表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泡沫のフォス  作者: アリスノア
0章:少年期
3/12

002:先生と使用人

 僕の名前はフォシエル・シュミット。魔人だ。

 2年前に金級鍛冶師ブラハ・シュミットに養子として迎え入れられ、シュミット家令嬢サラ・シュミットの弟として過ごしている。


 この家に来た時のことは鮮明に覚えている。

 裏手にある川で発見され、サラによってこの家に運び込まれた。


 生まれたばかりの魔人というのは危険な存在らしく、ブラハ師匠は僕を魔人育成機関へ収監しようとした。当然の対応で、何も悪いことなどない。

 しかし、そこへサラが待ったをかけた。弟として迎えると騒ぎ始めたのだ。

 ブラハ師匠、そしてブラハ担当騎士であるガラド・エリオプロスがふたり掛かりで説得を行ったが、途中でブラハ師匠がサラの味方に回り、ガラドが折れる形で僕の養子縁組が決定した。

 ガラドは泣いていた。


 その後ガラドの奔走が始まった。

 大臣や宰相へ特別魔人保護の認可を取り、認可を与える代わりに使用人をひとり派遣させろと宰相からの条件をブラド師匠に認めさせ、魔人育成機関から教師を派遣してもらえるように頼み込み、使用人と教師用の簡易宿舎を用意し、来年度7歳になるサラの小学校入学手続きをし…。


 可哀そうだ。ありがとうガラド。


 あの時のサラ、かっこよかったなぁ。

 当時は言葉が分からなくて雰囲気で守ってくれていることだけ理解していたけど、実際に「守りたい」みたいなことを言っていた気がする。多分。

 いつか恩を返したいと強く思う。


 魔人育成機関へ収監されても、現代では魔人の人権は保障されているため酷い扱いがされるとか、そんなことは無かっただろう。

 しかし、こんなに自由で心地よい生活も無かったのではないかと思う。

 サラとブラハ師匠には感謝してもしきれない。あとガラドにも。


 今の僕は一般教養や道徳を学ぶ傍ら、ブラハ師匠から鍛治を学んでいる。

 武器や防具や装飾品、そのうち家庭で使う魔道具なんかも造り方を教えてくれるらしい。


 この家に来て1ヶ月程、僕はブラハ師匠とガラドの監視下での生活を強制された。

 ご飯を食べるにも、トイレに行くにも、お風呂に行くにも、何をするにもブラハ師匠かガラドがついてまわった。

 そもそも最初は全部知らなかったので、教育的な意味が大きかったのかもしれない。


 そんな日々で、ブラハ師匠の仕事中は鍛冶場に置かれることが多かった。

 元々サラの育児のために監視環境が整っていたというのが主な理由だろう。


 鍛冶場の隅の硝子で囲われたスペースで、ブラハ師匠の鍛治仕事をずっと見ていた。

 見て、観て、視て、魅せられていた。


 なんでもない鉄塊が、剣にも、槍にも、鎧にも、果ては鍋にもなる。

 ブラハ師匠が造る作品はどれもとても綺麗で、その工程は素晴らしく芸術的だった。

 のちにブラハ師匠が世界的に有名な鍛冶師だと知って、この上なく納得した。


 自分も何かを造りたいと、初めて欲が湧いた。


 師匠の造る金物は無骨なデザインが多い。

 それでも「不朽の鍛冶師」ブラハ・シュミットの作品は世界中にファンが存在し、現在の鍛冶師の指標となっている。


 剣であれば、刃こぼれせず、良く斬れ、振りやすく。

 鎧であれば、壊れず、動きやすく。

 金級鍛冶師としては些かシンプルな造りかもしれない。

 だが、極限まで「必要」を追求し、「不要」を削ぎ落とす。そこには最上の美しさがあった。


 彼の造る作品はどんな有名鍛冶師が造った作品よりも壊れにくい。


 ゆえに、不朽。

 孫子の代まで使える金物を造る鍛冶師。


 そんな最高峰の鍛冶師が師匠になってくれた理由は、イマイチ解らない。

 言語を学び始めて半年、会話が問題なくできるようになった頃に突然「明日から鍛冶を教える」と言われた。


 ずっとやってみたいと思っていたことだったので願ってもないと喜びはしたものの、どうして師匠は鍛冶を教えてくれる気になったのだろう。わからない。


 そのうち訊いてみるのもいいかもしれない。

 答えてくれるかは別として。


 一般教養と鍛冶を学びながら過ごし、この家での生活も2年が経った。

 今日は「スキルについて」の授業だ。


「えー、スキルとは、3つの種類に分類されます。」


 教育用に建てられたプレハブ小屋の中。

 2年前に魔人育成機関から派遣されてきた教師、マルコス・アンドレウが長く蓄えたひげを撫でながら話す。


 出会った際にはやたら手触りのよさそうなひげに触って引っ張ってしまったりしまったものだ。ゴメンナサイ。

 にこやかに笑って許してくださった。好々爺だ。


「はいはいはいはい!!」

「はい、サラくん」


 今日は土曜日。

 小学校2年生になったサラだが、本人の希望で休みの日は僕と一緒に授業を受けている。


「補助と、魔技と、えーっと、けんのう!」

「正解。学校でも頑張っているようじゃな。」

「やったー!」


 サラがどや顔でこちらを見ている。


「補助スキルとは、動作制御のスキル。剣術や弓術、料理術なんかのスキルもある。

 同じ動作を何度も繰り返すことによって習得、スキルレベル上昇ができる。

 フォシエルはブラハ金級鍛冶師から鍛冶を学んでおるな?」

「はい。でも…」

「スキルは習得できていないじゃろ?」

「たぶん、できてません」


 マルコス先生は大きく頷いた。


「魔人はな、補助スキルを習得できないんじゃよ。

地球に元々住んでいた原住民である人間。

 人間に逸話の力が入り込んで生まれてくる変異種、幻人。

 知性のある魔物、魔人。

 この中で補助スキルを習得できるのは人間と幻人だけじゃ。」


 …ということは、僕は鍛冶がうまくなれないのでは?

