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小説幻怪伝  作者: 蝦夷 漫筆
交わることの無き道
57/122

最強部隊登場、装甲忍者の猛攻

 尾張柳生と幻怪衆の決闘。罠に罠で対抗し危機を機転で乗りきった幻怪衆が攻勢に転じた。尾張柳生の頭領・柳生雲仙に詰め寄る幻怪衆の面々。


 「なあ、あんたの負けだ。観念しろっての」

 だが雲仙は、突然高らかに笑いだした。

 「はははは、さすがだな。幻怪衆」

 「今頃わかったか。ああ、さすがだ。俺たちは」

 胸を張る蝦夷守。雲仙はニヤニヤしながら人差し指を横に振った。

 「だが、まだまだだ。」

 武者震いする雲仙は妙に高揚しているように見える。右手を高く掲げて大きく叫んだ。

 「幻怪衆の全員がここに集合した。この時を俺は待っていた」

 「ん、負け惜しみか」

 「いいや、ここが貴様たちの墓場」

 突如、河原の地面が裂け、地中から真っ黒い影が幾つも飛び出した。一気に宙に舞う姿はスズメバチの大群を思わせる。

 「なんだっ」

 驚く幻怪衆をあざ笑うかのように、空中を自在に飛びまわる忍者兵たち。背負った機械の箱から勢いよく火が噴き出し各々の身体を持ち上げているようだ。

 「人間が空を飛ぶ、だと?」

 唖然として見上げる猶予は無い。黒い忍者スズメバチは次々に手裏剣を撃ちこんでくる。それも尋常ではない速さ。

 「ふぬっ、とんでもない勢いだっ」

 振ってくる手裏剣の雨。、一つずつ、優雅な剣の舞で跳ね返してゆく雅だったが、予想外の威力に後ずさりする。


 「見ろっ、あれは」

 道具作りの天才・煤が忍者たちを指さして叫んだ。

 「たいしたもんだ。手裏剣も機械仕掛けっ」

 忍者たちの手の甲にはバネが仕込まれた手裏剣発射装置が。照準装置まで備わっている。


 「ええい、五月蠅いやつらめっ」

 呟いた裕は弓を構えた。

 「地に引きずり降ろしてやる」

 名手が放つ三本の幻の矢は、それぞれ別の標的を捉えて真っ直ぐに進む。見事に命中しガキンという耳に痛い音、同時に眩い光が発せられた。

 「えっ」

 命中はしたが、分厚い金属装甲に跳ね返される。

 「ほう。ならば」

 裕は三本の幻ノ矢を束ね、まとめて撃ちこんだ。激しい衝撃波が離れていても感じられる程の威力。さすがに敵の装甲を打ち砕き、忍者は墜落する。

 「さあ、このまま寝ててもらおうか」

 落ちた忍者に近づいた裕が、睡眠薬を霧吹きから噴出しようとした時、忍者は飛び上がった。させるか、と同時に裕も飛び上がる。

 「なにっ」

 高く宙に舞ったのは忍者の方だった。装甲をまとった腕の強い一振りが脳天に叩きこまれ裕は身体をくねらせながら墜落。

 「ううっ」

 息つく間もない。敵の突きが重力の加勢も手伝って襲ってきた。一寸ギリギリにかわしたが地面に大きな穴が空くほどのパワー。

 「どうなってるんだ」

 跳躍の高度もスピードや身のこなしも、攻撃の力強さも、鍛え上げられた忍者とはいえとても人間業ではない。

 

