オークに嫁がされた令嬢ですが、夫が生理的に無理すぎる
「アンジェリカ、お前の嫁ぎ先が決まった。ジェラール伯爵家だ」
父は顎の髭を撫でながら、厳かに言った。
目の前には父とその後妻が並び、私はその向かいで座り心地の悪いソファに座っている。
父の突然の発言を聞いた私は自分の耳を疑った。
「ジェ、ジェラール伯爵家ですって!? お父様、本気ですの? だってジェラール伯爵は——」
私が言い終わらないうちに、父の後妻であるモニークが口を挟む。
「うちのような男爵家の娘が、伯爵家に嫁げるのですよ? なんて名誉なことでしょう。それに、あなたのような特異な魔法を使う人間にぴったりではありませんか」
モニークはギョロリとした目を細めて微笑む。その笑顔はどこか意地悪だ。
私はぎゅっと握った拳に力を入れながら、モニークに反論する。
「名誉ですって? いくら格上の家だからといって、ジェラール伯爵に嫁げることを喜ぶ娘がいるもんですか! あの伯爵は——オークのような見た目をしていると有名ではありませんか!!」
ジェラール伯爵は早くに両親を亡くし、若くして伯爵となった。今はまだ20代前半だったと思う。19歳の私とそう歳は変わらない。
彼の治める領地には商業の盛んな街と広大な農地もあり、税収も良く、人の行き来も活発な土地だ。
しかし1年ほど前、どういう訳か、ある日突然彼の外見は豚と人を混ぜたようなモンスターであるオークそっくりの見た目になってしまったという。
元々は可愛らしい顔立ちの青年だったらしいが今は見る影もない、というのは令嬢たちのお茶会でもよく噂されている。
呪いなのか、はたまた見た目が変わる奇病か——原因は分からずじまいだが、今日に至るまでジェラール伯爵の姿が元通りになったという話はない。
私が嫁がされそうになっている相手は、そんな男なのだ。
そんなの、いくらなんでも断固拒否よ!
「お父様、いくらなんでも、そんな男のところに嫁げだなんてあんまりです! 結婚は家同士のお付き合いもありますし、私だって自由に恋愛して結婚できるなどと思ってはいません。けれど、だからといってモンスターさながらの見た目の男に嫁ぐなんて、そんな……」
「アンジェリカ、もう決まったことだ。ジェラール家とモニークの実家は遠縁なのだが、その縁でモニークがお前の縁談をまとめてくれたのだ。感謝しなさい。」
私はバッとモニークの顔を見る。その顔には「邪魔者を排除してやったわ」と書いてあるようにしか見えない。
「アンジェリカ様、ジェラール伯爵をモンスター呼ばわりしてはなりませんよ。あなたの使う魔法だってモンスターのようなものではありませんか。おほほ」
後妻であるモニークは、私の魔法をあざ笑うかのように言った。確かに私の使える魔法は火とか水とかメジャーな魔法じゃないけれど、そんな言い方しなくてもいいんじゃない!?
そもそも、彼女はこの家に来てからずっと私が気に入らなかったのだ。
連れ子の男児であるポールばかりを可愛がり、私のことはいつも冷遇していた。
父もそんなモニークを咎めることはなく、私はこの家で生まれた娘でありながら、いつも肩身の狭い思いをしていたのだ。
だから早く結婚して、こんな家を早く出たいとは思っていた。かと言って、オークに嫁ぐのは絶対に嫌だ。不細工でも構わないから、せめて人間の見た目にしてほしい!
私が反論しようと口を開くと、父は面倒くさそうな表情でパタパタと手を振った。
「話はこれで終わりだ。ジェラール家からの迎えは明後日に来る。アンジェリカはそれまでに荷物をまとめておくように」
◇
突然嫁ぐことが決まってから2日後の朝。分厚い雲はすっかり太陽を覆い隠し、辺りはどんよりと暗い。まるで私の心を表しているかのような天気だ。
私はわずかな荷物を持って、自宅の前にしょんぼりと立っていた。
オークに嫁ぐ私についていきたいと言ってくれる使用人はおらず、見送りもいない。
父は荷物を玄関前に運ぶ私に「元気でやるように」とだけ言い残し、さっさと自室に籠ってしまった。なんて薄情な。
母が生きていた頃は屋敷全体が活気づいて、使用人も皆親切で、父ももっと笑顔が多かった。けれど母が亡くなり、ほどなくして後妻のモニークが家に入ると、使用人も大半が入れ替えられてしまった。
屋敷の雰囲気はどんよりと暗くなり、モニークの私に対するあからさまな嫌がらせを咎める人もいない。私にとって家は心安らぐ場所ではなくなってしまった。
せめて、嫁ぎ先にもう少し希望が持てれば良かったのに——。そう思わざるを得ない。
よりにもよって、結婚相手がオークの見た目なのだ。呪いだか奇病だか知らないけれど、せめて人間にして欲しかった。
結婚するってことは、もしかして私、オークとキスを交わすの……?
