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小説幻怪伝  作者: 蝦夷 漫筆
熱き旅路に敵また敵~雨乞山激戦編
100/122

究極大蛇は破壊の邪神

 霊峰富士への道中、駿河・雨乞山で鬼の獄卒として知られる牛頭ごず馬頭めず、そして配下のオニたちの襲撃を受けた幻怪戦士たち。撃退に成功したもののそれぞれに痛手を負い、青鬼の毒ガス攻撃に苛まれた花魁戦士・悦花えっかは未だ朦朧としたまま。

 さらに、大蛇の群れが現れ彼らを取り囲んだ。


 「起きろ、悦花起きろっ」

 揺さぶっても悦花はまだ眼振著しく虚空を見上げたまま。


地中から巨体を突き出した蛇が四方から、いや八方からやけに美しい鱗を雨に光らせながら牙を剥いて襲い掛かってくる。

 「全部で八匹か…まあいい。くちなわの口裂けって言葉を教えてやる」

 一刀彫のまさが二刀を抜いた。真上から噛みついてくる蛇頭を下から斬り上げる。切っ先が二股の舌先をかすめ素早く頭を引っ込める、その横からもう一つの蛇頭、長い牙が迫る。


 「来いっ」

 雅の左手の紊帝びんていの剣が大蛇の牙とぶつかり合い、甲高い音がこだました。すかさず雅の左手に力がこもる。剣に帯びる光は波動のサイン。牙を通じて響く波動の衝撃に二つ目の蛇頭も頭を引く。

 「素早いな…」

 「ああ。でかいくせに素早い。ズルいな」

 リボルバーを抜いたのは蝦夷守龍鬼えぞのかみりゅうき。同時に撃鉄を起こし素早く引き金を引く。白い硝煙の輪を重ねるように浮かべながら次々放たれる銃弾。しかし大蛇の逆立つ鱗はそれを簡単に跳ね返す。

