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小説幻怪伝  作者: 蝦夷 漫筆
讃岐の激闘、恐怖の天狗王
11/122

伊予の霊場へ

「あいつは、すすは俺たちの行き先を教えてくれているんだ」


 飯野山中で天狗の一団に襲われた幻怪一行。「いけにえ」の人間たちとともに仲間の河童、煤もさらわれてしまった。だが、連れ去られた煤が落として言った尻小玉を、からくりの裕は見逃さなかった。

 二十間ほど離れた先にも尻小玉が落ちている。

 「ほう、やるな、煤」

 巨大な天狗に鷲掴みにされ宙を舞いながら拉致されつつも、一定間隔で「あしあと」を残していったに違いない。

 一つ、また一つと河童の賢者が残した足跡を辿る。

 「西…か」

 一行の前に見えてきたのは伊予の霊場、石鎚山天狗岳。


挿絵(By みてみん)

 

 まさに天狗の爪を想起させる天空に切り立つその頂に強い邪気が宿っていることを一同はすでに感じていた。見上げる雅が言う。

 「間違いない、ここがやつらのアジトだ」

 「そうだな、『天狗岳』って名前からしてもうバレバレだし」

 同じく見上げる蝦夷守が茶化すのを呆れたように睨む雅。

 「さあ、急ぐよっ」

 二人の間を割って先へと歩を進めるのは悦花。ここから先は随分道も険しくなる。「あしあと」を伝って南側の斜面を登ってゆく。

 「我々の足なら四半刻もあれば頂上だな」

 裕は時折ふところから取り出した地図を眺めて場所を確認しながら、地熱よ邪気の入り混じった異様な空気の中、一行は斜面を登っていった。


 「しかし、煤も今じゃ俺たちに肩入れしてるが、もとは妖怪だ。天狗の仲間じゃねえのか」

 唐突に蝦夷守が尋ねた。右手で木の枝を杖がわりに登る斜面に少々息も切れてきた様子。

 「なんだい、もう息があがってんのか、お前。確かに、河童も天狗も妖怪ってくくりじゃ一緒だな。ついでに言うと、人間だって似たようなもんだ」

 「ん?」

 「持ってる波動の力が強いがゆえに、人間には理解出来ない力を発揮できるってことだ。その波動の位相が『光』か『闇』か、どっちに振れるかの違いだよ」

 「おれたち『幻怪』も…」

 「ああ、そうだ。気をつけねえと何かのきっかけで位相が逆になっちまうかもな」

 からくりの裕が語るように、この世のすべてを構成する「波動」には二種類。一方が「光」と呼ばれた時、もう一方は「闇」と呼ばれた。

 「河童や天狗の祖先は人間に近い種族で、歴史の中でゴタゴタにまみれるうちに強い波動エネルギーを持ったヤツの中で、妖怪や幻怪に転生した者がいる、そういうこった」

 感心そうに聞いていた蝦夷守が言った。

 「へえ。裕は物知りだな。本でも書いたらどうだ?」

 「幻翁が教えてくれたんだよ。何でも知ってる」

 「…う、その名前を聞いたら頭が痛くなってきた」

 彼ら幻怪一行も幻翁の厳しい修行の末に幻怪として覚醒した者たち。

 「しかし、かつて幻王とよばれた守護神たちはみな滅びてしまったんだ」

 「ん、だから俺たちがやらなきゃ、って話だろ」

 「ほう。蝦夷にしちゃ物分かりがいいじゃないの」

 裕と蝦夷守を振り返って、先頭をゆく悦花が威勢のいい声を上げた。

 「さ、もうすぐだ」


 石鎚山天狗岳の北側の斜面は激しく切り立った岩盤がそそり立つ崖。人間はおろか、動物さえも近づけない難所になっている。裕が自慢のスコープ機能のついたゴーグルで様子をうかがう。

 「あそこだ。巧妙に隠してあるが、間違いない」

 崖の中ほど、草木に紛れて小さな穴。ちらりと顔を出した天狗の光る眼を見逃さなかった。

 「さあ、まってろ煤」


 入口の穴を守る天狗を雅の崇虎刀が瞬きの間もなく斬り捨てたのち、一行は中に忍びこんだ。異様な熱気が支配する。

 「こりゃ息が詰まりそうだ」

 中では天狗たちの怒号がこだましている。

 「いけにえの人間どもは偉大なる閻魔卿の元に連れて行け」

 かなり広い空間。

 「ほう、こんな大きな空洞が中にあったとは」

 「この岩盤には洞窟なんか出来っこない。これは彼らがくりぬいてこさえたに違いない」

 「おい、見てみろ。連れてこられた人間はああなるんだ」

 手枷足枷を取り付けられた子供から年寄りまで様々な「いけにえ」たち。

中央の巨大な樽の中に彼らは放り込まれ、あらゆる方法で痛ぶられているようだ。そこから吹き出る波動~恐怖、苦痛、悔しさ、悲しみ~は、ポンプのような仕掛けで吸い取られ集められ、地中から噴き出すマグマの妖気と一緒になって黒紫色の球体エネルギーの塊を形成していた。


 「天狗玉の完成はまだか?」


ひときわ大きな声がアジト内に響いてきた。


つづく

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