とんでもない想像でぞわっと全身に鳥肌が立ったとき、向こうから迎えの馬車がやってきた。
毛艶の良い立派な馬が、シンプルだが品の良い馬車を引っ張って近づいてくる。
この馬車に乗れば、この先はオークの花嫁になるしかない。
私は陰鬱な気持ちで馬車へと乗り込んだ。
◇
自分の自宅から馬車で3時間ほど走った頃、ジェラール伯爵領の端に差し掛かった。
どこまでも続くような小麦畑の合間に、ぽつぽつと家が建っている。
ふむふむ、ここが広大で生産量も高いと有名な農地か。
農地を抜けてしばらくすると、今度は民家と店が増えだした。
たくさんの人が笑顔で行き交う街の様子を眺めていると、なんだか旅行に来たような気持ちになってくる。
いや、旅行気分でいたらダメね。
私はジェラール伯爵夫人として、夫とともにこの地を治めていかなくちゃならない。
この人たちにキッチリ働いてもらって、税を納めてもらわなくっちゃ。それでいて、幸せに暮らしていってくれたらいいんだけど。
だって、オークに嫁ぐ自分が幸せになれるとは思えない。
せめて自分が犠牲になる代わりに、この街の人たちが幸せでいてくれたら、ちょっとは報われる気がする。
そんなことを考えているうちに、馬車は小高い丘の上にある大きな屋敷についた。
馬車と同じく、シンプルだが品の良い屋敷の前に、ずらりと人が並んでいる。
この屋敷の人たちだろう。
馬車の窓から覗くと、並んだ人の中にはちきれんばかりに膨れた人間がいる。
はちきれそうに膨らんだ体に、豚のような顔。口からは大きな牙がのぞき、頭の上には人間だった頃の髪のなごりだろうか、赤毛がほんわりと生えている。
まさかアレが——
使用人の一人に手を取ってもらい馬車から降りると、明らかに人外である男の姿が嫌でも目に飛び込んでくる。
「初めまして、僕がローラン・ジェラールだ。フゴッ」
今「フゴッ」って言ったよね? 喋り方まで豚っぽいの!?
勘弁してほしい!
ローランは私をエスコートするようにこちらに手を伸ばすが、その手には人間とは思えない鋭く長い爪がついている。
「この良き日にローラン様とお会いできたこと、心から光栄に思います。あなた様の妻となります、アンジェリカと申します。ローラン様と夫婦として末永く輝く日々を過ごせるよう、努力してまいります」
私は笑顔が引き攣らないように必死で挨拶をしたあと、おそるおそるローランの手を取った。
その手の皮膚は信じられないくらいゴツゴツしていて、やはり彼は普通の人間ではないと実感させられる。
ローランは私の手をとり、そのまま屋敷の中に連れて行く。
私は横を歩くローランの表情をうかがおうとするものの、肉に埋もれるくらい小さな目からは、彼が何を考えているのか全く分からない。
「こ、こんな美しい娘さんがお嫁さんになってくれるなんて……フゴッ! こ、光栄だ! ど、同世代のお嬢さんとお話するのも本当に久しぶりで……失礼があったら申し訳ない。ブヒヒッ」
笑っているのか、元からこういう喋り方なのか。彼の喋りを聞くだけで、全身がゾワゾワと粟立つ。
とにかくローランの喋り方のすべてが、自分にとって生理的に受け付けないものであることだけは分かった。
結婚生活、前途多難です!
◇
屋敷の中で一息つくと、昼食の時間となった。
清潔感のある食堂に通され席につくと、向かいには先ほど屋敷の前では見かけなかった赤毛の美少女が座っている。
一体誰だろう?
赤毛をふんわりとハーフアップにしている美少女は、私を見るとニッコリと笑った。
「はじめまして、ソフィ・ジェラールと申します。ローランの妹です」
「い、妹!? ローラン様の妹ってこんなに美人なんですか!?」
思わず口をついて出た言葉に、ソフィはうふふと笑う。
ということは、彼女の兄であるローランも人間の姿に戻ればそれなりに美しい青年なんだろうか。
人間に戻る日が来るのかは知らないけれど。
私の気持ちに気づいたのか、ソフィが微笑みながら答える。
「ふふっ、私とお兄様はよく似ていると言われておりました。今はあのような見た目になっておりますが、元は赤毛の髪で、かわいらしい顔立ちの青年なんですのよ」
そう言って、ソフィはローランの話を色々と教えてくれる。
実は狩りの腕前がそれなりに高いこと、外国語に長けていること、計算のスピードがおそろしく速いこと、ローランの水魔法の威力のすばらしさは騎士団にも引けを取らないことなど、どのエピソードを取ってもローランはなかなか優秀なようだ。
「なんだい、僕の噂話かな? フゴフゴ」
食堂にのっしのっしとローランが入ってくる。歩き方を見ても、かなり体重がありそうだ。
私は今晩訪れるであろう夫婦の初夜を一瞬想像し、また全身が鳥肌に包まれた。ひいい!
