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テクニカルアーツ  作者: 乾紅太郎
第一章 黒き龍と新緑の少女
9/16

食罪

「やっぱり消えたか……直接あいつをどうこうはできそうにないな」


 転移であると仮定すればアレッドができることはただ一つ、その兆候が出てくるタイミングを見計らってずらすしかない。


「ふふ……それでよいのです」


 昨日と同じ様にバルデルの直前で搔き消される熱線。バルデルの真後ろに位置するアレッドを狙ったものではあるが、それも全てリフィアの希望通りの展開。


「俺を狙って撃ってくるんなら」


 すぐに転送しないのは昨日と同じく、何らかの過程を経ているからか。だがそれも全て、感知できないのでは意味がない。


「3……2…このタイミング!?」

「さあ、償いの時間です」


 バルデルの前に3つの熱線が現れ地上に向かって発射される。昨日の体感よりも僅かに早いが、その結果だけが分かっていれば対策は容易。


「メモとは少し展開が違うけど仕方ないよな」


 アレッドが熱線が地につくよりも早く、地面と熱線の間の空間に自身の力を集中させる。地上へと向けられたそれに道を作り、U字を作るようにして向きを反転させる。


「やはり噂は本当でしたか、感応現象そのものを力とする者。世界でただ一人の干渉者」

「格好つけんのはいいけどさ」


 もちろん、その道の行き先は一つ。


「それは返せるのか?」

「返す? ああ、これだけ用意していましたか」

「何も真正面からやり合おうって訳じゃないんだ、電話一本で呼び出せるならそれに越した事はないだろ?」

「でんわ……ですか?」

「……まあ、その辺りは俺も言える立場じゃないからいい。とにかく、彼らを撃つのは無しだ。罪を食べるとかも当然駄目、理解したか?」

「本当に、これだけの数を集めて頂いて感謝の言葉もありません」

「聞こえる!?」

「ルーアか?」

「私が説明するのもなんだから中継する!」

「聞こえるかい!?」

「ティス? そこにいるのか?」

「電話を通して話してるだけさ、そこに集められるだけ集めておくと言っただろう? その結果報告と状況説明だけど、話している余裕はあまりなさそうだね」

「いや、どうやらそれ位は時間をくれるらしい」


 再び現れた熱線を、今度は何もない空へ射線誘導し消失させる。色々と予想外の事は起きているが、これくらいであればまだ取り返しのつく範囲内だ。


「選びはしたけど本当に適当でね、君に悪口を言うくらいで満足してしまうのではと思っていたんだけれど」

「俺だってそう思ってたけど、いきなり撃ってきたぞ?」

「それで気になって今もこうして彼らの声を聴いてるんだけど、昨日までとは比べ物にならないほど大きくなってる」

「声が? 大きく? 最初からとんでもないの連れてきたなって思ってたけど違うのか?」


 リフィアから視線を外すことなく矢継ぎ早に疑問を重ねるアレッドの下で、彼の気づかぬ内に先程まで砲を構えていた三人が膝から崩れ落ちた。


「そう、だから用意していてよかった。それから、ごめん」

「……用意って何だよ?」

「彼女らでしょう」


 アレッドの問いに答えたリフィアの声に、彼はようやく地上の異変に気付いた。ごめんと言った彼女の謝罪の意味も。


「執行者!?」


 老若男女問わず、白のローブを着た人の数にアレッドが次の行動に迷いが生じる。上と下、どちらが敵でどちらが味方なのか。あるいは、両方とも敵なのか。


「かき集めるだけかき集めたよ、20人くらいかな」

「20!?」

