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レジで商品を手にして笑顔で店を出る。正面ドアには大量の客と、購入者にインタビューをかける報道陣が詰めかけている。なので俺たち二人は店舗でも奥まったところにあるドアから出ていち早くGSに乗り込む算段を立てた。
隣同士の学生用アパートに向かって車を走らせる凱斗の隣で、箱付属の説明書ともってたゲーム雑誌をパラパラめくって流し読んでいく。
そもそもこのゲーム、何故マスコミまで駆けつけ、特にゲーマーでもない俺が3日も並ぶことになったのか。
それはこのゲームが数多くの会社が英知を結集したことが大きいと言える。
本ゲームのハードであるaluF発売当時ゲーマー界は大いに湧いた。元々医療方面や軍事的方面で実用化されていた記憶投射を使った仮想世界、所謂バーチャルワールド。そこで行われる現実と見間違うような生活、戦闘、冒険に心躍らせる物である。
と、当時大学で知り合ったばかりの快斗に熱烈に紹介されて購入したハードであったが、問題はソフトだった。
圧倒的な描画能力にソフト会社が悲鳴をあげ、リアルを謳った映像は一部ポリゴンが見える始末。
戦闘ではリアルさを追求し過ぎてモブモンスターに負けるほど体が動かない。
その他大小様々な不具合がプレイヤーに襲いかかった。一時期は史上最大のゴミハードと揶揄された事もある。
そんな状況にaluF開発チームは業を煮やし、人気どころから新規参入の会社までに声をかけた。
『ただ、面白いと思えるゲームを作ろうじゃないか。』
その呼び声に手を挙げた数十社とaluF開発チームが手を組み、aluFを売って積み上げた利益を全投入し、各会社の良いところを組み上げて作ったのがこのグレイスノーツ大陸記、GSである。
流石に開発費用回収の為価格は他のゲームに比べて4割り増しといったところだが、格安の学生アパートに住み、それなりにある仕送りを本ぐらいにしか使わない俺とバイト三昧な凱斗には許容範囲内である。
ふれこみ通りの気合の入りようが見て取れる丁寧で面白みもある説明書を読み終えると、ちょうどアパートが見えてきた。
「よし!では大陸で会おうではないかケンゾウ、さらば!」
普段は苦手なはずの駐車を一発で決めた凱斗は、おれが商品入りの袋を持っておりた瞬間に車のカギをかけて猛ダッシュで部屋に入っていく。理数系のクラブ所属のくせに駅伝で助っ人に呼ばれるほどの健脚の猛ダッシュは見る間に遠ざかって行く。
「徹夜で並んだのに体力のあるやつだよまったく。」
悪態をつきつつ自分の部屋のオートキーを開ける。隣の部屋がドタバタ煩いが気にしない。
買ってきた箱からソフトのディスクカードを読み込ませ、aluFに認証キーを打ち込む。頭部にaluF本体を取り付け、腕に誤動作した際の安全装置を巻く。
脳の電波を読み取って動くaluFは脳波の流れをキャンセルする逆電波のような物を腕から流している。これがないとベットの上で腕や足を振り回す変人が誕生してしまうだろうからだ。
『インストール完了。インストーラー終了、このまま起動しますか?』
流れてくる音声には返事をする必要はない。ただ頭で起動する、と考えるだけ。それを読み取り、aluFは動く。
何かを打ち込むことも喋ることもなく意思を読み取る瞬間はいつ見ても感動するものだ。
『起動処理開始…完了。ようこそ賢治様、グライスノーツ大陸記へ。』
アナウンスを聞き、ゆっくりと意識が落ちて行く感覚を覚える。俗にダイブと呼ばれるこの感覚は、エレベーターの登りの瞬間に感じる感覚に似ているだろうか。
ダイブ感覚も薄れ、視界が開ける。
「まぁ、徹夜の甲斐があるか、たっぷりと研究させてもらいますかね。」
これは日本最高の大学、東王大学の主席、神崎賢治の大陸記である。
明けましておめでとうございます。
本年より本格執筆いたします。
かきたいなーかきたいなー、と思っていた作品ではありますが何分処女作の為長い目で見てやってください。
感想叱咤激励お待ちしております。