「お兄様がいかに優秀かというお話を、アンジェリカお姉さまにしておりましたの。……ああっ! 勝手にお姉さまと呼んでしまいましたわ。アンジェリカ様、これからお姉さまとお呼びしてもよろしくて?」
ソフィがキラキラと輝く瞳で私を見つめる。
美少女にお姉さまと呼ばれて嫌な気持ちになる人はいるまい。
「もちろんですわ! 私、あなたの姉になれて光栄です」
私がそう言うと、ソフィはぱあっと顔を輝かせた。
「2人が仲良くなってくれて嬉しいなぁブヒッ」
ローランも嬉しそうだ。私もローランがせめて不細工でも人間だったら嬉しいんだけれど。
「ソフィはまだしばらくこの屋敷で暮らすだろうから、アンジェリカも仲良くしてあげてくれたまえ。……僕がこんな見た目にならなければ、アンジェリカとアルマン殿の婚約話が消えることもなかったのに……フゴォ」
「お兄様のせいではありませんわ」
ローランがフゴフゴと呟きながら俯く。その小さな目には絶望が漂っているように見えた。まぁ、肉に埋もれてよく見えないんだけど。
「あのう」
私はローランとソフィの顔を交互に見て、思い切って尋ねることにした。
「ローラン様が今のお姿になったきっかけについてお伺いしても……よろしいでしょうか?」
私達は今日が初対面なのだから、本当はもっと当り障りのない世間話や、自己紹介から始めるべきなのだろう。
けれど、彼らの人柄ならこんな不躾な質問でも受け入れてもらえるのではと思ったのだ。
まあ本音としては、何を聞いてもローランの見た目が気になりすぎて内容が頭に入ってこなさそうだから、だけど。
私が尋ねると、ローランとソフィは一瞬目を見合わせる。
それから、少し改まった口調でローランが話し始めた。
「これは、僕の至らなさが原因なんだけれど——」
ローランによると、若くして伯爵になったローランを軽んじる貴族が少なくないらしい。また、若いローランを騙して金を得ようとする輩も何人かいたという。
若さゆえに血気盛んだったローランは、そういった輩を時に毅然とした態度で、時に厳しく追い払っていったそうだが、そういう態度がいくつもの恨みを買う原因になったのだという。ローランがもう少し歳を取っていれば、舐められたり反感を買うこともなかったかもしれない。
「僕に恨みがある人は少なくないんだ。おそらく、そのうちの誰かが僕に身体変化の呪いをかけたんだろう……。
身体変化の呪いは解くのにかなり高度な技術がいるそうで、どれだけ金を積んでもローランの呪いを解呪できる魔術師は見つからなかったそうだ。
呪いをかけた張本人を探し出せば解呪が可能だそうが、ローランに悪意を持つ人間に心当たりがありすぎて、特定に至っていないという。
「僕が人から恨みを買うような言動を慎んでいれば」
ローランは顔の肉の奥で、小さな目をぎゅっと瞑った。
「お兄様は悪くありません! この領地の人々に害をなそうとしたり、私に性的な目的で近づこうとした男たちを遠ざけただけではありませんか! ねえ、そんな悪意のある人間に手加減など必要ありませんよね、アンジェリカ様ッ」
「は、はいっ」
ソフィが私に力強い眼差しを向ける。
どうやらソフィは可愛らしい見た目に反して、かなり気が強そうだ。
「お兄様は少し変わった見た目ですが、領民や私や使用人たちに親切な、とても優しい人なのです。どうか見た目で判断せず、お兄様自身を見てあげて欲しいのです」
ソフィの目が涙でうるうると輝く。
「わかったわ!」と元気よく返事したいところだが、私にオークの中身をじっくり見極めることができるだろうか? 生理的な嫌悪感はそのうち無くなるのだろうか。
私が口ごもっていると、ローランが優しく言った。
「アンジェリカは急に僕のところに嫁がされてきて、びっくりしただろうね。ここまで急いだのには理由があるんだ。実は僕がこの見た目になってもう1年経つだろう? それなのに元の姿に戻らないっていうんで、気持ち悪がってこの領地から出て行く人が最近増えてきているんだ。この姿ではどうせ嫁ももらえないだろう、跡継ぎも作れないだろうってね。先の無い土地より、これから発展しそうな土地に移動したいと思っている人間は少なくないんだ。特に、商人とかは」
ローランは深い溜息をついた。
「アンジェリカが形だけでもうちに嫁いでくれれば、それだけで領民は安心する。この領地が少し安定するんだ。だからと言って、僕と夫婦としての務めを全て果たしてくれとは言わない。公的な場には同行してもらうが、屋敷内で僕と必要以上に接触する必要はない。もちろん——初夜もなしだ。今後も身体的な接触はなくて構わない」
「お兄様! それでは跡継ぎ問題はどうするのです?」
ソフィが抗議の目を向ける。
