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小説幻怪伝  作者: 蝦夷 漫筆
それぞれのミッション
17/122

第二の破片はすぐ近くに

 潜水艇・河童丸に乗り込んだ蝦夷守と煤は海路で四日市を目指す。伝説の秘宝「願いの破片」の一つを見つけるために。


 「ほら起きてる、起きてるっての。で、あれ、烏帽子はどこだ、烏帽子」

 ほろ酔い気分でハンモックの蝦夷守を叩き起こしたのは煤。

 「ここ。ここですよ、そろそろ時間です」


 うっすら見えてきた島影を遠眼鏡で確認しながら、艦橋の煤は蝦夷守愛用の烏帽子をクルクルと指で回しながら言った。

 「あっしだって飲んだくれてたいのは山々ですがね。ええ、ついさっき夫羅さんから連絡がありましたよ。四日市に入った、と」

 慌てて梯子を登り艦橋に入るや遠眼鏡を取り上げ覗き込んだ蝦夷守。

 「おっ、もう到着か。さすが速えな河童丸」

 思い出したように動きを止めて煤を振り返る。

 「今、連絡、って言ったか。どういうこった。海の上だぞここ。そんな大声でも聞こえたか」


 「ふふ」

 ニヤリと笑った煤。

 「これをご覧あれ」

 操縦室の後ろの棚に設置されていたのは、何本もの針金が入り組んでキラキラとした光沢をもつパネル状の板に繋がった何やら複雑な装置。

 「僅かな電磁波を感知して情報をやり取りできる、大発明」

 「この、ガラクタが?」

 ふう、と溜息をつく煤。

 「ガラクタとは無粋な…もう、いっつも銃だの剣だの振り回してばかりじゃなく、ちったあ頭使いましょうよ、頭」

 ケッ、と忌々しそうな顔の蝦夷守。

 「頭? ああ頭なら使ってる。俺の頭突きは相当なもんだぞ。小さい頃はクラスの頭突き大会で優勝したんだ、試してみるかお前さんも」

 ふざけているんだか真剣なんだか解りかねる蝦夷守の言葉を遮るように煤は自慢げに言った。

 「南蛮じゃね、『あんていな』などと呼ばれているらしいです、これ。離れていても誰がどこにいて何やってるかを知ることができる」

 胸を張って言う道具作りの天才・煤。まじまじと覗き込みながら蝦夷守が呟いた。

 「へえ。こいつがあれば飛脚は商売上がったりだな…そのうち誰もがこの装置を家に置いて電信のやりとりか。いずれは直接こいつに話しかけたら通じるなんてことになるかもな」

 チッチッ、と人差し指を横に振りながら煤が言った。

 「ふっ、まだまだ発想が貧困ですな、えぞどの」

 「ん?」

 「話ができるなんてのは当たり前。あっしはね、こいつをもっと小さくして、持ち歩き出来るようにしようと今考えてるとこですよ。

 「ほう、携帯型あんていな。そのうちみんな家に引きこもったままになっちまうな。その小さな装置をいじくるだけで、言った事も無い南蛮の密林から異国の品が届く、なんて。便利なんだか面白みがないんだか…」


 蝦夷守と煤は四日市で合流し「願いの破片」の一つを探しに。一方、花魁悦花は崇徳大天狗との闘いでボロボロになった「封じ布」の修繕のため阿波の國を目指した。一刀彫の雅は天狗玉の暴発を食い止めるために失った妖刀・崇虎の代わりを求めて旧知の鍛冶職人に会いに備前へ、からくりの裕は独自の情報をもとに単身京へ向かった。

 それぞれのミッションはすでに幕を開けた。


 ―勢州・四日市―

 今日も大勢の廻船問屋たちの競りの声が賑やかな四日市港。

 「いやあ、なんて人ごみ」

 辺りを見回す夫羅。おともの政吉が同調する。

 「これじゃあ幻怪さんたちに会うなんて無理じゃ…」


 夫羅の愛娘・仁美がいたずらっぽく笑みを浮かべながら、キョロキョロする二人に向かって言った。

 「心配ないっしょ」

 「ん?」

 「ほら」


 雑踏の中、湾から少し入った運河に艦橋の先端(通常の屋形船のような形状をしているため、まさかその下が最新鋭の潜水艇とは気付かれない)から船をおりて歩いてくる二人が見える。

 「ね」

 仁美が指さす先には、たくさんの装飾品をジャラジャラとぶら下げた長髪に烏帽子の男と、菅笠まで全身緑づくめの男。

 「ああ、たしかに。ありゃ見間違えはしない」

 

 挿絵(By みてみん)


 笑顔の夫羅、右手を差し出し蝦夷守たちに近づいた。

 「早かったな、蝦夷の」

 ちらっと夫羅の右手を見て、腰に下げた手拭いでその手を一通り拭いてから握手に応じた蝦夷守。

 「港町だからって牡蠣なんか食ってないだろうな。ひどい腹下しでも起こしたら困るからな」

 呆れ顔の夫羅にむかって続ける蝦夷守。

 「ああ早かった、ああ河童丸のおかげに間違いない」

 ちらりと煤を見やって小声で夫羅に耳打ちする。

 「あの緑色はちょっとダサいと思うんだが…おや、お嬢ちゃん。ますます綺麗になって」

 大人の会話に聞き耳を立てる仁美を見つけ、取ってつけた様に言う蝦夷守。仁美は愛くるしい顔ですぐさま切り返した。

 「誰にでもそうやって言うわけ?」

 「ああ、キレイだと思ったらね」

 「キレイだ、って思わなかったら?」

 「あ、それでも言うかな。とりあえず『キレイだね』って」


 若干呆れた様子の仁美を横目に、夫羅はお供として仲間に加わった政吉を蝦夷守と煤に紹介しながら話した。

 「なあ、蝦夷の。どうやら破片の一つはこの近くだ」

 「ほう、わかるのか」

 「間違いない。俺の持ってる一個の破片の光が呼んでるんだ」

 「今じゃなんでも便利になって…」

 「茶化すな、ほら。あっち、あそこだよ。この石があのお堂に引き寄せられるように光りはじめた」


 夫羅が指差す丘の上には、ぽつんと佇むお堂が一つ。

 「ほう、随分年季の入った…」


 入り口に掲げられたえらく古びた木には、やっと判読できるほどに風化した文字が。「慧牡けいおす」とだけ。

 「噂に訊いた事がある。『慧牡の民』という蛮族が勢州にいる、ってな。とんでもない荒くれ者たちで近付く者には恐ろしい災いが起きる、と」

 「そ、それじゃ…俺たちも近付くのは止めよう。先人の教えはまもった方がいい。うん」

 回れ右をしようとする蝦夷守の袖を掴んで煤が言う。

 「あのね。また怒られますよ、翁に。言われてるでしょ、破片を何としても探せ、って」

 「翁…ああ、なんて面倒な師匠に弟子入りしちまったんだ…」


 涼やかな海風が吹く中、一行はゆっくりとお堂の扉を開けた。


つづく

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