「おかしいと思わないかい? 適当に集めた人がここまで強い悪意を持つなんて、そんなのが街中に溢れかえってたら世界なんてとうの昔に滅んでる」

「……何かしたのか?」

「された側、こちらとしても予定が狂って困ったんだよ。いいかいアレッド、君の下で寝ているのは君とは何の関係もない死刑囚だ」

「じゃあどうして撃って――」

「執行寸前でね、全てを諦めて罪の衝動なんて残りかす程度しか残っていない彼らに君を撃てば特赦を出そうと焚き付けただけ」


 地上に降り、顔を確認してアレッドが目を見開いた。確かに、手配書やニュースで見た覚えのある顔が三人。

 その誰もが、悪魔でも見たかのような驚愕の表情のまま固まっている。息はあるものの、これでは動きようもない。


「僕らはボランティアじゃない、まして善良な宗教団体でもない、そう名乗ったこともない」


 スタジアムの観客席、そこで等間隔に並ぶ執行者が手に各々のテクニカルアーツを掲げていく。その一つ一つが光を帯び、彼の真上で一つの大きな光となっていく。


「僕らがその罪を裁くのは何も正義とか平和とかを守る為じゃない。もしそうなら、一部とはいえあんな事件を起こすはずがないだろう?」

「ティス、何を狙ってた?」

「アーツというのは、色んな力を持って生まれてくるだろう? エヴァルの様に現象そのものとなるとちょっと特殊だけど、何も特別なのは君だけじゃない」


 やがてそれは時間を掛け、大きな大きな光の龍となった。バルデルと対を為すかのように、形そのままを映し出しているかのような。


「例えばさ、罪を力にするアーツがいたっておかしくはないのさ。さあ、そこで見ているといいよ。これが僕らの神様の力だ、死刑囚3人分のね」

「神の裁きを!!」


 大勢の声を合図に、光の龍がバルデルに襲い掛かる。実体のない、その為に咆哮も風圧のその一切が感じられない。それでもその翼竜は、バルデル以上の威圧感を持って襲い掛かった。


「あれが……罪の……」


 唖然とするアレッドを余所に、バルデルが急上昇し回避行動に移る。その巨体の割にはなかなかの速度だが、所詮はその程度の速さでしかない。


「罪の力っていうのは君みたいに派手さはないけど、威力は抜群でね。そろそろだろう?」

「当たったらどうなる?」

「簡単さ、死刑になるほどの罪を犯す程の衝動が際限なく心の底から湧き起こってくる。常人が耐えられるものじゃない程のね、軽くでよければ今度、体験してみるかい?」


 次第にその距離は詰まっていき、ついには黒龍の姿は光に包まれ完全に見えなくなりその動きを止めた。


「いくらでも悪用が効くから政府も僕らに管理を一任していたし、今回どこから漏れたか問い詰めておかないと」

「……その罪の力ってのは、あの子も使えるんだな?」

「恐らくテクニカルアーツ、僕らのはリティエルって呼んでるけどそれだろうね。アーツそのものはエクスぺリアとアルスぺリア一体ずつしかいないし、個人で制御できる様な力じゃない」

「じゃあどうしてあいつは笑って――」


 アレッドの視線の先で、光が徐々にその輝きを失っていく。その光を失った場に尚も留まり続けるバルデルの背に座っている彼女のローブが脱げていたのか、彼は初めて彼女の顔を見た。


「アレッド?」

「な……」

「どうしたアレッド!?」


 初めて聞くティス余裕のない声を置いて、アレッドが空を蹴る。バルデルが縮めていた翼を大きく展開するまでの数秒で同じ高度に到達し、取りついた。


「ごきげんよう、降りたり上ったり大変――」


 背には降りず、その僅か上を滑るようにアレッドが距離を詰める。その瞳には見覚えがあった、忘れるはずもない。3年前のものと全く同じ。


 おにーちゃん、あそんでくれないの?