「親戚から養子をもらってもいいだろう。僕のようなところにアンジェリカのような美しい娘が嫁いでくれただけでもありがたいと思わなくっちゃ。ブヒッ。これ以上、彼女に負担をかけてはいけないよ」
ローランはソフィを諭すように言った。
そりゃ、私だってオークとキスしたり、夫婦の営みをこなすのはかなり抵抗がある。少し考えただけで全身に鳥肌が立つ。
しかし、全てを諦めた目でローラン自身がそう言うと、自分が彼に対して多少なりとも嫌悪感を持っていることに罪悪感を感じる。
きっと、ローランは聡明で思いやりのある人なのだ。
私は妻として、彼の優しさに甘んじていていいのだろうか。
それから先は誰も口を開くことはなく、重い空気のまま昼食会は終わった。
◇
ジェラール伯爵家に来てから数週間が経った。
ローランが最初に言った通り、夫婦の営みやハグすらないまま今日に至る。
かと言って、私がローランに嫌悪感を抱いたままかと言うと、そうではない。
ローランはよく領地を視察して回っているようで、それに同伴しているうちに彼の人となりについてよく知ることができた。
まず、彼は領民から広く慕われている。
平民に対してもえらぶることはなく、正義感は強いが理不尽なことを要求するような人ではない。領民たちもそれをよく分かっているのだろう。
「これが僕の奥さんのアンジェリカだ」
ローランがそう言って領民たちに私を紹介すれば、人々は皆ハッと驚いたような顔から、みるみる嬉しそうな表情へと変わった。
「ローラン様にもついに春が!」
「なんて美しい奥さんなんだい! ローラン様、やるじゃないか!」
「ローラン様がオークになっちまった時はどうなることかと思ったが、そうか、ローラン様のことをちゃんと見てくださる女性はいたんだなぁ」
中には感極まって私の手を取りながら泣き出す人もいた。
ローランはそれを見て苦笑しているが、どことなく嬉しそうだ。
それは結婚できたことで領民を安心させられるからか、それとも私の事を多少は好ましく思っているからだろうか?
そして、最初の1週間くらいは彼の表情から気持ちを読み取れなかったが、段々と小さな目や平たい鼻の動きから、彼の気持ちが少しずつ分かるようになってきた。
普通の人間と比べるとだいぶ表情が乏しいが、それでも嬉しい時には目が輝くし、興奮しているときには鼻がヒクヒク動く。
見慣れてくると、この顔もなかなか可愛い……かもしれない。早くブサカワを愛でる境地に辿り着きたい。
ローランは夫婦としての身体接触は行わなくていいと言ったが、伯爵家の妻としていつまでもそれに甘んじている訳にはいかないと思う。
意を決してローランの顔を見ると、彼は肉に埋もれかけの目をニコッと細めた。
「なんだい、アンジェリカ。フゴッ」
この唇と果たしてキスできるだろうか……。私がローランの唇を見て考えこんでいると、ローランはゴツゴツとした手でごしごしと唇を拭った。
「僕の口に何かついてる?」
「いいえ、そろそろ夫婦として、キスの一つや二つを行ったほうがいいのではないかと思っていましたの」
「キスだって!?」
ローランは後ろに後ずさると、信じられないものを見る目で私を見た。
「だって、いずれは世継ぎも作らなければならないでしょう?」
私が尋ねると、ローランはぶんぶんと首を振る。
「だめだ、だめだ! 君のような可愛い娘が、僕みたいなモンスターとキスするなんて気の毒すぎる! この家に嫁がされたくらいだから、君の実家での扱いは察するに余りある。だからと言って、そこまで自暴自棄にならなくてもいいじゃないか! ブヒッ」
「自暴自棄ではありませんわ。自分の頭でよく考えての結論です。それに、ジェラール家に来てから、私はとっても楽しいんですの。実家では後妻であるモニーク様からは辛く当たられていましたし、それに……私の魔法は他の人から見ると気持ち悪いんだそうで、家族からも使用人からも気味悪がられていましたの」
「そういえば君の魔法を見ていないな」
この世界では誰でも魔法が使える。夫婦や親しい友人であれば、相手がどんな魔法を使えるのか知っていて当然だ。けれど、私はまだローランに自分の魔法について何も教えていなかった。
「ローラン様は素晴らしい水魔法の使い手だとソフィ様から聞いていますわ。私は身体強化魔法なんですが、ちょっと効果が限定的でして……」
「身体強化魔法は騎士団の騎士に多い能力だね。確かに女性では珍しいが、気味悪がるようなものではないだろうに。アンジェリカは実家で苦労したんだね」
ローランのごつごつした手が私の頭をなでる。
私を傷つけないように、力をかなり加減して撫でているのが分かる。
やっぱり、この人は優しい人だ。
だからこそ、私の魔法について詳しく話すべきだとも思うし、その一方で詳しく話して気味悪がられたらどうしよう、という思いもある。
