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小説幻怪伝  作者: 蝦夷 漫筆
讃岐の激闘、恐怖の天狗王
12/122

慈悲なき天狗王、崇徳大天狗

 河童の煤が残した手掛かりを辿って石鎚山天狗岳に乗りこんだ幻怪戦士一行が見たものは、拉致された人間たちから負のエネルギーを吸収し暗黒エネルギーの塊を作りだす巨大なシステムだった。


 「天狗玉の完成はまだか?」


 ひときわ大きな声が響いた。声の主はアジトの奥、玉座に構える巨体の天狗。赤黒い肌から妖気が立ち上っている。


  「急ぐのだ」


 長い鼻を自慢げに撫でながら配下の天狗たちに檄を飛ばす、彼こそ天狗の王、崇徳大天狗。

 かつて人間世界でも王として君臨した彼は、裏切りに遭い失墜したのをきっかけに激しい憎悪と悲しみの果てに、邪悪な波動を身にまとった妖怪に転生した。その怨念たるや凄まじく、彼を四十八天狗の頂点に立たせるほど。日本三大悪妖怪の一人に数えられるほどの力を備え、養和の大飢饉はじめ彼の手に依る人間界の災害は数知れず。


 挿絵(By みてみん)


 「人間どもには限りない苦しみを与えてやれ。これは俺の復讐でもある」


 今や崇徳大天狗は闇の帝国の四天王の一角を占める。閻魔卿の指令を受け、南海地域に巨大な波動爆発を起こすための闇のエネルギー塊「天狗玉」の完成を待つ。


 「計画に感づいた幻怪の残党が向かっていると訊く。一刻も早く閻魔卿さまの言いつけどおり、暗黒球を完成させろっ」


 配下の天狗たちはやぐらの上で闇エネルギーポンプで人間たちから立ち上る負のオーラを汲みあげている。その様子を一瞥した崇徳大天狗はすっくと立ち上がり、アジトのさらに奥、頑強な檻に閉ざされた独房に向かった。その中に幽閉された男に向かって彼は言った。


 「河童め、お前が幻怪の一味だということはもうバレている。『願いの破片』の在り処を教えてもらおうか」


 檻から引きずり出されたのはすす。幻怪戦士たちも探している伝説の「願いの破片」の在り処を訊き出すために拉致されたようだ。


 「お前は持っていないようだが…さて、どこに隠した?」


 太く長い、革製のむちを束ねた手を煤の眼前にちらつかせながら問う崇徳大天狗。夏の暑さとマグマの熱気が充満するアジト内で、すでに煤の身体も乾燥しきってかなり弱っている様子が遠目にも明らかだ。だがニヤリと笑みを浮かべた煤は大きな声で言い放った。


 「そんなもん、知らんわい。てめえで探せ、鼻デカめ」


 五秒ほど、沈黙をおいて、崇徳大天狗もまたニヤリと笑ったのち右手を大きく振り上げ、唸りを上げる鞭を煤の肩口に激しく撃ちつけた。


 「うがっ」


 擦り切れた皮膚から血が滲む。一瞬、顔を苦痛に歪めたが、再び強い目で煤は崇徳大天狗を見上げて言った。


 「知らんっつの」


 もう一度、マグマが作る陽炎の揺らめきを断ち切るように鞭が鋭くしなった。一回目よりも大きな音で、その先端は煤の肩口の肉をえぐる。


 「次はその首が飛ぶぞ」


 首筋からダラダラと血を流しながらもひきつった笑顔のまま、煤は崇徳大天狗の顔に唾を吐きかけた。

 

 「知らんもんは知らん、だから探してんだ。バカかお前」

 

 「ほう」

 顔にべっとりと血まみれの唾が付いたまま、飄々としながら軽く頷いた崇徳大天狗は左手の指をパチンと鳴らして配下の天狗に合図した。


 「なあ、河童よ。お前ももとを正せば妖怪、我らの仲間じゃねえか、な。俺も妖怪仲間を痛ぶるのは切ないんだ。強気も悪くない、ああ、カッコイイよお前さん」

 

 煤に顔を近づけ、ジェントルな口調で諭すように話す大天狗。紅潮した顔の奥にマグマの紅色を反射した瞳が妖しく光る。


 「だが悪いことは言わん。教えるんだ、在り処を。『願いの破片』の」


 立派に剃り上がった髭の奥の口元が笑みにゆがむ。煤への視線を逸らさぬまま、手下が持ってきた焼きごてを右手に受け取った。この焼きごては魔鉱石で出来たもの。通常の金属ではでは融解してしまうほどの超高温のマグマに熱せられ、真っ赤に光っている。

 

 「なあ河童。その目ん玉溶けて無くなっちまったらさぞかし世の中つまらんだろ」


 思わず目を閉じようとした煤。だが崇徳大天狗の手下が背後から煤の顔を押さえつけ、瞼を指でこじ開ける。ゆっくりと迫る灼熱の焼きごて。その熱で周囲を陽炎に揺らめかせながら、視界を覆い尽くすほどに煤の眼球に迫ってくる。その後ろでは、サディスティックに武者震いしながら狂気の笑みを漏らす崇徳大天狗が呟いた。


 「もはや使命などどうでもよい。お前の苦しみ泣き叫ぶ姿が、見たい」


つづく

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