「今度は鬼ごっこですか?」

「何をしてるか分かってるのか!?」

「はい、これが必要なのです。未来の為に」


 その瞳は真っ白だった。本来あるはずの虹彩はどこにもなく、浮かべる笑みの痛々しさにアレッドは無駄と知りながら叫んだ。


「それがどんな結果を生むか俺達は思い知っただろ! ジュリウス!」


 光の龍こそ容易に追いつけども、いくらアレッドでも本気を出したバルデルには到底スピードでは敵うはずもない。

 取りついたところで呆気なく振り落とされ、アレッドはただその背中を見送るしかなかった。


「お帰り、遅かったな」


 同日、夜10時を過ぎたところ。現場での見聞、及び一通りの報告を終えて戻ってきたアレッドを白衣姿のリーフが出迎えた。

 エントランスは照明が落とされ、辺りは静まり返っている。


「まだ起きてたのか?」

「何かあったら、と言った手前な。それに寝るにはまだ早い」

「報告は上がったか?」


 入り口脇のソファに腰を下ろすと、用意していたのかティングがアレッドの頭にぴょんと飛び乗った。

 エヴァルは連日の能力もあって先にメディカルチェックに送られており、慰めているのか頭をよしよしと撫で始めた。


「お前が気を遣う必要はないって」


 苦笑しつつもその温もりが優しさに後押しされる様に、アレッドは本題に入った。


「バルデル、お前から見てどうだ?」

「生体的なものがないのが痛いが、映像は確認した。確かにあれは希少種だ、それもかなり珍しい」

「だよな、俺だってあんなの初めてだ」


 あれでもなおあのアーツは本気を出してはいない、そしてそんなアーツを従えるほどの人物がいるという事実が重く圧し掛かる。


「3年前の件は俺も覚えてる、解決後に実況見分にも入った。どうしても人は繰り返したくなるんだろうな」

「なあ、リーフ」

「あまり気落ちするな、お前のせいじゃない」

「キメラって、俺達くらいの背格好に育ってる可能性ってあるのか?」


 慰めようと肩に伸ばしたリーフの手が止まった。まさに3年前に頻出した単語に、まさかの予感がよぎる。


「お前……何て言った?」

「虹彩のない白目は、キメラの特徴の一つだよな?」

「彼女がそうだって言うのか?」

「はっきり見た、けど……言っていいのかどうか迷った」


 言えば、政府はあの時と同じ決断を下す。それは確かに正しく、そして国の為の決断でもあるが、また同時に悲劇を生みかねない。


「可能性として言うなら、ゼロではないが考えにくい。その年まで人としての形を保ったまま成長するのは難しい上に、成長スピードが速すぎる」

「だよな、だから自信もなくてさ」

「そんな技術があるなら……確かに人の希望となるかもしれないが」


 あの技術は一時は人の希望となり、人々は歓喜に湧いた。そしてその後に現実を知ったこの国は一時、大混乱に陥った。

 スパイラルアーツの影響力が強くなったのも、皮肉にも丁度その頃からだ。


「可能性として挙げるなら途中から因子を投与したのかもしれない」

「成長した子供にか?」

「入れるだけなら感応値が高ければそう拒否反応も出ないはずだ、そこから得られる効果については……何とも言えないが」


 リーフとしてもコメントに困る問題だった。彼の研究テーマとそう違いはないが、その手法は対極と言ってもいい。

 そんな彼が解決のためとはいえその領域に足を踏み入れれば、邪推する人間は幾らでも出てくる。


「これからどうする?」

「とりあえずアイファさんに報告、また個人プレイだって怒られるな」

「今回の件は申請が下りた段階でお前は一時的にリーダーズの指揮下に入ったんだ、いつもとは事情が違う」

「なあリーフ、そういえばその許可ってアイファさんが許可したんだよな?」


 言い訳の余地があるかもしれないと軽い気持ちで聞いたアレッドだったが、リーフは少し考えた上で首を横に振った。


「そういえば……確か長官だったな」

「長官? 課長でもなく?」


 実務は有能だが現場には滅多に出てこない男が珍しく表舞台に出てきている事に、アレッドの頭の上にクエスチョンマークが点灯する。


「事件性が大きいからと姉さんが言っていたが、考えてみれば少し不可解か」

「アイファさんその辺りも怒ってそうだな」

「確か素体はまだ残っているはずだから、俺も個人的に調べてみる」


 立ち上がりエレベーターに向かおうとしたアレッドの足が、リーフの意外な言葉によって止められた。


「個人的に!?」