多分、私は周りが思っている以上にローランに惹かれている。
彼のすべてをあますことなく愛している、という程ではないが、彼に良く思われたいという気持ちには偽りはない。
でも、今はまだ彼に全て打ち明ける覚悟はできていない。
私はローランに優しく撫でられながら、屋敷へと戻った。
◇
それから数日後、私は街に買い物に出かけることにした。
「本当に、一人で大丈夫かい?」
「ええ、使用人も同行してくれますもの。それに私もジェラール家の者ですわ。自分の家の領地で買い物くらい、どうってことありませんわ」
ローランは心配そうにブヒブヒ言っているが、私だって大人だ。買い物くらい一人で問題ない。それに使用人も同行してくれるので、不慣れな道でも大丈夫だろう。
「本当は僕も一緒に行きたいのだけれど、今日はどうしても書類仕事が溜まっていてね。じゃあ、気を付けて行ってくるんだよ」
普段、ローランやソフィは商人に屋敷まで来てもらって買い物をするらしいが、私はこの屋敷の眼下に広がる街をすみずみまで見て回りたいのだ。
これから自分が生きていく場所について、もっとよく知りたい。
初めてここに来た時からは考えられないほどに、私はこれからの生活に前向きだった。
街までは馬車で向かう。初めてここを通った時と同じように、今日も街は活気で溢れている。
私は使用人を馬車で待たせ、人気があるというパティスリーに向かった。
実は今日の買い物の目当ては、ローランの好きなクッキーを買うことにある。
彼が好んでいるというクッキーを扱う店がどんなものか、私はずっと気になっていた。他にどんな商品があるのだろう、どんな店構えなのだろう、そして彼がオークの姿になる前はここで気になる令嬢へのプレゼントを買ったりしていたのだろうか……。
ううん、考えるのはヤメヤメ! ローランの昔の彼女(いるのか知らないが)に焼きもちを焼いているみたいじゃない。
私はあくまでも妻として、夫の好みを深くリサーチしたいだけ。決してそこに下心などない!
頭の中で悶々と考え事をしているうちにパティスリーに着いた。
店の敷地と通りを仕切るように小ぶりの鉢植えが並び、店のすぐ外にはいくつかテラス席がある。
「今日は天気もいいし、ここでお茶をするのもいいわね」
私は店の前をぐるりと見渡した。店先のテラスには、楽し気にお茶をする客でにぎわっている。
私はクッキーを買う前に、テラス席で一休みすることにした。
店の前にも砂糖の甘い香りとバターの芳醇な香りが漂っていて、ここに座っているだけで幸せな気持ちになる。
それからしばらくして、店員によって運ばれてきた紅茶に口をつけていると、横のテーブルの客の会話が聞こえてきた。
客は若い女と中年の女だが、親子といった雰囲気ではない。
一体どういう関係なのだろうか。
私は自然と聞き耳を立てた。
「——それで、レア様の意中のお相手はどんな様子なんです?」
そう尋ねたのは中年の女だ。ジャラジャラと大量のネックレスや指輪をつけて、髪は黒いレースで覆われている。占い師か何かだろうか?
「それが、あの邪魔な女と婚約解消したものの、アルマン様ったら私のお誘いにはちっとも乗ってくださらないのです。アルマン様は家族に大反対されてもなお、まだあの女が忘れられないようですわ」
アルマン……どこかで聞いた名前だわ。どこだっけ?
占い師の女が大げさに眉を下げて言う。
「まあレア様、おかわいそうに! でも、アルマン様とやらが元婚約者とヨリを戻すなんてありえません。だって元婚約者の兄は、わたくしが豚に変えてしまったのですから」
占い師がそういうと、二人は肩を震わせてくすくすと笑った。
……ん? 豚に変えてしまった?
「豚の兄をもつ女と結婚する者などおりません。あともう一押しですわ。そのもう一押しが欲しいのなら……わたくしがお手伝いしないこともありません。ただし、わたくしも生活がございますゆえ、タダという訳には……」
「そうねぇ。もう一度お願いしようかしら。もちろん謝礼はお支払いしますわ」
横の客同士で何やら怪しげな商談がまとまりつつある中で、私の脳内では点と点が繋がりかけていた。
アルマンって、ソフィの元婚約者の名前じゃなかったっけ?
それから「豚に変えた」って何かの比喩じゃなくて、ローランをオークに変えたことじゃないの!?
もしかして、ローランがオークになったのって、いま横にいるこの二人のせい!?
私はすぐさまこの場で立ち上がり、二人を問い詰めたい気持ちでいっぱいだった。
けれど、この二人がローランを苦しめた犯人であるという確証はない。
紅茶のカップを持つ手に力が入る。
どうすればいい? 私はローランの妻としてどうするべき?
