トンネル
ある日、通勤途中のサラリーマン、武田は、電車の長いトンネルで異変に気づいた。
電車がトンネルに入った瞬間、車内アナウンスがこう言ったのだ。
「ご乗車ありがとうございます。ただいま列車はトンネルの中を走行中です。出口まであと……197分です。」
「いや長っ!」武田は思わず声を上げた。
すると隣の乗客がうなずいて、「このトンネル、毎日伸びてるらしいですよ。」と真顔で答える。
やがて車内販売が来た。だが売っているのは「非常用の懐中電灯」と「非常食のカロリーメイト」だけ。
「コーヒーはありませんか?」と武田が聞くと、販売員はにっこり笑って言った。
「すみません、トンネル限定メニューです。」
さらに進むと、再び車内放送がかかる。
「右手をご覧ください、ただいま珍しい“トンネル野生ハト”が飛んでおります。」
見てみると、本当に暗闇に目を光らせたハトがホバリングしていた。乗客全員、拍手した。
トンネルの中には、なぜか「トンネル駅」まであった。
駅名は「黒暗町」。
ホームでは商店街まで開いていて、「トンネル饅頭」や「出口まだ?Tシャツ」が売られている。
ついに出口が見えてきた時、アナウンスが響いた。
「大変申し訳ありません。只今線路トラブルが起て出口が工事中になりましたので、逆戻りさせていただきます。」
乗客一同「ええぇぇぇぇ!!!」と総ブーイングが起きた。
武田は悟った。
……もう会社に着くことはないのだ、と。