 魔人というだけで結構な損をしている気分になる。

 師匠はどうして僕を弟子にしてくれたのだろう。


 何故?という顔をしていると、マルコス先生は授業を続ける。


「いいかねフォシエルくん。職業に就くために、補助スキルは必須ではないんじゃ。勿論あれば便利だがね。

 魔人が補助スキルを覚えられないのは、世界摂理によるパワーバランスの調整だと言われておる。」


 そう話しながら、マルコス先生は魔導黒板へデータを表示させる。


 魔導黒板は教育の場から会議の場まで幅広く用いられる魔道具で、脳内に思い描いた図や文章をチョーク型の杖を通じて描写してくれる優れものだ。

 チョークと黒板を接触させるだけで理論上は使用可能だが、特許保持者のこだわりでチョークを強めに打ち付けないと使えないように設定しているらしい。

 その影響で授業中はカッカッとチョークで黒板を打つ音が鳴り続けている。


 黒板に表示されているデータは種族ごとの寿命・ステータス・スキルレベルがまとめられたものだった。


「寿命は魔人、幻人、人間の順に短くなる。

 ステータスに於いては魔人が生まれたときから抜きんでている。

 スキルレベルの上昇速度は人間がピカイチじゃ」


 そこまで進んだところで、隣からすぴーと寝息が聞こえた。

 どうやらサラが寝てしまったらしい。


「…つまりじゃ。

 人間は短命で早熟、魔人は長命で晩成。幻人はバランス型と言ったところかのう。

 補助スキルはより正しく槌を振る手助けをしてくれるが、永く努力しさえすればそれと同等の技術を身につけることもできる。

 ブラハ金級鍛冶師は、上達の速さなんかよりも大事なものをフォシエルくんの中に見つけたんじゃろうて。」


 マルコス先生はフォッフォッと笑うと、今日の授業はここまでと締め退室する。

 わかったような、イマイチピンと来ないような。


 うんうんと考えていると、マルコス先生と入れ違いですらりと背の高いメイド服姿のおっとりした栗毛の女性が入室する。


「お嬢さま~ぼっちゃん~お昼ができてますよ~」

「ソフィアさんごめんなさい、サラねてます」

「あらあら~」


 ソフィア・メルクーリ。

 国が派遣した使用人で、家事全般は彼女が請け負ってくれている。

 ガラド曰く、サラとブラハ師匠の護衛も兼ねているらしい。


 いつもほのぼのとした笑顔を浮かべ、もはや糸目がデフォルトになっている。

 こんなにもおっとりしたひとに護衛が務まるのかと疑問に思っていた。()()()()()()


 ソフィアがあらあら~と言いながら軽くひょいとサラを持ち上げ、片腕に座らせるような形で抱っこする。

 あの体勢って8歳になる子供を持つときにも使えるものなんですね。初めて知りました。


 ある日の早朝、家の裏手の森に魔物が出現したことがあった。


 鉄級下位の狼型の魔物で、「土塊の狼(ダートヴォルフ)」という。

 微弱な土魔法を使用できる狼で、身体を地面にこすりつけて体毛に砂を付着させ、土魔法で押し固めることによって土塊の鎧を作るという生態をしている。


 森は魔力が滞留し魔物が発生しやすい。

 しかし、このシュミレット邸はそこまで森の深くにあるわけでもないので、出現する魔物は下位級のみだ。


 ましてや家の周りには結界が張ってあり、人族以外は侵入ができない。

 この土塊の狼(ダートヴォルフ)も例に漏れず結界に衝突し、大音量で吠えているだけだった。


 というのをマルコス先生から聞いていた時に、宿舎から寝起きで機嫌の悪いソフィアがゆらりと出てきた。

 鳴き声に起こされたようで、ぼさぼさの髪で寝間着姿のままだった。


 彼女の顔にはいつもの朗らか笑顔は無く、手には小さな果物ナイフ。

 確かそろそろ新しいものを買う予定だとか言っていたっけ。


 そんなことを思っていると、ソフィアがナイフを振りかぶって…投げた。

 その瞬間僕は、人の腕は全力で振るとパァンッという高音と共に音速を超えることを初めて知った。


 ナイフは光を反射しながらビームのように一直線に狼の眉間を捉え、()()()

 狼はキャンッという断末魔を上げ、ぱたりとその場に倒れ伏す。


 土塊の狼(ダートヴォルフ)の土鎧は当然頭部も覆っている。

 この鎧、最低ランクの魔物とは言え猟銃の射撃は罅割れながらも弾ける程度の耐久性はある。

 それを眉間と後頭部の2枚抜き。いや、頭蓋骨も貫通させている。


 ソフィアはそのまま宿舎に帰っていった。二度寝でもしに行ったのだろうか。


 ナニアレコワイ。サカラワナイ、ゼッタイ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