その時、占い師の女が言った。
「それでは、あなたの恋路を邪魔するアルマン様の元婚約者も豚に変えてしまいましょうか? それならばアルマン様も未練を断ち切れるでしょう。オークになる奇病があの館で流行っているという噂も一緒に流せば、あの目障りな一族ごと葬ることができるかもしれません。ええ、実は私の夫はあの若き伯爵に融資を断られたせいで仕事が立ち行かなくなってしまったのです。あの家には恨みがあります。あの忌々しい伯爵家を、共に地獄に落とそうではありませんか」
「そんなの絶対にだめ!」
占い師のとんでもない話を聞いた私は、いてもたってもいられず、その場で反射的に立ち上がって大声を出してしまった。
私が急に立ち上がったせいで椅子はガタンと倒れ、更にテーブルの上からカップが床に転がり落ちてガシャンと割れた。
周囲の客は、散らばったカップの破片と私を交互に見て目を丸くしている。
占い師とその客であるレアという令嬢が私を怪訝な目で見る。
「なんなのですか、あなたは。盗み聞きなど下品ですわよ」
「下品で悪かったわね! でも、これ以上ジェラール伯爵家の人々を苦しめることは許しません」
私が占い師を睨みつけると、彼女はこちらをあざ笑うかのように目を細めた。
「ジェラール伯爵家? なんの話でしょう?」
「あなたたちの悪だくみは全て聞きました。ローラン様をオークに変えてしまったのは、あなたなんでしょう!?」
「はて、なんのことやら?」
占い師は大げさに首をすくめて見せた。
この女、しらばっくれるつもりね!?
私は周囲の客の視線が自分たちに一心に注がれるのを感じながら、占い師を問い詰めた。
「あなた達は、ジェラール伯爵の妹から婚約者のアルマン様を奪うために、ローラン様をオークに変えて伯爵家の評判を落としたのです。でも、そのレアという令嬢はアルマン様の心を射止められなかった。だから今度はソフィをオークに変えるつもりなのでしょう!?」
「まあ、なんという言いがかりでしょうか? 何の証拠もないのに、こんな大勢の人の前で無実の罪を着せられるとは!」
占い師は周囲の人に聞こえるように大声で言うと、おおげさに泣きまねをし始めた。
どこまでもしらばっくれるつもりのようだ。
私達の言い合いに気づいた周囲の客たちは「あれ、最近嫁いできたジェラール伯爵夫人じゃない?」とコソコソと話始めた。
それが耳に入ったらしい占い師は泣きまねをやめ、ちらりとこちらを見る。
「ほう、あなたがジェラール伯爵夫人ですか」
「そうよ。夫や義理の妹に対する横暴は許しません。今すぐローラン様にかけた身体変化の呪いを解きなさい。そして彼に謝罪するのです」
「やってもいないことを謝罪するなど、できませんわ」
占い師はそう言うと、私にしか見えないくらい小さく舌を出した。
やっぱりこの女が犯人で間違いないじゃない!
私達が睨み合っていると、そこに騒ぎを聞きつけた騎士団の人間が二人やってきた。ローランと領地を回っている時に顔見知りになったドニとバジルだ。
伯爵夫人が騒動を起こしていると通報があったのかもしれない。
ドニが私に声をかけた。
「ジェラール伯爵夫人、少し騒ぎになっていると聞きましたが、一体——」
そこまで言うと、ドニはハッと息を飲んだ。
「伯爵夫人、おさがり下さい! この女は騎士団で指名手配されている魔術師です。色々な街を転々とし、貴族相手に騒動を何度も起こしているアデリーナという女です!」
なんと、目の前の女は占い師ではなく、魔術師だったらしい。
うん、どうも見た目からして怪しいと思ってた。
でも騎士団から指名手配されるって、もしや私の想像よりかなり厄介な相手かも?
「アデリーナ! 貴様は他領でも貴族に呪いをかけ、死に追いやったそうじゃないか! 見つけ次第捕まえるようにと国からお達しがきている。我々と一緒に来てもらうぞ!」
「フン、嫌だね」
アデリーナは口の端を歪めた。
「ならば、力づくで捕まえるまで!」
ドニが威勢よく剣を構えると同時に、アデリーナは横にいたレアの首に腕を回し、彼女を盾にするようにした。
「私に攻撃すれば、このお嬢さんに当たってしまうよ。それでもいいのかい?」
ドニとバジルが唇を噛むのが見えた。
アデリーナはレアを盾にしたまま、ブツブツと呪文を唱えた。すると、何もない地面から急に何体ものゴーレムが這い出てきた。
ゴーレムは成人男性くらいの大きさで、ドニとバジルにずんずんと近づいてくる。
ゴーレムがふりあげた腕がその辺にあったテーブルに当たると、テーブルが粉々に砕けてしまった。
それを見た周囲の客が一斉に逃げ出す。
パティスリーの店先では、5体ほどのゴーレムと騎士団の二人が睨み合っている。
バジルは応援を要請するように、頭上に向かって剣をかかげ、そこから救難信号のような光を出した。
少し待てば騎士団の援軍が到着するだろうが、それまでにアデリーナに逃げられない保証はない。
なんとかここで捕まえて、ローランにかけた呪いを解いてほしい。そうすれば、ローランもソフィも幸せになれるはずだ。
実家で冷遇された私が人生に前向きになれたのは、ジェラール家で温かく迎えてくれた二人のおかげなのだ。
ここで私が魔法を使えば、きっとアデリーナを捕まえることができる。
でもここで魔法を使ったら、私はどうなる……?