「寧ろ、やるなら情報が広まっていない今しかない。お前のを使う必要が出てくるだろうが」

「それが分かったって、大々的に発表もできないだろ?」


 アレッドの心配を遮って、リーフはティングとじゃれ合いながらもその目は真剣そのものだった。


「何の為に俺がいると思ってる? 使え、俺もお前を使うんだ」



「またよくこれだけ集めましたね」


 心の底から感嘆の声をあげるアレッドの前には、おびただしい量の書類が積み上げられていた。

 アイファの執務室は一般隊員とは別の階に設けられおり、完全な個室が割り当てられている。


「私を誰だと思ってるの?」


 アレッドの対面で来客用のソファに足を組んで座るアイファは、疲れを感じさせない様子で書類に目を通したまま。

 彼の訪問にも特に小言の一つもなく、アレッドもまた提示された書類に目を通していた。


「グレム・シルヴァンス」


 アレッドが呟く男の情報が、書類の中には膨大なデータが記されていた。

エナードからの情報通り、その経営は手広く堅実。関わる企業の数は10を超えるがこれでも家の中で少ない方だと言うのだから、五大財閥の規模は想像を絶する。


「掴めない尻尾が無いこともないのだけれど、そう長くは拘束できない。おまけに外交問題にも関わりかねないから、私が小突いても政府は動かないでしょうね」

「アイファさん」

「何か気付いた?」

「申し訳ありませんでした、完全に俺のミスです」


 立ち上がり頭を下げるアレッドに、彼女は書類から目を離して沈黙を保つのみ。

 頭を下げること一分、大丈夫だろうかと僅かに視線を上げたアレッドのおでこを彼女はツンと突いた。


「貴方のそういうところは好きよ」

「そんな風に返されると返す言葉がなくなるんですが」

「私、貴方を怒るの嫌いなのよ」

「好き嫌いで怒るかどうか決めるんですか?」

「説教って反省させる為にするものだと思ってるけれど、貴方の場合だと意味がないのよ。ただでさえ、私達の都合で生活を制限しているんだもの」

「制限されて当たり前の立場ですよ」


 今日に至るまでの全ての結果は、強いられたものではなく受け入れてきたもの。その思いだけは、例え彼女相手と言えど彼にとっては譲れないもの。


「今日の件、本当に個人のミスだけで起きたと思う?」

「思いません、ですがもっと上手く立ち回るべきだったとは思います」

「その自覚で今はいいわ。長官が許可を出した以上、私にできることは限られてたでしょ」

「その事なんですが――」

「任せなさい、そこは貴方の戦う場じゃない」

「……多分、思ってたより遥かに厄介ですよ?」

「私ほどじゃないわ」


 味方にすればたくましく、敵にすれば恐ろしい。EAEに属する隊員はその誰もが強みを持っているが、彼女はその中でも一際それを感じさせる何かがあった。


「政府が用意したのは死刑囚3名、明らかになれば間違いなく人権団体が騒ぎ出しそうなお話だけれど。今回の失敗でスパイラルアーツの影響力は間違いなく落ちた」

「やっぱり、あれですか?」

「失敗を前提に用意した、と勘繰りたくなる展開な事は確か。それ以上はまだ想像しかできないわ」

「ですが捜査の主導権はリーダーズに移りました」


 3年前の事件で影響力を更に増した彼らを政府が疎ましがっていたかどうかは定かではないが、結果から見れば得をしたのは政府の側。


「ジュリウス君でしょ?」

「……ええ」

「別に彼をどうこうしようなんて思ってないから安心しなさい、間違いなく彼も誰かの駒よ」

「問題は、誰の駒かです」

「彼にとって3年前は過去じゃない事は確かね」


 駒を扱うプレイヤーは誰か。グレムなのか、彼らの思いもしない誰かなのか。


「次、彼らは何をしてくるでしょうか?」

「狙うとすれば当然、考えることは同じよね」

「刑務所です」

「そうね、相手の要求として分かっているのはエヴァン・ロキシーの釈放だけ。まああれだけの罪があるなら囚人を暴れさせて、それ位の隙は作れるでしょう」


 彼の回答に満足げに頷いてアイファが、とある刑務所の配置図を机の上に広げる。もちろん、アランが収容されている刑務所だ。


「どうします? どこかに一時的にでも移送しますか?」

「それ、採用する気あっての発言?」

「全くありません」


 バルデルがいる以上、転移されればそれだけで脱走は完遂される。ただ、現に今も収容されている事実があり、その動きがない事を見るに彼らにとってそれは早急に欲しいものではない。


