ色の毛玉が目の前に居た。

 『サクラ』という物も昔小さな友人から聞いたものだったな。勿論見たこと無いから想像になってしまうんだけど、きっと僕そのサクラって気に入ると思うんだよね。


「ブランー? 起きてるのー?」


 夢心地なまま目の前の毛玉を眺めていると、痺れを切らせたのかその小さな体で高く跳ね上がり僕の頭の上に乗る。


「んー? おはようユリカ。ふふふっ……今ね、懐かしい夢を見てたんだ」

「そうなの?でももうすぐお客さん来ちゃうから、早くその角しまって顔洗って来なさいよっ? 寝ぼけて竜の姿に戻らないでよー?」


 頭の上でふかふかの体を弾ませながら、テキパキと指示を出すユリカ。

 ちっちゃな花ウサギって種族の魔物なのに、しっかりと竜を尻に敷いてるね……そこが可愛いんだけど、あまりぼぅっとしていると本気で怒られちゃうしね。


 さぁ、開店準備をしようかな。


 今日も小さな友達の思い出の料理と一緒に、また会いに来てくれるのをここで待ってます。

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