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小説幻怪伝  作者: 蝦夷 漫筆
魔の鏡を探せ~大府編
65/122

よみがえった魔鏡、その光と闇

 大夫おおぶの郷、かつての夫羅ふらの盟友、島二郎しまじろうの協力とりつけた幻怪衆の悦花えっかと夫羅親娘は、悦花が持つ黒の勾玉の秘密とともに、島二郎が密かに復元した万華鏡型の幻魔鏡の話を耳にした。


 「まさしく、よみがえった幻魔鏡…」

 頷く島二郎に向かって悦花が言った。

 「わたしたちに幻魔鏡を下さい。今すぐ必要なんです。閻魔卿の力に対抗できる『願いの破片かけら』を、何としてもその鏡の力で見つけ出さなくては」

 「いや…お嬢ちゃん」

 首をかしげる島二郎。

 「知っているかもしれないが、幻魔鏡はとてつもなく危険な代物だ。古代幻界の時代からあの鏡を手にして命を全うした者はいない」

 「何言ってるの」

 悦花は声を張り上げた。

 「わたしは自分の身を案じてなんかないわ。さっきも言ったじゃない、みんなを救えるならどうなっても構わない」

 夫羅が言葉を添えた。

 「悦花の本気は信じるに値するぞ、島。それに、こいつは鵺姫の娘だぜ」

 ニヤリと笑うその顔を見て、島二郎も微笑みながら頷いた。

 「ああ、そうだったな。なら問題ないだろう、しかし、残念だが幻魔鏡はもう俺の手には無い」

 「どういうことだ?」

 「幻魔鏡はその存在自体が波動を放ち邪気をも呼び寄せる。俺が鏡を復元してほどなく、闇の妖怪たちに襲われた。幻魔鏡が発する波動の力に気付いた連中がいたのだろう」

 夫羅がうなずいた。

 「確かにそれだけの妖力を備えたものなら、波動を心得た者なら感知できるだろうな」

 「その通りさ。いつしか幻魔鏡の噂はひろまり、その力に魅入られた数多くの者たちが俺から鏡を奪おうと躍起になった」

 悦花がつぶやいた。

 「力に魅入られた…」

 島二郎の声のトーンが上がる。

 「そうさ。なんたって未来を見通せる鏡だ。妖怪だけじゃない、人間もその魔力に取りつかれた。時の権力者や謀反を企てる浪士たち、一攫千金を狙う商人たち、ありとあらゆる欲の亡者たちが、幻魔鏡の力を手に入れようと俺に近づき、俺を殺して奪おうとした」

 「欲、欲に駆られて…」

 島二郎はうなずいた。

 「人間も、妖怪も。ああ、幻怪だってそうかもな。誰も自分の事しか頭にねえ。正義の旗印は己が欲望のために常に利用されるんだ。だから鏡は封印した」


 しばし沈黙が流れた。

 「しかし…」

 島二郎は低い声で言った。

 「あんたらの決意はホンモノのようだな…」


 あらためて冷茶を一杯、ぐっと飲み込んだ島二郎。

 「ああ、教えてやる」

 

 悦花が、夫羅親娘が身を乗り出す。島二郎は一人一人の顔を見回して続けた。

 「俺は鏡を壊すことにした。だが、有来ゆうらい先生の魂が宿っている様な気がして、どうしても壊す事が出来なかったんだ。そして、波動を封じるという布に幾重にも包んで、木曽路の鳥居峠の谷底にそっと隠した」

 「木曽路…鳥居峠…」

 「ああ、だがもうそこには無え。その後、木曽路一帯を支配下に置く山賊がそれを拾いあげた、という噂を耳にした…」

 眉をひそめて悦花が言った。

 「山賊ふぜいが」

 「いや嬢ちゃん、ナメちゃいけねえ。木曽路の那喝なかつ一家といえば、公儀も御庭番も手が出せねえほどの力を持ってる。やつらも実は波動の術を使いこなすって話だ。手強いぞ」

 笑みを浮かべながら悦花。

 「島さん、誰に向かって言ってんだよ。あたしゃ悦花だよ」

 「ふっ、大した女だ。ああ、信じてるよ。鵺姫の娘とあっては、確かにあんたを信じるしか無さそうだ」

 夫羅が島二郎の方を叩いた。

 「ありがとう、ありがとうな、島。お前はやっぱり男だ。おれが惚れこんだ男だ」

 「けっ、気色悪りい事言ってんじゃねえよ」


 挿絵(By みてみん)


 水車を回す澄んだ湧水に、日の光がキラキラと反射していた。

 「なあ嬢ちゃん、いや悦花さん。あの鏡は様々なものを映し出す。だがそれはすべて断片。惑わされちゃいけねえ、何があっても、最後まで、自分を信じるこった。最後まで、信じる、いいか」

 「え、ええ」

 島二郎は続いて仁美の目線にしゃがんで言った。

 「いいか仁美ちゃん。かならず悦花ねえちゃんと父さんが、あんたを守ってくれる、この世を守ってくれる。信じるんだぞ」

 「はいっ」

 「そうそう、そしてあんたは平和な時代を生きるんだ。戦いに生きるのは俺たちの世代までで終わりだ。平和な世の中で、イイ女になって幸せに暮らしな」

 立ち上がった島二郎は三人を見送った。夫羅が一度だけ、振り返った。

 「次に会う時は、ゆっくり昔話でもしながら酒を酌み交わそうじゃねえか」

 「ああ、約束だ。待ってるぜ」


 ほんの少し、涼しさが混じるそよ風に、夏が終わる匂いを感じた悦花が空を見上げた。

 「戦いが終われば…」

 眩しい光の中、真っ青な空をふと横切った繋ぎトンボに、少しだけ未来の自分を重ねてみた。


つづく

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