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小説幻怪伝  作者: 蝦夷 漫筆
交わることの無き道
55/122

柳生の刺客、赤獅子と青獅子

 罠には罠。囮として処刑台に縛られた悦花えっか幻翁げんのおきなを救うべく策を弄して参上した仲間・幻怪衆と、モノノケの全滅を図る尾張柳生一党の戦いが始まった。

 蝦夷守えぞのかみの機転で解放されたかに思われた悦花と幻翁だったが、尾張柳生の得意技・波動封じの網によって再び危機に。

 その危機を救ったのは意外にも尾張柳生の頭領・雲仙うんぜんの息子、鴎楽おうらくだった。


 雲仙が放った手裏剣に腕をやられて転げ回る敵は愛息だった。

 唖然とする雲仙が膝から崩れ落ちるように座り込んだのを見て、蝦夷守はその隙に落とした刀を拾いあげ大きく掲げた。

 「おおい、今だ。今だっ」

 これを合図に無数の矢が東の竹林から飛来した。

 「さすが、からくりの。いい仕事するねえ」

 空中で矢の先についた小袋がはじけて中からモクモクと真っ白な煙が噴出する。

 「なんだっ、どうなってるんだ」

 煙幕で視界を失い慌てる忍者たちを尻目に、蝦夷守は幻翁を背負い、また足元がおぼつかない悦花の手を引いて西の河原に逃げ込んだ。


 「見えん、見えんぞ何もっ」

 どんどん飛来する煙幕弾は辺りを真っ白に覆い尽くす。尾張柳生の黒装束もすっかり灰色に染まってゆく。

 「風遁の術だっ」

 雲仙の号令で部下たちは印を結び、自らの身体を回転させてムササビの様に広がった裾で風の渦を巻き起こした。少しずつ煙幕が晴れてゆく。

 「ちくしょう、どこだ、ヤツらはどこに逃げた」

 戻って来た視界の中を見回す。

 尾張柳生の者たちは、白い煙が揺らめきながら晴れてゆく中に立ち尽くす一人の男を見つけた。

 「ん、誰だお前」

 浪人笠を目深に被ったその男は、悠然と歩いて近づいてくる。

 「何者だっ」

 ゆっくり歩きながら右手を腰に差した刀の柄に置いた。

 「幻怪、一刀彫のまさ


 忍者たちが群がる。歩く足を止めることなく、うつむき加減のままの浪人笠。

 「ほう、お前も幻怪かっ、ならば観念せい。さあ殺れいっ」

 四方から襲いかかった忍者たち。前後、左右から忍者刀を構えた影が一点に殺到した。四本同時に、刀が振り下ろされる。

 「ふんっ」

 瞬間、雅は忍者たちの中央で身体をガクンと沈めた。黒装束の取り囲む中から、ほんの僅か、鋭い閃光が円形に残像を描きながら一閃した。ぴたり、と動きが止まる。

 「え、えっ?」

 顔を見合わせ戸惑う忍者たち。足の踏ん張りが効かない。それもそのはず、汗一つかかずに立ち上がった雅が愛刀・崇虎すうとらを鞘に収めるカチンという音が聞こえる頃には四人の忍者は八つになって力なく地面に転げていた。

 「つまらんな、これでは」

 ペッと唾を吐いた雅。

 「弱すぎる」


 「じゃあ俺さまが相手になろう」

 言うが早いか木陰から飛んできた鎖分銅。操るのは巨漢の忍者二人組。左右から放たれた分銅はその尖った先端を雅の脳天に向けて勢いよく唸って飛んでくる。

 「うぬっ」

 もう一本の愛刀・紊帝びんていを左手に抜き、身体をひょいと後方に反らしながら二刀を顔の前で交差させる。ガシンッという音。細かな火花を散らして鎖が二本の刀身に絡みついた。

 「ううっ」

 左右から強い力で引っ張られる。今にも手が抜けそうな勢いだ。巨漢二人組は太い腕で鎖を手繰り寄せながら近づいてくる。


 挿絵(By みてみん)


 「ぐふふ。わしらが尾張柳生きっての殺し屋、赤獅子と青獅子よ」

 双子ならではの息の合った連携、左右対称の位置から少しずつタイミングをずらして引っ張る力を加え雅の体制を崩す。それぞれの鎖のもう一端には大きな鉄製の鎌が刃を光らせていた。

 「さあ、いくぞ弟よ」

 「ああ兄者」

 左の赤獅子が急に手を緩めて飛び上がった。思わず右によろける雅の頭上から赤獅子が急降下。雅の右側に位置していた青獅子は両腕で素早く大きな円を描いて鎖を巻き取りながら地を這うように雅の懐をうかがう。

 「うあっ」

 急激に右に傾く身体、刀で支えようにも鎖が巻きついて自由が効かない。倒れ込む右下に潜り込むように青獅子が鋭い鎌を振り上げてくる。

 「ふんっ」

 雅は右手の崇虎刀を手放した。間をおかずその手が掴んだのは刀の鞘。左の腰元から居合抜きのように、一瞬の技で長い鞘を抜き右の足元から鎌を突き出す青獅子の顎を打ち砕いた。

 「鞘も、幻鋼げんのはがね製だ」

 「ぐふあわっ」

 のけ反って一回転して倒れ込んだ青獅子、顎はひん曲がってぐらぐらしている。

 「くっ、よくも弟を」

 頭上の赤獅子が吠えた。仰向けに倒れ込んだ雅を目がけて頭上から急降下。雅に立ち上がる時間の猶予は無い。咄嗟に左手に持った紊帝の剣を前にかざす。飛び込んでくる赤獅子の胴体を真っ二つに割らんと横一文字に押し当てた。

 「ぬっ」

 「ぐはは」

 ガキッと云う音。火花が一瞬、眩しいほどに閃光を放った。雅が押し当てた紊帝の剣が身体に食い込むのを防いだ赤獅子の胸当て防具が真っ赤に熱せられて白煙を上げていた。

 「斬れぬ?」

 「人間を、尾張柳生をナメるな。この防具も幻鋼なんだよ、ぐへへ」

 息のかかる距離、赤獅子は勝ち誇った笑みを残して鋭く長い鎌の刃を振り下ろした。

 「死ねえっ」

 浪人笠の下、雅の目が光った。

 「幻怪をナメるな。これでも手加減してやってるんだ」

 赤獅子の胸に押し当てた紊帝がにわかに黄白色に光を帯びた。

 「ぶふああっ」

 赤獅子の総毛が逆立ち、目玉を裏返したまま弾かれたようにその身は宙に跳ばされた。為すすべなく地面に落ちてぐったりとした赤獅子を、ゆっくり立ち上がった雅が見下ろす。

 「道具じゃない、波動。波動だよ、肝心なのは」

 手放した崇虎刀を拾いあげ絡みついた鎖をほどいて今度は赤獅子と青獅子の忍者兄弟を鎖で縛り上げた。

 「命が惜しくば今後我らに刀を向けるでない」


 つづく

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