実家の家族や使用人に散々気味悪がられたこの魔法を使って、私はこれからもジェラール家の人間としてやっていけるのか?
領民に気味悪がられないか? ソフィや、何よりもローランに嫌われないか?
私が覚悟を決められずにいると、ゴーレムと戦っていたドニとバジルが後方へ弾き飛ばされた。ゴーレムの剛腕にやられたらしい。
「騎士団も大したことないねぇ」
アデリーナはそう言って目を細める。彼女はレアを盾にしたまま徐々に後ずさっている。このまま逃げるつもりだろうが、そうはさせない!
例え皆に気味悪がられても、私はローランの呪いを解きたい。ソフィにも幸せになってもらいたい。二人の幸せなくして、私は今後の人生で幸せになどなれない。
「アデリーナ、逃がさないわよ! 身体強化!」
私が魔法を発動すると、私の金髪は蛇のようにぐねぐねとうねり出し、驚くほど長く伸びてその辺で腕を振り回していたゴーレムをあっという間に縛り上げた。
「な、なに!? 髪の毛が伸びるですって!?」
「身体強化魔法の一種よ。どういう訳か、私は全身の筋肉を強化することはできないのだけれど……髪の毛だけなら鞭のようにしなやかに、鋼のように強く、矢のように素早く動かすことができるの! アデリーナ、観念なさい!」
アデリーナは舌打ちをすると、レアをどんっと突き放して逃げ出した。
途中でいくつも攻撃魔法を放ってきたので、私の髪の毛はブチブチと束になって切れた。けれど魔法を発動しているおかげで、切れた髪の毛もすぐに元通りに伸びる。
悪人なんかに負けない!
私の髪の毛はアデリーナに追いつくと、あっという間に彼女を縛り上げた。
しばらく私の髪の中でもがいていたアデリーナは諦めたように動かなくなる。
これで一件落着——と思いきや。
「クソッ。ここで捕まる訳にはいかないんだよ。周囲の人間ごと髪を焼き払ってやる!」
鬼の形相のアデリーナはブツブツと呪文を唱えると、次の瞬間、彼女を縛っていた私の髪の毛に火が付いた。
火は驚くべきスピードで髪の毛全体に燃え広がり、私の方へと炎が迫ってくる。
アデリーナから髪の毛を離さなければ、私は焼け死んでしまう。
けれど、ここであの女を逃がす訳にはいかない。騎士団の援軍よ、早く到着して!
その時、突然頭上からざあっと雨が降った。
先ほどまで晴れていたのにどうして?
辺りを見回すと、そこには屋敷にいるはずのローランがいた。
これは雨じゃない、ローランの放った水魔法だ!
ローランの水魔法はあっという間に周囲の炎を消し去ると、水を檻の形にして、そのままアデリーナを閉じこめてしまった。
「ローラン様!? どうしてここに?」
私が口をあんぐりと開けて尋ねると、ローランはブヒブヒ言いながら頭を掻いた。
「屋敷で仕事をしていたんだけど、やっぱり君のことが気になって、様子を見に来たんだ。そしたら君が知らない女性と大乱闘を繰り広げていたんだ。一体、これはどういうことだい?」
◇
ローランが到着してほどなく、騎士団の援軍も到着した。
アデリーナは無事捕まり、両脇を騎士団に固められてトボトボと歩いて行く。
これで、そう遠くない未来にローランの姿も元に戻るだろう。
私がホッと息を吐くと、ローランが私の顔をのぞきこんだ。
「アンジェリカ! 一体何があったんだい?」
私はカフェでの一部始終を話した。
ローランはアデリーナに見覚えはないらしいが、怪しい男に融資を断った話は覚えているという。おそらくそれがアデリーナの夫であろう。
「ローラン様、アデリーナが捕まったということは、あなたの身体変化の呪いもきっと解けることでしょう。そうすればローラン様は元に戻れて、もしかするとソフィの婚約も再度まとまるかもしれません! アルマン様はまだソフィのことが忘れられないとかで、もし二人がうまくいけば——」
「ブヒヒ、アンジェリカ、落ち着いて。君が喜んでいるのはよく分かった。僕とソフィのために力を尽くしてくれたんだろう? 本当にありがとう。でも君の髪が——」
ローランに言われて、私はハッとした。
ずっと隠していたのに、私の魔法について彼にバレてしまった。
身体強化魔法といえど、髪だけが伸びて強度もあがる魔法など、他では聞いたことがない。気味悪がられるに決まっている。
ああ、彼に気味悪がられたら、私はこれからどうすればいいのだろう。
しかし、ローランの反応は意外なものだった。
「君の美しい髪がアデリーナに焼かれてしまうなんて、僕は残念でならない! アンジェリカ、痛くなかったかい? 苦しくなかったかい?」