 一刀彫の雅も装甲忍者たちに手を焼いていた。

 「尾張柳生の最強部隊、か…」

 剣も身のこなしも、雅と互角、いやそれ以上に速い。伝説の剣でさえ、厚い装甲と「波動封じ」の前に力を発揮できない。

 「人間が幻怪を超えた、と言うのか…」

 雅の操る二本の魔剣を縫うように、装甲忍者の腕から生えた爪の刃が唸りを上げて迫る。かわすだけで体力を消耗してしまう。


 「さあて」

 フリント銃の先端、照門の真ん中の照星が、宙を舞う装甲忍者の一人に重なった。引き金に絡みついた人差し指をくいっと曲げる。

 「もらった」

 撃鉄がフリズンに当たって小さな火花を散らす。その火は銃身の装薬に引火、鉛の弾丸が勢いよく飛び出した。

 「ええっ?」

 狙いを定めて細めた左目がまん丸にた。銃弾は間違いなく胸元に命中しふっとんだ。しかし敵はダメージなど無いかのごとく全く怯まず全速力で向かってくる。

 「ちょ、ちょっ…」

 慌てた蝦夷守が急いで次の弾丸を袂から取り出し銃身に装填しようとしている間に敵もう目の前に。

 「マジかよ、早すぎ」

 無言のまま、敵は腕の手裏剣発射装置を突きつけた。それを見て蝦夷守はニヤッと笑う。

 「うん。こりゃお互い準備不足ってやつだ」

 敵も手裏剣の弾倉がカラになっていた。慌てて次の手裏剣を取り付けようと腰元をまさぐるが、かさばる装甲のためもたついている。

 「じゃあ、俺はこれで」

 蝦夷守は愛刀・龍鬼丸を抜いた。黒ずんだ長い刀身が鈍く光る。「さあ、さあ」と忍者に詰め寄る蝦夷守。だが敵も引かない。

 「俺は、これで」

 腕の横のスイッチを押すとキーンと云う音を響かせながら一尺以上はあろう爪がそれぞれ三本ずつ飛び出した。両腕を交差させて振り下ろす。

 「死ねっ」 

 「いやだっ」

 閃光を放って交錯する両者の武器。

 「うあっ…」

 しかし龍鬼丸は敵の爪に絡まって跳ねあげられ飛ばされてしまった。

 「二度目だよ、今日」

 容赦なく斬り込む敵の猛攻に翻弄され刀を拾うどころではない。

 「ちょっ、しつこいなあんた」

 「覚悟せいっ」

 ふざけている場合では無い。いよいよ追い詰められて倒れ込んだ蝦夷守の眼前で鋭い爪が交錯する。

 「んあああっ」

 やぶれかぶれに河原の石を投げつけているうちに、ふと敵の動きが鈍くなっていることに気付いた。

 「あれっ」

 装甲忍者の腰の辺りから黒い粘り気のある液体が垂れ落ちている。どうやら投げつけた石が当たって破損したようだ。

 「ん、なんだ、こりゃ」

 よくみると忍者の身体の身体には歯車や金具が取り付けられていた。

 「そうか、機械仕掛けの動力付きの鎧ってわけだ。大したもんだ」

 まさにパワードスーツ。幻怪をしのぐ身体能力はこのお陰だったわけだ。


 「そうだっ、それだっ」

 岩陰から大声が聞こえてきた。

 「油圧制御だっ、腰の動力源からつながる管を狙えっ」

 隠れていたすすが装甲忍者の仕掛けを見破った。しきりに手振り身振りで蝦夷守に攻略法を伝える。

 「へえ」

 言われた通り蝦夷守は、すでに弾切れの銃のグリップを敵の腰の金属パイプに打ちつけた。破れてだらりと垂れ下がった管から勢いよくドロドロとした液体が噴出し始めると、装甲忍者は完全に動きを止めた。

 「ぐ、ぐううう」

 身動きままなら敵をあざ笑う蝦夷守。

 「あらら。動力無しには重たすぎるってわけね」

 指先でツンと胸元を押す。なすすべなく仰向けに倒れ込んだ装甲の忍者は足をヒクつかせながら起き上がる事もできない。


 「詰めが甘いのよね」

 勝ち誇ったように見下ろした。しかし蝦夷守が不穏な波動の気配を感じ取った時にはすでに新たな敵に囲まれていた。

 「詰めが甘いんだよお前さん」


 確かに油断した。

 「ヤバいかも」

 ふと敵の肩越しに、からくりのひろが見える。

 「おーい」

 気付いて振り向いた裕に向かってジェスチャー。

 「背中の、付け根の、パイプを、ねらえ」と。

 「ん?」

 敵も一斉に振り返った。遠くの裕は首をかしげながらジェスチャーを反芻。

 「背中が、かゆい、鉄棒、上手…」

 「は?」

 「違う違うっ、ほら」

 蝦夷守、精いっぱいの動作。

 「背中のっ、付け根のっ、パイプにっ、あてろっ」

 しばし考えた裕。首をひねりながらもジェスチャーを繰り返してみる。 

 「後ろは、腰痛、長くて、大丈夫…」

 「は?」

 裕はますます頭を抱え込んだ。もはや敵の忍者たちも成り行きを見守っている。なかなか通じずイラつく蝦夷守。

 「だからっ。よく見ろ、ほらっ」

 ゆっくりと大きな動作。

 「背中の、付け根の。いいか、よく見て。パイプに、当てろ。ってば」

 ポンと手を打って「わかった」とばかりにニッコリした裕。

 「やっとわかってくれた」

 満面の笑みの蝦夷守にむかって裕が確認のジェスチャーを返す。

 「後ろの、お尻に、管を、入れろ」

 口を開けて呆れる蝦夷守。顔を見合わせた敵が襲いかかった。

 「お前らっ、ふざけるのもいい加減にしろっ」

 絶体絶命、その時。裕がサッと弓を手にした。


 挿絵(By みてみん)


 目一杯に引き絞った弓から同時に発射された三本の矢はソニックブームを響かせて敵の背部、動力装置を粉々に砕いた。


 「なんだよ。判ってたんじゃん」

 裕に向かって中指を立てながら、あえなく動けなくなった敵たちを蹴り飛ばして勝ち誇る蝦夷守。

 「ん?」

 その背後でなにやらガシャンという大きな音が聞こえた。

 「お?」

 振り返った足元には倒れた装甲忍者。背中の動力管は断ち切られ油を撒き散らしていた。

 「どうしたんだ、こいつ」

 ふと見上げると、刀を鞘にしまいながら雅がため息をついていた。

 「詰めが甘いってのは本当だな。やられる寸前だったぞ」

 「あら」

 ニヤリと笑った蝦夷守。

 「でもな」

 笑いながら、雅に目配せをした。

 「いや、それはお互い様」

 蝦夷守はまっすぐ雅の眉間にフリント銃をつきつけた。一瞬の空白をはさんで、目配せの意味を察した雅がスッと座り込んだ。

 「だろ?」

 雅の背後には忍び足で敵が迫っていた。急に標的が視界から消え、代わりに目の前に銃を突きつけられ、その顔は一瞬で青ざめた。

 「ひっ」

 「さあ、耐えられるかな」

 頭めがけてフリント銃がぶっ放された。煙を上げて身体ごと吹っ飛んだ敵の額の鉢金のど真ん中に食い込んだ鉛の弾丸が白煙を上げている。

 「はは、死ぬほどびっくりしただろう」

 敵は白目を剥いて気を失っていた。

 「ああ、答えなくていいよ」

 

 フッと笑った雅、蝦夷守の伸ばした手を掴んで立ちあがった。

 「貸し借りなし、な」

 二人は高く上げた手をパチンと合わせた。


 つづく

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