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小説幻怪伝  作者: 蝦夷 漫筆
熱き旅路に敵また敵~雨乞山激戦編
97/122

鬼また鬼。そして獄卒、牛頭が迫る

 富士を目指し東海道から北上した幻怪四戦士とすす

 降りしきる雨の中、駿河・雨乞山あまごいやまの東の山道で彼らを待ち受けたのはオニの軍団。率いるのは獄卒・牛頭ごず馬頭めず


 全身ホスゲン毒に満たした特攻青鬼部隊に対峙する悦花えっかひろ

 そして全身を赤燐に満たした特攻赤鬼部隊は、石をも溶かす超高温の火を吐き、触れれば引火し爆発するという厄介な敵。銃弾さえも空中で溶かす赤鬼の襲撃に、蝦夷守えぞのかみは追い立てられる羽目になった。

 

 「逃げろっ」

 背後に迫る熱い炎。徐々に距離が詰まる。

 「あちっ」

 結わえた後ろ髪から焦げる匂い。

 「でかい図体のくせに足速えじゃねえの、これじゃ丸焼きになっちまう」

 後ろを振り返る余裕もなくなってきた蝦夷守に、草むらに実を潜めていた煤が巾着袋を投げてよこした。

 「それを使ってっ」

 「ん、袋でどう戦えと?」

 「違う、中身っ」

 袋の中には真新しい銃弾が十発。

 「赤鬼はあと十体。外しちゃダメですよっ」

 「弾は効かねえよ、あいつら」

 「いいから信じて」


 蝦夷守は赤鬼たちに追い立てられながら、煤から渡された銃弾を込めた。

 「信じる以外に選択肢は無えしな」

 振り返りざま、膝が地に着くほどに身を沈めた蝦夷守。炎の下をかいくぐって狙いを定め、リボルバーの銃口から発射音を轟かせた。

 「外すなんて有り得ないけどな」

 銃弾は赤鬼の炎に包まれると白煙を噴き上げた。

 「おおっ」

 顔を火照らせるほどの熱は一気に冷め、炎が消える。そのまま直進した銃弾は赤鬼の眉間に食い込んだ。

 「離れてっ」

 煤の声に思わず飛びのけた蝦夷守の目の前で、赤鬼は粉々に爆発してブクブクと泡を噴き上げながら消し飛んでしまった。

 「な、なんだ。どんな細工だ」

 「無患子むくろじ甘草かんぞうの根の煮出し汁を薬莢の中にたっぷり入れたんです。火消しの妙薬ってとこです。あとは発泡剤。赤鬼の体内で引火すると同時に発泡剤が一気に広がるって仕組みですよ」

 煤の肩をポンと叩いた蝦夷守。

 「さすが道具作りの天才。じゃあ後は射撃の天才に任せろ」

 サッとポーズを決めてみせる蝦夷守。

 「あと九発、連射可能なオレのガンが火を噴くぜっ…どうだ、南蛮の芝居みたいでキマってるだろ、ふふふ」

 「いやその銃作ったのもあっしなんですがね…」

 「ん、何か言ったか?」

 「いえ、よろしく天才どの」

 満面の笑みで構えた銃口が次々に甲高い音を響かせた。一体、二体・・・赤鬼たちは皆、狙い違わず眉間に銃弾を打ち込まれてその身を泡の粒子に変えて消えた。


 「調子に乗るなよ」

 気付いたとき、すでに背後に牛頭がいた。

 「うしっ」

 慌てた蝦夷守。

 「駄洒落なんか言ってる暇は無えぞっ」

 牛頭は柳葉刀りゅうようとうを二刀、軽々しく振って斬り込んできた。

 「あらよっと」

 飛び退きながら銃口を向ける。着地と同時に照門の溝に照星が一致した。間をおかずにリボルバーの引き金が引かれる。

 「あれっ」

 カチ、カチ・・・。

 「あれ」

 カチ、カチカチ・・・。銃弾が無ければ、幾ら狙いが正確であろうと、引き金を引こうと、迫り来る牛頭を倒すことは出来るはずも無い。

 「フッ」

 見下すように笑う牛頭。

 「弾なしか」

 「あ、ああ・・・ああ」

 口ごもりながら蝦夷守。

 「ああ弾なしだ。だが、玉なしじゃ無えぞ、俺は」

 蝦夷守が愛刀・龍鬼丸の鯉口を切る。

 が、すでに牛頭が振り下ろした柳葉刀の切っ先が迫っていた。抜刀もままならないまま弾き飛ばされてしまった。

 「むっ」

 刀を拾いに行く間も許さず迫るもう一本の柳葉刀。ならば、と腕を伸ばして食い止めた。牛頭はそのがら空きの腹を見逃さない。

 「ぐはっ」

 鋭い蹄で激しく蹴り突かれた蝦夷守の身体は宙に吹っ飛ばされた。

 起き上がりざまを狙って牛頭が突っ込んでくる。

 尖った角の先が蝦夷守に迫る。


 「ほう、そう来るならば」

 慌てて立ち上がった蝦夷守が羽織を翻して前に掲げた。裏側は鮮やかな紅緋べにび色。

 身体の前でヒラヒラさせて挑発する。背筋をピンと伸ばし、顎をやや上げてすました表情。

 「さあ来いっ。牛なべにしてやる」

 鼻息荒く迫る前傾姿勢の牛頭を、紅緋の羽織を翻しつつ軽快なステップで右へ、左へ避ける。得意げに愛刀を掲げ上げた蝦夷守。


 挿絵(By みてみん)


雨の中、高らかに声を上げる。

 「さあ、大観衆満場の拍手といこうか。闘牛士マタドールに愛をっ」

 チッと舌打ちした牛頭が猛然と迫る。目の前でヒラヒラする赤い布めがけて。

 「おいで牛ちゃん」

 「いつまでもバカの遊びに付き合ってられねえんだよ」

 速い。蝦夷守が身をさばく間もなく闘牛マントに見立てた羽織の上から強烈な頭突きを食らわせた。蝦夷守の両脇腹を牛頭の角が切り裂きながら、胸のど真ん中に固い頭がぶち当たる。

 「ぐふああっ」

 鮮血を散らせながら跳ね上げられた蝦夷守は、空中をくるくると力なく回転しさまよった挙句、何度かバウンドして地に這った。

 「う、ううっ」

 強烈な一撃に全身の震えが止まらない。ヘドを吐き散らしながら、起き上がろうにも力が入らない。


つづく

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