 「さらに固いときた」

 「矢でも鉄砲でも…なんて言い回しがあるが」

 からくりのひろが弦を引き絞って幻ノ矢を放つ。だがこれも分厚い鱗に阻まれてダメージを与えるには程遠い。

 「次から次へとまあ、これだけのバケモノよこすとはな」

 「ほんとですって。ちなみにこいつは…」

 河童のすすが自慢の電脳装置・相場銅あいばどうの画面を指でこすりながら敵の情報を検索する。

 「ん?」

 気付くと目の前に大きな眼球が冷酷にこちらを見ている。いや、もしかしたら鼻の周囲の小さな穴でサーモグラフィのような映像で煤の動きを捉えているのかも知れない。

 「ひいっ」

 シャアッと鱗を擦る不快な音を立てて蛇頭が大きく口を開けた。ちょろちょろ忙しなく動く舌はもう鼻先に触れるほど。

 「あ、あっしは武器とか持ってないんですってば…第一、ほら。河童なんて食っても不味いから、ね、ね」

 目を逸らさず、驚かせず、そうっと、そうっと後ずさり。蛇頭もゆっくり、ゆっくり鎌首を後退させ…。

 「ぎゃあっ」

 いきなり飛びかかってきた巨大な牙。

 「だめかも…」

 ガチン、と激しい音。大蛇の牙が煤の菅笠に食らいつき、その内張りの幻鋼の筋金を噛んだ音。あと五寸ほど近ければ頭を噛み千切られていたに違いない。

 顔面蒼白の煤に駆け寄りながら蝦夷守がリボルバーを撃ち放つ。大蛇の右眼に命中した。

 「武器持ってねえヤツは」

 反対側から駆け寄るのは裕。投じた幻ノ矢が大蛇の左眼に突き刺さった。

 「さっさと逃げてな」

 大蛇の顎の下に潜り込んだ雅が真上に突き出した崇虎すうとら刀が、鱗の隙間に刃を食い込ませる。

 「そう言うこった」

 「ほら」

 蝦夷守が煤の背中をポンと蹴り出し、大蛇が取り囲む輪の外に逃がした。


 「ならばあっしは」

 相場銅の画面を、まるで本のページをめくるように上から下へ。

 「敵に勝つには、敵をよく知るべし。さてこの大蛇、何者なんだ…んん?」

 一匹の大蛇が両眼をつぶされ喉元を切り裂かれると、呼応するように他の七匹も急に首を持ち上げて身体をうねらせ始めた。

 「な、なんだっ」

 またしても大地が揺れる。バリバリと音をたてて足元の岩盤に亀裂が入った。

 「う、うあっ」

 幻怪戦士たちは息を呑んだ。地面の割れ目がせりあがり、怪物が全貌を現した。

 「こ、これって」

 「なんだよ八匹が繋がってるよ」

 「むしろ八つの頭を持つ大蛇と言うべきか」

 一つの首が痛ぶられたことで他の七つの首が激昂している。全身の鱗を逆立たせ激しく威嚇の音を発している。頭痛をもよおすほど激しく不快な音。

 「くるぞっ」

 一気に暴れ出した。八つの蛇頭、八つの尾。右と思えば左、左と思えば上、次から次へと襲ってくる牙に防戦一方。

 「こんなバケモノの相手ばっかりなんかしてらんねえっての」

 しかし大蛇のふところには意識朦朧のまま横たえる悦花がいる。

 「しゃあねえだろ。俺たちがやらなきゃ悦花が食われちまう」

 雅の二刀流が描く切っ先の軌跡と、次々攻め入る大蛇の牙が交錯し火花が散る。

 「とにかく手を休めるなっ」

 裕が放つ幻ノ矢は波打つように動く八つの蛇頭の合間を縫うように飛び交い牽制する。

 「休みたくっても休めねえけどな」

 蝦夷守はありったけの銃弾をリボルバーの硝煙に乗せて撃ち放つ。八つの首の予想不可能な複雑な動きは照準を狂わせる。

 「下手な鉄砲も…って言うが、これじゃ下手以下だっての。ちくしょう、こんなヘビごときにっ」

 

 「い、いや…蝦夷さんってば」

 激しい戦いを遠巻きに見ている煤は、相場銅の画面を注視しながら顔面を蒼白にしていた。


 挿絵(By みてみん)


 「そいつ、八岐大蛇ヤマタノオロチです。伝説級、いや伝説そのもののバケモノ…」

 「ん、聞いたことあるぞその名前」

 「誰でも知ってますって」

 「しかしそんな千年だか二千年前だかに、誰だったかに退治されたような怪物がなんで今こうやって俺たちを襲ってるんだ」

 閻魔卿の手によって再生されたのか。あるいは冥界にはこのクラスがまだゴロゴロいる、ということか。

 「知りませんって、そんなこと。とにかく、とんでもないバケモノですよそいつ」

 雅が二刀を慌ただしく動かしながら尋ねた。

 「なあ煤、判ったところで俺たちゃどうしたらいいんだ。どうすりゃ勝てるんだこいつに。弱点とか無えのか」

 そろそろ息が上がってきている。

 「そこまで調べたんなら退治法とか駆除法とか、書いてあるだろ」

 「ええと…」

 ササッとページをめくる。

 「あ、あった。酒、酒ですって。昔の英雄はそいつに酒飲ませて眠ったところをやっつけたらしいから…」

 「酒、なあ…」

 目の前で荒れ狂う大蛇はついにその牙から毒液を放出し始めた。無機的な眼球は何を考えているのか窺い知れない恐ろしさ。

 「とてもじゃねえが、酒を酌み交わす雰囲気なんかじゃねえぞ、おい」

 「た、確かに…」


 必死の抵抗を続ける幻怪戦士たちを前に、八岐大蛇は怒りと苛立ちを増幅させているようだ。

 「お、おい。見ろよ」

 雅に喉を掻き切られてぐったりとした一本の首がぶらりぶらりと足手まとい、否、首手まといになっていると考えたのか、両隣の大蛇の首は大きく口を開け荒々しく牙を突き立てた末にその半死半生の首を根元から食いちぎってしまった。

 「なんて獰猛なやつ」

 見ているだけで腰の周りに寒気が走り鳥肌が立つ。ますます荒ぶる八岐大蛇に幻怪戦士たちもジリジリと後退を余儀なくされはじめたその時。

 「ん、また何か来るっ」

 煤が叫んだ。右から、左から聞こえてくる怒号。明らかにこちらに向かって近づいてくる。

 「おいおい、どうなってんだ全く」


 つづく

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