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迷子の子

「おいそこの図書館員、館長を呼んでくれ。アルビオン・スチュワードが来たと」

  確か朝、館長に言われていたお客様だ。イケメンの偉い貴族が来るとジェミニが喜んでいた。

「アルビオン・スチュワード伯爵様ですね。確かに確認させていただきました。応接間にご案内致します」

  ここ帝国一の図書館、グローリア図書館。本の種類に数、面積、来客数、全てにおいて帝国一を誇る。

「こちらでお待ちください」

  スチュワード伯爵様なら、ちょっといい茶葉出さないとダメだよね。来客用の茶菓子を出し、館長を呼びに行った。

「館長、予約されていたスチュワード伯爵様が起こしになりました」

「おや、もうそんな時間か。ありがとう、セルウィー」

  館長はスチュワード伯爵様のとこに行き、私は元の仕事に戻ることにした。まだ、返却された本を戻し終わってないんだよね。来客数が多すぎて、返却される本がその3倍はある。手早くやらないと一日が丸潰れになってしまう。

「セルウィー!スチュワード伯爵様が来たってほんと?私が案内したかったのにー!」

「ごめんごめん、お帰りになるときはジェミニにお願いするよ」

「もちろんよ」

  200冊は乗る大きなワゴンを引きながらジェミニの話を聞く。内容は、主に恋バナ。お客に随分とイケメンな騎士様が来たそうだ。騎士様なのに、本を読む知的な姿に見惚れてしまったそうだ。

「あーあ、お名前くらいお聞きすればよかった。今からでも探そうかな?!」

「やめときなよ。この前のこと、まだ反省してないの?」

「そ、それはー……ね?前に進むことも大切でしょ?」

 恋多き乙女過ぎて、クズ男や借金持ち、没落貴族etc……。色んな男に引っかかってしまってる。今度の恋は幸せよ!と豪言していたのに1ヶ月後には涙で顔がぐしゃぐしゃになっている。慰めるこっちの身にもなって欲しい。

「2人とも、お喋りが弾んでいる割には仕事は弾んでないのね」

「「オルクスさん……」」

 司書補のオルクスさん。あの鋭い目で睨まれると心臓がヒュッとなってしまう。

「返却された本がまだ5000はあるのよ?そんな仕事ぶりで今日中に終わるのかしらね」

「すみません、オルクスさん。早急に終わらせます」

  ふん、とコツコツと靴を鳴らして去っていった。

  まだ5000冊もあるのか。今日の図書館員は10人のみ。道は長いな。

  面積に本の数は帝国一の癖に職員の数はそこらの図書館と変わらない。給料が良く世間体も良いからと就職するものの、この超絶ブラックぶりに耐えられず辞めていく人は多い。図書館員は基本、配架に書架整理をする。一番下っ端だから、こんな肉体労働で面倒な仕事をこなすしかない。

「あーあ、司書さんたちはいいよね。カウンターに座ってるだけなんでしょ?楽よね、ほんと」

「ちょっと、大声でそんなこと言わないでよ。誰に聞かれてるか……」

「ふんっ、どうでもいいわ」

「もう、ジェミニ」

  オルクスさんのことが嫌いなジェミニはへそを曲げてしまい、一人でずんずん進んでしまった。

  私も自分の仕事をしようと黙々と作業を続けた。

「この本は、禁書庫の……。どうしてここに混じっているの?」

  禁書庫には、闇の魔術や貴族の家系図などが保管されている。館長か司書長のみが立ち入れる。配架をするのも司書長のみ。どうしてこのワゴンに入っているの?

  タイトルはファンクス家の家系図。ファンクス家と言えば侯爵家じゃないか。

「ちょっとくらい、いいよね?」

  貴族様の家系図は、闇が深いと聞く。婚外子や養子、隠し子が多く、ゴシップ記事では大々的に載る。そんなゴシップネタが私は大好きだ。まぁ、だから、ジェミニの恋バナに付き合っていられるのだが。

「何をしているの、セルウィー」

  突然に後ろから話しかけられた。反射的に振り返るとクラヴィスだった。やばい、見られたかも。

「ク、クラヴィス、別になにもしてないよ」

「ふーん、テラさんが禁書庫の本が一冊ないと騒いでいるの。知らない?」

「あ、あー、これじゃない?」

「そう、これよ。助かったわ、セルウィー」

  ふぅ、と安堵の息を漏らした。同じ図書館員なのにどこか違うクラヴィス。他の図書館員との仲はあまり良くないし、気味悪がっている。もちろん、私もだ。

 




