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小説幻怪伝  作者: 蝦夷 漫筆
絶望の淵へ
73/122

冥界の重鎮、動く

 闇の力が支配する異次元並行世界、冥界。その都・冥府に拉致された人間たちは今日も地獄と呼ばれている収容施設で苦しみ続ける。

 「絶望こそ我らが糧」

 舌を抜かれた沈黙の奴隷たちは、恐怖や憎しみ、怒りや悲しみといった「負の波動」を吸い取るための家畜。

 「簡単に殺してはならぬ。生かしたまま、魂が崩壊するほどの苦痛を与え続けよ」

 集められた負のエネルギーは、強大な次元の渦を巻き起こし世界を破滅に追い込むための最終兵器「暗黒の怨球」の原料となる。


 「手ぬるい、な…」

 赤い目を鋭く光らせた閻魔卿。暗黒皇帝の預言者を自負する冥界の支配者。

 「実に手ぬるい」

 その圧倒的なオーラに地獄の獄卒たちでさえ足の震えが止まらない。閻魔卿はすっくと立ち上がった。


 「失態の数々、あまりに醜いぞ」

 閻魔卿の目は、集結した冥界の将軍たちに向けられていた。

 「不履行の作戦事案が多すぎますな」

 参謀・ヌラリヒョンから渡された資料には閻魔卿にとって嬉しくない幾つかの記述。

 「残された時間はそう長くはない」

 冥界と同じく現世を取り巻く異次元世界を構成していた「幻界」の崩壊がもたらした量子バランスの乱れは、この冥界も巨大化するブラックホールに飲み込まれる危機に直面させる結果になった。


 「新天地は現世、それより他になし。現世の全てを破壊し、そこに我らが新秩序を築く。抵抗する邪魔者は消さねばならぬ…」

 「幻怪衆…か」

 幹部の一人、九尾弧がニヤけながら小さく呟いた。閻魔卿はますます苛立ちの表情を見せる。

 「ふっ。九尾、お前が遠野で痛い目に遭ったのも知っておる。だいたい、幻怪衆などと気安く呼ぶな」

 思わず肩をすくめる九尾弧を一瞥した後、あらためて一同を見渡した閻魔卿。

 「あの程度の連中に幻怪衆などとは呼ばせない。真の幻怪衆は、確かにかつて冥界を震えあがらせたつわものたちだった。だが今のあやつらは断じて違う。ガキのお遊びだ。だがその程度の者どもに手こずっている、という事は、お前たち自らの無能を曝すに等しい」

 言葉の怒気だけで空気が歪む衝撃が走る。


 「しかし閻魔卿さま」

 側近ヌラリヒョンが耳打ちした。

 「あの岩魚太夫をも倒した波動使いの花魁は相当な腕と見受けます…」

 「うむ。例の、鵺の子、か…」

 「御意に・・・」

 頷くヌラリヒョンに、閻魔卿は真っ赤な目を向けた。

 「そこいらの妖怪では役に立たぬだろう。お前が行って様子を見て来い。鵺の子、果たしてどれほどの者か・・・」

 「はっ」

 

 閻魔卿は右手の義手に光る魔鉱の爪で自らの顔の傷をそっと撫でながらつぶやいた。

 「あとは、あの男…」

 「幻翁、ですな」

 「ああ。ヤツは、俺がこの手で」


挿絵(By みてみん)


 「ところで」

 振り返った閻魔卿が尋ねた。

 「例の怪物どもはどうなっておる?」

 ニヤリと笑みを浮かべるヌラリヒョンが落ち着いた口調で答える。

 「例の件、酒呑童子の養殖場において順調に事は進んでおりまする。先日、やっと一体が目覚めたと報告が…」

 「ほう、ならば早速連れて行くがよい。好きなように暴れてやれ」

 深く頭を下げたヌラリヒョンは黒いローブの裾を翻して冥府を後にした。


 閻魔卿が声を上げた。

 「我ら帝国の現世侵攻はこれより第三段階に入る。もはや幻魔鏡も消え去った今、我らに死角は無い。偵察、工作により張り巡らされた妖怪網を起動せよ。現世各所に次元の穴を開け人間たちを冥府に引きずり込め」

 「ははっ」

 妖怪の将軍たちが一斉に立ち上がって服従を示すように右手を高く掲げるのを閻魔卿は見届けた。


 「さて、俺は…」

 玉座に腰かけた閻魔卿、その顔の傷跡にうっすら血が滲む。

 「古い友人に会いに行くか…約束を果たす時が来たようだ」

 漆黒のオーラが肩、腕、背中から噴き上がり雲のように巨大な幻影を形成した。

 「待ってろ…」


つづく

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