「釈放されたというお墨付きが欲しいのか、あるいは他に狙いがあるのか。見極めるのはこれから」

「明日はどうすれば?」

「通常の任務に当たりなさい、申請が来ても私が跳ね除ける。言いたいことは分かるわね?」

「分かりました」

「今日は休みなさい、お疲れ様」


 アレッドが退室し、アイファが作業を再開しようと意識を書類に向けようとしてすぐに諦めた。


「千客万来ね、聞いてた?」

「聞かせてた、でしょ?」


扉の端に立ってジト目を向けてくるルーアに、アイファは今日の書類をまとめて端に寄せた。今日はもう、仕事の気分ではない。


「珍しいお客さんだこと、何も出せないけれどそれでよければ座りなさい」

「いつも閉じてるのに今日は開いてたから何だろうと思って、アイアがいなくてもここはよく聞こえるから」

「そういう場所だもの、貴方も疲れたでしょ?」

「アレッドをどう動かす気?」


 勧められたソファに腰を下ろすことなく、ルーアが彼女を見下ろすように立つ。返答次第では何が起きるか、アレッドがいれば一人で胃が痛い痛いと呻きそうな空気が流れ始める。


「相手の狙いはアレッドでしょ? 巻き込ませようと彼らは必死じゃない、あの手この手で彼とそのリフィアとかいう子を引き合わせてる」

「ジュリウス、何か理由つけて拘束できない?」

「理由はどうするの? 仮にリフィアと繋がりあること理由にするにしても、彼女は何もしてないのよ?」


 一昨日の件と言い、昨日の件と言いバルデルは自ら攻撃をした事は一度もない。あくまで、撃たれたものを返しただけ。

 罪の力云々は未だ解明されていない領域であり、法としての整備など微塵も進んでいないのが現状。寧ろ、テロリストを退治してくれた正義の味方と捉える者がいてもおかしくはない。


「じゃあ何もしないの?」

「そんな事は言ってないわよ、明日付けて私からリーダーズに申請を出す予定にしてる」

「申請?」

「あれ、使った?」

「分かった、状況次第では手加減しないから」


 アイファの言葉の意味を汲み取ったのか、手短に答えてルーアが部屋を後にする。アイファが時計を気にすれば丁度0時、長い一日がようやく終わり、また長い一日の始まりだ。


 病室の個室の様な一室で、明るい緑の髪を両端から下ろしている少女がベッドの上で横たわっている。

 一定のリズムで上下する胸の鼓動は安定しており、機械の断続的な作動音だけが室内を通り過ぎていく。


「調子はいかがかな?」

「安定しています」


 そのベッドの傍らで、白衣の男性の答えにグレムが満足げな笑みを浮かべる。

リフィアの手首に繋がれた点滴の他に、首の裏側に不自然な盛り上がりができている。そこに刺された管から流れる青い液体がまた一滴、その瘤に吸い込まれていく。


「そうか、そうであればそれでよい」


 その横で、白衣姿のやや前線の後退している感のある男性がメガネの縁をくいと持ち上げ感嘆の声を漏らす。

 手元には、リフィアの書類とは共にアレッド・ハートレッドと記された書類が幾枚か。


「ですが、それでも純粋な感応値はアレッドの方が上ですね。いやはや、あんなとんでもない素材がこんな所にいようとは」

「使いたいだろう?」

「ぜひ」

「存分に使うといい。限りある資源は、公共の幸せの為に使うべきだ」

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