ローランのゴツゴツした手が私の髪を撫でる。
私の髪は焼けてバサバサになったままだ。もう一度魔法を発動させればある程度元に戻るはずだが。
「ローラン様、気持ち悪くないんですか? こんなにも髪が伸びたり、相手を縛り上げるような奇妙な魔法を使う妻なんて、気持ちが悪いでしょう?」
私が尋ねると、ローランはブヒッと噴き出した。
「気持ち悪いだなんて、とんでもない! 僕の見た目以上に気味が悪いものなんてないよ。それに君の魔法は素晴らしいじゃないか。自分の身を守れて、使い方によっては周りのことも守れる。伯爵夫人にふさわしい力だと僕は思うよ」
ローランにそう言われて、すっかり安心した私はへなへなとその場に座りこんでしまった。それを見たローランは私が疲れ切ったのだと解釈し、私をひょいとお姫様抱っこした。
本当は魔法を見せてもローランに嫌われなかったことに安堵して力が抜けたのだが、本当のことを説明するのはなんだか恥ずかしい。
私は黙って抱っこされたまま、ローランの胸にコテンと頭を預けた。
◇
アデリーナとの騒動の翌日、騎士団に引っ立てられて屋敷に来たアデリーナによって、ローランにかけられた呪いは解かれた。
アデリーナが解呪の呪文を唱えると、ローランのはちきれそうだった体はみるみる細くなり、豚のようだった顔は人間のものへと戻った。
それを見守っていたソフィや屋敷の使用人はわっと歓喜の声をあげながらローランに駆け寄っていったが、私はそれを一歩下がってみていた。
だって、私にとってはオークの男こそがローランで、目の前にいる整った顔立ちの青年のことはよく知らないからだ。
確かに、ソフィとよく似た顔立ちで目鼻立ちがクッキリしており、赤毛で少し癖のある髪はオーク時代に頭頂部にほんわりと生えていた髪の毛を連想させる。
「アンジェリカ」
ローランがこちらへと手を伸ばす。
その手にはもう長い爪もないし、手の皮膚もゴツゴツとしていない。
こんなに素敵な人の手を取っていいのだろうか、と私がモジモジしていると、ローランが私の手をグイと引っ張った。
不意に抱き寄せられたせいでバランスを崩し、私はローランに抱き着くような形になってしまった。
今までハグすらしたことがなかったせいで、急な接触に私の心臓はドキドキと飛び跳ねる。
「わあ! ローラン様、申し訳ありません。私、バランスを崩してしまって……」
「いいんだ。僕はずっとこうしたかった。ずっと、アンジェリカを抱きしめてみたかったんだよ」
ローランがにっこりと微笑む。
それを見たソフィや使用人は、ニヤニヤとした表情のまま後ろへ下がり、皆部屋から出て行ってしまった。
やめて! 人間に戻ったばっかりのローラン様と二人きりはちょっと恥ずかしいから、誰か残って!
そう思ったが、部屋には私とローランの二人きりになってしまった。
騎士団に引っ立てられ、アデリーナも部屋の外へすごすごと出て行く。
これからは他領で犯した罪についても、詳しく取り調べを受けるらしい。また、アデリーナを使ってジェラール伯爵に呪いをかけた罪で、レアも投獄されている。
二人にはしっかりと罪を償ってほしいと思う。
他に誰もいなくなった部屋で、ローランは先ほど以上にぎゅっと私を抱きしめた。
「ここに嫁いできてくれたのが君で本当に良かった。改めて、僕と夫婦になってくれるかい?」
「もちろんですわ」
私達はお互いの目を見て微笑みあう。
改めて見ると、ローランの瞳は深い赤色で、とても綺麗だ。
「そうだ、まだ挙げていなかった結婚式も急いであげないと! アンジェリカが花嫁姿でオークの横に並ぶのは気の毒だろうと思って先送りにしていたけれど、今なら構わないよね?」
「ええ、でもソフィの方が先に結婚式を挙げるかもしれませんわね」
私は窓の外を指さした。屋敷の玄関の前には、見慣れない馬車から精悍な顔立ちの青年が急いで降りてくる。そこにソフィが駆け寄っていくのが見えた。
きっとあの青年は、ソフィの元婚約者だ。
ローランも元の姿に戻り、ソフィの恋も再び成就することだろう。
「結婚式続きで、忙しくなりそうですわね」
私が言うと、ローランはニッコリ微笑んで、もう一度私を強く抱きしめた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
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