旦那様と私といろいろ
誤字修正済み。
「はぁ…今日も麗しいわ…」
「おっお嬢様!?何してらっしゃるんですか!」
「あ!何するの!」
持っていた双眼鏡を取り上げられてしまった。
せっかく愛しの旦那様を、双眼鏡で舐めるように見ていたのに。
自室の窓から外を見ると、部下に訓練をしていらっしゃる愛しの旦那様。がっしりとした体つきは、訓練で邪魔になったのか脱いでしまった上着のおかげでよく見える。
目が合うとこちらを見て細めて笑ってくださる。
短めに整えられた御髪も、御髪と同じ黒いお色の瞳も、口元に生えそろうお髭も、目尻によるしわも全部すてき。
「はぁ…旦那様」
私が小さく手を振ると、旦那様も振り替えしてくれる。
それだけで部屋を整えている、メイド兼幼なじみの冷たい目線もなんのその。
「お嬢様、いい加減窓を閉めてもよろしいですか?体が冷えてしまいます」
「駄目よ、旦那様がよく見えないじゃない」
「……お嬢様のお部屋が寒くなり、お体が冷えてしまいます、そうすると旦那様にお会いすることも出来なくなりますし、きっと旦那様も寂しがられるのでは?」
「ええ、今すぐ閉めましょう、あと何か羽織る物を頂戴」
窓を閉め、用意されたお茶を飲む。
少し冷えていたのか、体がほんのり温まってくる。
そんなときにも思い出すのは先ほどの旦那様のお姿。
「本当にお嬢様は旦那様が大好きですね」
「お嬢様と呼ぶのはやめて」
「申し訳ございません、どうしても癖で…」
「今の私は、奥様!奥様なの!」
この家の旦那様ジュデ・カーティ様、47歳国軍将軍。私ことマリア・カーティ19歳、元男爵家次女、現国軍将軍夫人。
正真正銘、旦那様の奥様なのだから。
五歳のときに旦那様に一目惚れし、奥様が居ることにより失恋。その後忘れられずにいた私だが、奥様が病気で亡くなりお一人になってしまった旦那様に、16歳になると同時に嫁入り。
前の奥様との間に25歳と23歳ご子息様が2人、私との間に11ヶ月になる愛しの娘。
旦那様との中も良好、子育ても良好。
ただ一つ。
長男アルフ様は良いが、次男ジェイ様がなにかと私に突っかかってくる。
「あれさえなければねぇ…」
「何がでしょう?」
「ジェイ様の事よ、ユリアの事はあんなに可愛がってくれるのに何で私には態度が違うのかしら?」
ユリアと言うのは旦那様との間に出来た娘。
ご子息お二人とも可愛がってくれるし、旦那様ももちろんの事。
ただ、私とジェイ様のみになると態度が変わる。
小馬鹿にした扱い。イライラする。この間なんて私が小さいからって片手で抱き上げて来たり、お義母様と呼ばずにマリアと呼び捨てたり、綺麗に結い上げた髪をぐしゃぐしゃにされたりといった扱い。義理とはいえ母親に何という扱い。
…思い出したらムカついてきた。
「あー…あれはですね、仕方がないと言いますかなんと言いますか…」
「なに?何があるのよ、まったく」
「……黙秘させていただきます」
新しく入れたお茶に菓子を添え、出されたものをいただく。先ほどなぜか言葉を濁した幼なじみは、こそこそと退出していった。
お茶を楽しんだ後、ユリアの面倒を見てまったりと過ごしていた。そろそろ旦那様も戻るしお茶の準備でもしようかと思いながら、常に思うことを娘相手に話していた。
「お二人とも見た目は旦那様に似て格好良いんだから、早く奥様を貰えばいいのにねぇ?」
「それはアルフやジェイに面と向かって言ったのかい?」
「え?旦那様!」
いつのまにか扉のところには旦那様。
はっ恥ずかしい…。
ニコニコといつものように笑顔で私からユリアを受け取り、あやしている旦那様。
「ユリアも大きくなったね、いい子だ」
「ええ、よく寝て食べて良い子にしていますわ」
「それは良かった」
ユリアも旦那様に抱かれて機嫌が良いようだ。
ご子息もあやしていた様で、子供の扱いがお上手な旦那様。
「で、マリアはアルフやジェイに先ほどのことは言ったのかい?」
「先ほど?…お二人に奥様という事ですか?」
「そう、マリアはそうした方がいいと思うかい?」
「え…と」
そう思います。でも、私と旦那様の生活を邪魔するからなんて言えない。アルフ様は置いといてジェイ様だけでも、早く、早く幸せになってお婿にでも行かないかしらなんて。
「あの二人がいるとマリアとユリアの三人で居るわけではないからかな?」
「うぅ!」
「皆で家族でもあるからね、マリアが皆と仲良くしてくれると私も嬉しいよ」
そう言いながら私を引き寄せて、ユリアごと抱きしめて下さる旦那様。
お優しい旦那様、わかりました。
旦那様がそう仰られるのであれば、私は皆の母として愛情もって接していきますわ!
「わかりました、マリアは皆の母として頑張ります」
「無理しない程度に。そうだ、夏になったら三人で避暑に行こうか」
二人には留守番をしてもらい、どこかの令嬢と会うかも知れないとの事。
「どうだろう?」
「は、はい。うれしゅう御座います」
その提案に嬉しくて涙がでそうになる。
お仕事でご子息様が家にいない事で三人になることはあるが、三人で旅行に行くのは初めてだ。
「今から少しずつで良いから、準備する物があれば準備をお願いするよ、奥さん?」
「わかりました、旦那様もお仕事頑張って下さいませ」
「ああ」
旦那様の言葉に、私は準備の為に部屋を出た。
「まあ息子とは言え、可愛い奥さんを取られるわけにはいかないからね、その期間にでも許嫁でも既成事実でも作ってしまえばいいのにねぇ」
だからこそ私が部屋を出た後に、旦那様がユリアに呟いた言葉は聞こえなかった