 ✥✥✥✥✥✥✥





「クラヴィス、発注した本が届いたの。お願いね」

「わかりました、テラさん」

  本に印刷ミスが無いか確認し、図書館の名前をハンコで押し、分類番号を付ける。

  一通り終わり、分類番号に従って配架していく。

 ワゴンを押しながら、歩いていると本が落ちる音がした。ワゴンを置いていき、音のするほうに早歩きで向かう。

「お客様、お怪我はございませんか?」

  お客様は、小さな男の子でお貴族様だった。

「僕に触るな、平民が!」

  「……申し訳ございません」

  本を拾おうとしただけだったが、良くなかったみたいだ。

「お前、僕のメイドを見なかったか?迷子になりやがった」

「そうですか。でしたら、館内放送をいたしましょうか」

「そ、それならいい!もういい、下がれ!」

「かしこまりました」

  きっと、迷子でいる自分が恥ずかしいんだろう。しかし、このだだっ広いこの館内で人探しは至難の業。図書館だから、大声で探すだなんて無作法なことはできない。

「おーい、マーリー!!どこにいるんだー!」

「お、お客様ぁ〜」

  さすが、貴族のご子息。やることが大胆だ。これじゃ館内放送のほうがマシじゃないか。

「館内で、大声でのお喋りは控えてください。他のお客様のご迷惑になりますので」

  急いであの口を止めに行くが、睨まれてしまった。

「平民風情が僕に命令するのか?!何様のつもりだ、お父様に言いつけてやる!!」

「命令だなんて、滅相もございません。この、グローリア図書館のルールでありマナーでございます」

  貴族は、小さい頃から威厳と風格を保つ為にマナーを徹底的に教えこまれる。そのせいか、マナーに敏感だ。

「……じゃ、どうやって探すんだ」

「私共で、探させていただきます。その間、応接間でお待ちください」

「ふん、分かった。すぐに見つけろよ」

「承知しました。姿の特徴を教えてください」

「赤髪で今日は三つ編みだ。そばかすがある。背はお前より高い。眼は二重の焦げ茶だ。後は……」

「十分な情報提供、感謝します。では、応接間にご案内致します」

  一番速い方法は館内放送だが、貴族様が……いや、お客様が嫌がるのでできない。館内にいる図書館員10人で探すしかない。

  一度本部に戻り、全員に知らせるか。

  置いてきぼりにしていたワゴンを取りに戻り、メイドを探す。

「テラさん、ご子息様のお付のメイドを探しております。館内放送で図書館員を全員呼び戻していただけませんか」

「?それなら、その人を呼んだ方が早いじゃない」

「それが、ご子息様が嫌がっておりまして」

「はぁ、それはまた面倒な話ね」

  ただえさえで、皆処理しきれないくらいの仕事量で手がいっぱいだ。ため息が出てしまうのは仕方ない。

 ____ピンポーンパーンポーン

『図書館員ステラ、館長がお呼びです。至急に本部に戻りなさい』

 “図書館員ステラ”というのは隠語で図書館員全員集合という意味だ。10分後には10人全員揃った。

「テラさん、どうしたんですか」

「どうやら、ご子息が侍女を探しているみたいなの。皆で手分けして探すわよ」

「人探しなら、館内放送で呼べばいいじゃないですか。そんな手をかけるなんて」

「そうですよ、私たちだって仕事で手がいっぱいいっぱいなんですよ!」

  「これも仕事のうちよ。つべこべ言わずに探しなさい。セルフィー、ジェミニ、クラヴィス、リリー、イドラは2階を。その他は1階よ。クラヴィス、メイドの特徴は?」

「焦げ茶の目に三つ編みの赤毛。背丈は160cmくらい。そばかすがあります」

「さぁ、仕事よ急ぎなさい」

  ここまで司書長であるテラさんに言われて逆らえるはずもなく皆、早歩きで向かった。

  たった10人で1人を見つけるのは、思ったより時間がかかる。

「サフィラス様〜、どこですか〜」

  向こう側の棚から女性の声がした。誰かを探しているようだ。もしかしたら侍女かもしれない。

「お客様、ご子息様をお探しですか?」

「え、あ、はい!7歳くらいの金髪の子で」

  あの男の子だろう。彼女も特徴が一致している。ご子息様が迷子になったせいで、侍女は涙目になっている。お守りは大変だな。

「ご子息様でしたら、応接間でお待ちいただいております」

  応接間で待っているご子息の元に侍女を連れていき、無事事なきを得た。

「マリ!どこに行ってたんだ、迷子になるなんて!!」

「申し訳ございません、坊っちゃま」

  口は乱暴で横暴だが、この子なりにこの侍女を好いているようだ。彼女もそれを分かっているのか、縮こまるどころかニコニコと微笑んでいる。

「帰るぞ、マリ。夕飯の時間に遅れるじゃないか」

「そうですね、お坊ちゃま」











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