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小説幻怪伝  作者: 蝦夷 漫筆
闇が、うごめく
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ベールを脱ぐ暗黒の怨球

 ここは閻魔卿が君臨する冥府。捕えた人間たちから「恐怖」を収穫する拷問のための収容施設「地獄」、そのさらに奥に帝国の宮殿「暗黒の間」は存在する。


 「ヌラリヒョン閣下が来ておりますが」

 「通せ」

 低く、艶のある声。漆黒のマントに身を包んだ閻魔卿の前には黒光りする大理石の長大なテーブル。その中央に現世の地図が掲げられている。光と闇の勢力分布を表すよう白黒に塗り分けられ、戦略上重要な拠点には黄金のピンが刺してある。取り囲む円卓には幹部クラスのオニたちが鎮座する

 「どうした、ヌラリヒョン」

 閻魔卿は振り返りもせずに尋ねた。男は跪いて答える。

 「はっ、現世に何やら不穏な動きがありますゆえご報告の上、指示を仰ぐ所存であります」

 禿げあがった頭が不気味な光沢を放つ不精髭の男。参謀、ヌラリヒョンは報告を続けた。

 「光の波動の持ち主と思われる者どもが美濃を出て旅立ちました。向かう方角は西」

 顔色一つ変えずに閻魔卿が答えた。

 「ほう。南海の作戦に感づかれたか。準備は如何ようか?」

 「ぬかりなく。三日後には地中から闇波動を打ち込み彼の地は水没する手はずになっております。たとえ敵が向かったとしても美濃からゆうに五日は要する道のり。間に合うはずもなく」

 沈黙のまま頷いた閻魔卿に向い、若干声を弱めてヌラリヒョンは続けた。

 「しかしながら閻魔卿。その美濃で先日、ほんの一瞬ではありますが激しい光の波動の閃光が走ったとの報告を受けました。ひょっとしたら…」

 「願いの破片、か」

 少しだけ閻魔卿が眉をひそめた。

 「誰かが糸を引いているに違いない」

 ひとつ、ゆっくりと溜息をついた後、やや声を荒げた。

 「とにかく、あの忌まわしき石ころが六つ揃う事は阻止せねばならぬ。総力で事にあたれ」

 「御意」

 深々と一礼ののちヌラリヒョンが退室すると、帝国幹部の一人が口を開いた。

 「閻魔卿どの、そこまで神経をとがらさなくても良いのではないか。古びた伝説だ、願いの破片など」

 閻魔卿赤い眼を見開き、大理石のテーブルをドンと叩いた。

 「甘く見るでない。忌まわしき幻怪の遺産、我らにとっては警戒すべき兵器だ」

 さしもの幹部クラスと言えども閻魔卿の語気に含まれる狂気の波動に圧倒される。さらに声を強めた閻魔卿。

 「幻怪は死に絶えたはず。だが侮ることは許さない。一部のスキもあってはならぬ」

 その時、祭壇に祀られた面が小刻みに揺れ唸りを上げた。

 「ああ、闇の御前さま…」

 閻魔卿すら襟を正す。

 「闇御前さまも手ぬかりなきようにと仰せだ」

 集まった幹部一同、凍りつくような恐怖に震えんばかり。全員の顔を見渡した閻魔卿。


 挿絵(By みてみん)


 「光の中にあって闇は見えず。同じく、闇の中では光の動きが見えない事もある。失敗は許さぬ」

 息が詰まるほどに重い空気が支配する暗黒の間。

 「暗黒の怨球の完成を急げ。邪魔者は人間だろうが何だろうが息の根止めるべし」

 閻魔卿の目配せで親衛隊が隠し扉のスイッチ押す。すると壁の一部が開き、妖しい光沢を放つ赤黒い球が姿を現した。

 「これが新時代の扉を開く。究極の最終兵器」

 まだ小さな球体だが、一瞬ブラックホールもかくやと思えるほどに強い引力に腰が浮く。しかし次の瞬間、球体表面に薄紫色の電光が走り、同時に強い衝撃波が走った。揺らぐ大地。

 「まだまだこんなもんじゃないぞ。こいつのパワーは。完成すればこの世界は闇に包まれる」

 捕らえた人間たちの恐怖や悔恨、悲しみや苦痛などを抽出して得た負のエネルギーを溜めこんだ球体は、まさに闇波動の凝縮。

 暗黒帝国は究極兵器の完成を急ピッチで急ぎながらその勢力を拡大しつつあった。


つづく

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